第67話 亜人
俺は、レイと共に広場の中央に向かって歩き始めた。
広場の中央には、
壇上に丸太が3本建てられている。
そのうち真ん中の一本は、
左右の丸太よりも数メートルほど長い。
その丸太にどうやら括り付けられているらしい。
視力は両目とも1.0
もう少し近づかないとわからないが、
中央の丸太に括り付けられている人!?は、大きかった。
そして、頭に一本大きな角が生えていた。
尻尾もあり、筋骨隆々で足も腕も太い。
両腕をバンザイした姿で括り付けられていた魔族は、
全身を深紅に染めていた。
「おお、
あれが魔族か」
「ナツキは魔族を見るのは初めてか?」
「ああ。
レイは?」
「私は昔に何度か見たことがあるな」
そういった後、レイは指さす。
中央の丸太ではなく、その隣の丸太を。
「あれが亜人だ」
「え?」
亜人?
え……
え…………
え………………
え……………………???????
え?え?ええ???え??え?
いや、
いやいやいや、
おかしいだろ!?
亜人?
あれは違う。
あれは亜人なんかじゃない。
右側の丸太に括り付けられた“亜人”は、
額から血を流し、手から、足から血を流し、
すでに息絶えていた。
左側の丸太に括り付けられた“亜人”はまだ生きていた。
辛うじて息はある。
そんな程度だ。
だが、その“亜人”めがけ石が投げられていた。
1つではない。
2つでもない。
たくさんだ。
まるで玉入れ競争のように、
広場に集まった人々はその“亜人”めがけて石を投げる。
「あ」
ひときわ大きな石が“亜人”の頭に当たり、
その“亜人”は…………
息絶えた。
広場では歓声が上がる。
「あまり見ていて気分のいいモノではないな。
行こう。
??ナツキ?」
レイの言葉は聞こえていた。
でも理解できなかった。
なぜなら俺の頭はすでにキャパオーバーしていたから。
……マズい!!
口を手で押さえ、
一目散に走る。
広場の中央とは逆の方角へ。
路地に入り、
嘔吐した。
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「ナツキ!?
大丈夫か?」
いつの間にか後ろにいたレイが
背中をさすってくれていた。
胃の中全てぶちまけた。
魔族や亜人が処刑される―――その覚悟はあった。
でも俺の思っていた亜人とこの世界の“亜人”は違う。
“亜人”と呼ばれ、処刑された人は
―――――人間だった。
確かに人間だったのだ。
角があるわけでも尻尾があるわけでもない。
俺のいた世界では、こう呼ばれている人間だ。
黒人と。
***********
結局その日、
ハローワークもどきに行くことはなかった。
心配したレイが、今日は休もうと提案してくれたのだ。
それがいい。
その言葉に甘えさせてもらおう。
亜人について、
いやこの世界について、
俺はもっと知らなくてはいけない。
借りたのは安宿。
一部屋、ベッドや布団などは備えついていない。
そこで、レイと二人だ。
飯は、のどを通らなかった。
「レイ、亜人っていうのはなんなんだ?」
部屋の中央で腰を下ろしている俺とは違い、
レイは窓際に寄りかかっていた。
「……私も詳しいわけではないが、
亜人とは、人の亜種と言われている。
ヒトのように知能が無く、殺すことしかできない獣だと聞いたことがある。
師匠は魔族に与するものの総称と言っていたが。」
「肌が黒いのは?」
「ん?
確か、魔族の証として悪魔と契約したからだったか!?
たぶんそんな感じだ。
あと人から聖が落ちた亜人もいると聞いたことがあるな」
「聖?
聖が落ちる……?」
「ああ、聖が落ちると白くなるらしい
あの広場にはいなかったがな」
「白くなるね……」
そりゃ白人だ。
亜人?
黒人白人差別だろ。
どうなってんだ?
「亜人はどこにでもいるのか?」
「??
いや、そういえば、
師匠が大陸南の国のないところが生息地とか言ってたな」
てことは、
この世界では、
南に、いわゆる白人黒人という人種が住んでいるのだろう。
今まで見てきた人は、分類するなら黄色人種だな。
亜人とやらが魔族と組んでいる。
それが本当なら、
魔族は人類の敵というのが
そもそも間違いだぞ。
考えれば、
考えるだけ謎は深まった。
俺にしては真剣な表情だったのか、
レイは長いこと何も言わず、
待っていてくれた。
俺が思考のオーバーヒートで
一息入れようとした時、
「ナツキ、
私も聞いていいか?」
「ん?
ああいいよ」
「黒人とはなんだ?」
「えっ?」
「さっき、広場でそうつぶやいていたのが聞こえてしまってな」
レイは真っ直ぐ見てくる。
本当のことをいうか!?
いや、亜人はヒトだ。
そう言うのは簡単だ。
だが、その考えは地球のものだ。
納得いく説明をするなら異世界転移を話さなければならない。
だが、それはまだ早いと思っている。
「いや、いい。
また話せるときに話してくれ」
俺が言葉を発するより先に、
レイはこの話を切り上げてしまった。
「ごめん」
「大丈夫だ。
私は待つよ」
レイは、このときナツキが帝国出身ではないと確信しはじめていた。
“黒人”ということ言葉は、
以前に一度だけ聞いたことがあった。
確かそれは師匠からだ。
師匠の言葉を思い出す。
黒人も白人もヒトじゃ。
そんなことを言っていた。
ナツキなら、白人というのも知っているかもしれない。
今度聞いてみよう。
レイはそう思った。
***********
ラルフ山
そのすそ野
イリオス州とニーサ州の境目付近。
一台の馬車がイリオス州へと向かって行く。
「兄貴、
上々ですな」
「ああ、
まさか感応者が手に入るとはな」
「にしてもこのガキ
どうします?」
2人の男の足元で、
ボロボロの少年が血を吐きながら
「妹を……返せ……」
戦っていた。
「ちっ
汚い手で兄貴に触るんじゃねぇ!」
数度蹴りを入れられ、
それでも掴んだ手は離さない。
「まぁ、殺しはやめとけ
ここじゃ足がつく」
「わかってやす
でもこいつ、しつこいですね」
「妹――」
顔面を蹴られ、
その言葉の続きは、声にならない。
「感応者って時点でダメなんだよ
分かるか?
軍や教会、俺たちのようなやつらに追われていつまでも逃げ切れるのか?
無理さ
それを有効活用しようってんだ
感謝してほしいくらいだぜ」
「さっすが兄貴!!優しい」
「ああ、
俺はいつだって紳士だからな」
少年は意識を朦朧とさせながら、
それでも力を振り絞った。
「返せ――」
「はは、
まぁ俺たちも無理矢理はよくなかったな
ほれ、これが妹の料金だ」
少年の手に男は一枚の銅貨を握らせた。
この国で使われている一般的な銅貨。
「それでお前さんの妹を買いとるよ」
男たちは笑いあう。
「兄貴は優しい!!
金まで払うなんて!」
「よせよ
人として当然さ
ま、そういうわけだ」
そういって、男は、
少年を馬車から投げ捨てた。
このとき、
すでに馬車はイリオス州に入っていた。
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