SS リア、お料理頑張る
今回は番外編のSS
リアが主人公です
無能お荷物の逆転!!異世界転移番外編
時系列的には第1章第11話
*********
相沢夏希がケガをした。
担当メイドのリアにその知らせが届いたのは、
その日の昼下がりのころだ。
なんでもクラスメイトとの“訓練”でケガをしたとか。
ナツキの部屋を清掃していたリアは、
すぐに医務室に向かった。
****
「あ、あの、
ナツキさんは?」
医務室で眠っていたナツキとそのそばにいるクラスメイトを視界に入れつつ、
リアは尋ねた。
「骨折程度です
命に別状はありません」
姿は見えないが、
医務室の方が奥から返事をしてくれる。
医務室は部屋の中に、
ベッドが6つ。
左右それぞれ3つずつ。
奥に医者のいる部屋がある。
そんな造りで、
ナツキは右手前のベッドに寝かされていた。
「そ、そうですか」
ふっ、と力が抜けるリア。
よかった、
そう声に出しながらナツキのそばにやってきた。
「あなたが相沢君のメイドさん?」
「え?
あ、はい。
そうです。
担当メイドのリアと申します」
黒目黒髪の綺麗な女性は、
ナツキの手のひらを両手でそっと包みながら
頭を下げた。
「初めまして。
私は日咲紅里です」
異世界の文化では、
身分関係なく頭を下げるらしい。
メイドに頭を下げるなど聞いたこともなく、
まだそのことになれないリアは戸惑った。
「えっと、
よろしくお願いします
えっと、
なにか
えっと……」
「相沢君のメイドさんが
いい人そうで安心しました。
後は任せても大丈夫?」
「は、はい!」
ぺこっとお辞儀をすると、
紅里は名残惜しそうにしつつも部屋を後にした。
任されたリアは考える。
何をしようと。
医術に関して心得がないリアに診察や治療はできない。
しばらく考えて、
思いつく。
昔、まだ母と一緒に暮らしていたころ。
熱を出してつらかったとき、
麦がゆ、という病人にやさしいご飯を作ってくれたことを。
麦がゆ自体は、
何度か作ったことはある。
帝都に来る前に勤めていたお屋敷で、
作ったことはあったが、
そのときはこんなまずいモノは食えんと言われてしまった。
「よし!」
リアは、何度か悩みながらも麦がゆを作ることを決めた。
材料を集めよう 1
麦がゆにもっとも必要なものそれは小麦である。
帝城の厨房に行き、それをわけてもらうことにした。
「あ、あの~」
「なんだい?メイドさん?」
帝城で内では、衣服により、
その役職がはっきりわかるようになっている。
見た目13歳でもしっかりメイドとして扱ってもらえる。
「あの、小麦を少し分けてもらいたいのですが……」
「小麦?
何に使うんだい?」
「えっと麦がゆを作ろうと思いまして」
「むぎがゆ?
なんだそりゃ?
誰の指示だ?
厨房や食品は宮廷料理人以外扱うのは禁止だぞ」
「す、すみません
えっとナツキさん
じゃなくて異世界人の方の――」
「ああ、わかった。わかった」
説明しようとしたリアの言葉を最後まで聞かず、
その料理人は、厨房から一袋、
小麦の入ったそれを持ってきた。
「異世界人ねぇ~
大変だな
料理なら隅のほうでやってくれ」
現在、帝城内の全ての人間にはある指示が出されていた。
それは、異世界人を優遇しろというものだ。
これに背けば、即刻死がまっている。
基本的に厄介なことには関わりたくない者が多い中、
異世界人という単語は、もっとも効果のある単語だった。
自分は指示に従っただけ。
厄介そうな理由は聞いていない。
その姿勢でいたい料理人にとって
それ以上の会話は必要なかった。
こんなわけで、
リアは厨房を使う権利と小麦を手に入れた。
材料をあつめよう 2
麦がゆに入れる薬草を探しにきたリア。
帝城内にある薬草園に来ていた。
そこは、ナツキが図書を探していた建物の裏手を少し行ったところにある。
建物内は一定の温度に保たれ、
いろいろな薬草が栽培されていた。
薬草を管理している薬草師も料理人と同じで、
すぐに許可を出した。
「で、どんな薬草が欲しいの?」
「えっと、
食べられる薬草で、
ケガの直りが早いものとか
元気になるようなものとかを
お願いします」
「つまり、
病人に出すようなものね!?」
「は、はい」
「食べられるってことなら
山菜として美味しいものにした方がいいわね
で、どんな料理と一緒にするの?」
「えっと麦がゆです」
「むぎがゆ?
まためずらしいわね」
そう薬草師は言った。
麦がゆ自体を異世界人のリクエストとしてとらえた薬草師はそれ以上言わなかった。
麦がゆなんて帝国ではほとんど食べられていないのに、と。
リアもめずらしいという言葉を聞いて、
やっぱり身分の高い方にお出しするのは、失礼なのだろうか!?
と考えたが、もう麦をもらってしまった以上、
最後までやり遂げようと思い直した。
食べられる、
味もそこそこの薬草もとい山菜を
いくつかもらい受け、
リアは次の材料集めに向かった。
材料をあつめよう 3
調味料
リアの食べた麦がゆは味がほとんどなかった。
いくら山菜を入れたからといっても
あまり味には期待できない。
だから、なにか調味料を入れようと思い、
厨房を訪ねると、
倉庫に行ってくれと言われた。
なんでも厨房には、
その日使う物を倉庫から持ってくるので、
余りがそう、多くないという。
以下閑話
日本では、食材を保存するための便利な冷蔵庫などがあるが、
帝国には存在しない。
その代わりに、魔法を用いた冷蔵、冷凍保存の技術は存在する。
が、それはかなり大掛かりなもので、
帝城の地下でまとめて行われている。
そのため厨房には余分な食材や保存のきかない食材・調味料は置いていない。
なお、小麦は常温で保存可能で厨房にある程度備え置きがある。
以上閑話
倉庫に行き、これまた同じようにしてお願いをして、
同じように許可をもらう。
調味料として、
小魚を乾燥させたものと、
塩・胡椒を少々もらい受けた。
厨房に戻り、いざ開始する。
「えっと……」
記憶をたどり、
作り方を思い出していく。
今日は小魚があるからそのダシを取るところから。
リアは厨房で一人、料理を始めた。
鍋に水を入れ、小魚を加える。
20分ほど出汁をとる。
その間、小麦を砕き、
それを、ダシを取り終わった鍋の中に入れる。
山菜は一口サイズに刻んでいく。
山菜も鍋の中に入れ、
小麦が柔らかくなるまで煮込み続ける。
十分柔らかくなったら、
塩コショウで味を調えていく。
濃すぎず、薄すぎずを心掛けて。
「ナツキさんは食べてくれるでしょうか?」
作りながら不安が少しずつ
でも確実に大きくなっていく。
前のお屋敷では、
マズいといってお盆ごと投げられた。
ついでに頬を殴られた。
そういえば、
ナツキさんのメイドを始めてからまだ一度も手を上げられたことがありませんね。
出来上がったそれは、
リアにとってはちょっと濃いくらいの麦がゆだった。
「よし!」
お盆を持って医務室へ向かうと、
中から悪態が聞こえてくる。
「クソッこれじゃ飯も食えないな。」
「仕方ありませんよ。
今日はこれで我慢してください。」
つとめて冷静に、
でも本当はドキドキしながら部屋へと入った。
部屋に備え付けの机の上にお盆をのせる。
「わざわざサンキュ」
あっ、
ナツキは小さい声でいただきますというと、
勢いよく食べ始めた。
一言二言文句を言われると思っていたのに、
なにも言われない。
そのことに驚き、
リアは硬直してしまった。
「ごちそうさま
ん?どうした?」
「い、いえ、全部食べたんですか?」
まさか、全部食べてくれるなんて……
作ってはみたものの、
少しでも食べてくれれば、
と思っていたこともあり、
さらに驚くリア。
「これは味もしないですし、
貴族の方にお出しすると必ず怒られますので。」
そう、前の時はすごく怒られたのだ。
その違いにただただ戸惑う。
「いや、俺貴族じゃないし」
「??
そうなのですか?」
「そうだろ。俺たちは一般人だぜ。」
一般人と言い張るナツキを見て、
少し笑顔になった。
ナツキさんはただの貴族とは違うのかもしれない。
文字を教えてくれることや、
メイドにお礼を言うこと。
そんなこれまでを思い出していた。
「ふふっ、ナツキさんはおもしろいですね」
この方にしっかりお仕えしよう。
お仕えしたい。
リアはこのとき、そう決意する。
後日、ナツキが姿を消し、
ナツキにもらったボールペンを握りしめながら新たな決意をすることになるのだが、
それはまだ先のお話。
お読みいただきありがとうございます
今日も晴れ




