第65話 プロローグ4 ~人類の最前線~
本日より
第4章 セントフィル都市連合編
開始いたします
人類連合軍
連合軍選抜隊駐屯地より南に10km
最前線――
草原地帯に陣を張るのは、
人類連合軍の選抜隊
「警報を鳴らせ!!」
「敵だ!」
「魔族確認!!」
「個体数10体」
辺りに一面に耳を劈く警報音が鳴り響く。
草原から前方の森林を監視していた魔法師は、
森の中に複数の魔族の姿を確認した。
騎士や魔法師は戦闘配置に付き、
事態に備える。
「クソッ!!
なんてタイミングの悪さだ
あと10日で後方勤務だったってのによ」
「そう言うな。
来ちまったもんはしかたねぇ~」
「しかたねぇって……
ここ4ケ月何もなかったのに!
クソッ!!」
悪態をつく騎士は、
自身の剣を強く握りしめる。
魔族との戦闘において、
始めに接触した部隊の生存率は5%を切ると言われていた。
魔族との戦闘のセオリーは、
遠距離からの飽和攻撃となりつつある。
騎士の任務は、
魔法師の準備時間―大規模魔法の行使のための時間稼ぎである。
「せいぜい俺の命を無駄にしないでくれよ」
警戒ラインを超えた魔族へと次々に騎士が斬りかかる。
4か月ぶりに最前線で魔族との衝突が始まった。
*******
「グール大隊長
敵騎士の行動開始を確認しました」
草原と森林の境目。
森林側から草原側を見渡すは、魔族軍。
草原を疾走し、騎士が数十人、
森林側に向かってくるのが見えていた。
「よし、作戦を開始する」
グール大隊長と呼ばれた2mを超す大男は、
背中に大剣を背負い、騎士らの下へ走り始めた。
「大隊長出陣!
プランMR開始」
その声と同時に森林の中から
5人の魔族の戦士が大隊長に続いた。
「メイベル
あとはお願いしますよ」
その声は、辺りで鳴り始めた金属音にかき消された。
**********
大剣を横なぎに、一振り。
数人の騎士がはじけ飛ぶ
「どうした騎士よ
その程度か!?」
グールの大剣を振り上げる動作で
引き起こされた上昇気流は
3人の騎士を空中へ放った。
そして、振り下ろした大剣により地割れがグールを中心に蜘蛛の巣状に広がる。
「この化け物が!」
「誇り高き魔族の戦士になんと失礼な!」
悪態をつく騎士に言葉を返しつつ、
襲ってくる騎士を全て押し返す。
両者の間にはそれほどまでの大きな差があった。
それからおよそ10分間。
戦闘は続き、そして終わった。
立っているのは、無傷の魔族のみ。
騎士は全員地に倒れていた。
しかし、全員息はあった。
「やれやれ、
どうだ?」
戦闘を一人でこなしたグールは、
後ろを振り返り、尋ねる。
他の戦士は、答えない。
首を横に振る。
「予定通りならそろそろだがな」
森の中で光の点滅が3回。
これは事前に決めてあった作戦成功の合図だった。
「どうやら上手くいったようだな
撤退する」
そう言って、
森のほうへ動き出そうとしたその時――
「大隊長ッ!!」
その叫びは
直後起きた爆音でかき消される。
そして、高く舞い上がる土煙。
5人の戦士には何が起きたのかわからなかった。
ただ、ものすごい魔力の接近を感知できただけ。
5人は辺りを警戒する。
土煙が収まると、
そこには、大きなクレーターが出現した。
そしてその中心には、
グールともう一人。
グールは大剣でギリギリ受け止めた。
もう一人の剣を。
その可憐な少女の折れてしまいそうなほど細い剣を。
かろうじて。
しかし、大剣はひびが入り、
今にも折れてしまいそうであった。
「な!?」
土煙が収まり、
グールは目の前の人物を視界に入れることができた。
そして、目が見開く。
(ハーメリックッ!!)
グールはその人物の名を内心で叫ぶ。
その人物を遠目にだが、
見たことがあったから。
その少女の名は広く知られている。
魔族の中では、もっとも忌むべき名として。
人類にとっては8大英雄の一人として。
セシリア・オルト・ハーメリック
人類の“勇者”である。
お読みいただきありがとうございます
今日も晴れ




