第64話 エピローグ3 ~動き始める世界~
ナツキとレイの脱出より1週間後
ナツキの起こした事件は、
名のある盗賊団数十人による襲撃であった、
と街の人々に発表された。
それを退けた領主軍は、
街の人々よりさらに称えられることとなった。
一方、
内情として、
国王陛下によりブルガルタ領主の王都召喚が決まった。
またその間、
正式には別の者が領主の代行として拝命されていたが、
今までの実績をかんがみて、
実質レグルスが全権を代行することとなった。
全権を得たレグルスは、
ブルガルタ領主の妾や侍女など
自らの意思とは別に連れてこられた女性たちおよそ50人の
意思を確認した。
帰りたいものには多少色を付けて給金を持たせ、護衛付きで家へ送り届け、
残りたいものには、それぞれに見合った仕事を与えた。
そして、今まで以上に領主軍、国境警備隊の強化へと乗り出し、
この街の守護に貢献することとなる。
また、今回損壊した建物の立て直し工事の中には、
下水道の改修・修繕も含まれていた。
余談として以後、
ラープの街の騎士団で、
ある人物の二つ名が頻繁に聞かれるようになる。
それは新兵の訓練で、その男の非道な戦い方を
それは酒場の席で、その男の変態さを、
それは座学の時間で、その男の侵入手腕を。
その男は、恐れと屈辱を込めてこう呼ばれている。
“孤高の変態”と。
当の本人、ナツキには知る由もなかったが。
********
ラープの街より北東に1日の距離。
背の高い森林が広がる人の手が行き届いていない地帯。
その中の、低い山の中腹。
1人の黒いローブを纏った男が立っていた。
男は懐から小瓶を取り出し、
その中に入っている赤い液体を数滴、
目の前の空中へなげた。
すると、
男の見つめる先、
液体は空中で静止し、
その周囲の空気、否、空間が揺れ始める。
次第にそれは波紋となり、
大きさを広げていく。
半径1mほどの円形に波紋が広がったところで
それは一瞬暗転し、
次の瞬間にはどこか別の景色を映し出していた。
映し出されたのは、簡素な椅子のみ。
その奥や周囲は暗く、
見ることができない。
数秒後、
光の粒子がキラキラと舞い始め、
次第にそれはヒトのカタチを成していく。
少しして、粒子は女性と思しき姿となった。
白い布のみを身に着けている女性は、
椅子に座る。
黒ローブには女性の顏以外が映し出されていた。
黒ローブの男は、
そのままのローブを外すことなく、
話し始めた。
「報告いたします
彼は権利のひとつを獲得しました」
「まぁ!、まぁ!、まぁ!
早いわ~~
どれ~?」
「第4の素です」
「まぁ!
もう“火”は使えないのね
いいわ~~
すごくいい!」
「第2、第5、第7についても兆候が出はじめています」
「早いわね
それもそうね
あの人が選んだんですものね
それで彼は?」
「セントフィル都市連合へ向かいました」
「そう~
無理そう?」
「……申し訳ありません」
「仕方ないわ
魔族の貴方じゃ大変でしょうからね
それにしても早く逢いたいわ~~
彼に会ってみたい
ああ、会って――」
恍惚とした表情を浮かべているのだろう、
そんな声は、
一瞬冷たさを、憎悪を、
帯び、
「……」
「会って、早く殺したいわ~~」
そして、また元に戻った。
「他にも報告があります
シェルミア王国の部隊の一部、
東海流“海龍”、
八大英雄“万拳”、“聖女”が帝国入りしています
そして、
聖人が3名ほど帝都内で確認されています」
女性は聖人の言葉に反応する。
「ダメよ~
今はまだ、ダメ
でもそう遠くないわ~」
「心得ています
今は、
情報収集に専念します」
“今は”その言葉に黒ローブは、
アクセントを置いた。
「次の報告楽しみにしているわ~」
その言葉を最後に、
空間の歪みは、消えていく。
そこには、もう誰も残されていなかった。
*************
「心配じゃの~~
ワシも行きたかったの~~」
ベットの上でピョンピョンと跳ねる子供がひとり。
「駄々をこねないでください!」
それを白衣のようなものを着た女性が宥める。
「イヤじゃ!
ワシも”異世界人”を早う見たいわ!!」
「だからもう少しの人辛抱ですよ
えっと確か、あと4か月!?」
「長い!!
長すぎる!!」
「我慢してください」
「もしや、
あやつ、
場所を間違えたのではあるまいな!?」
「ちゃんとアスナ共和国って言ってましたよ」
「だから、あやつが間違えたんじゃ!」
「でも、最初に彼を信用できると言ったのはお師匠様ですよ」
「うっ」
「それに他の方にお願いしたんですよね
なら待ちましょう」
「うっ」
「それで誰にお願いしたんですか?」
「脳筋とビッチじゃ!!」
「……」
「心配じゃな~~」
なら最初から別の人を送れば、とは今はもう言えない。
仕方なく他の提案をする。
「今からでも他の方を送られては!?」
「それならワシが行くわい!!
ああ~~
早う、早う
会いたいわ~~」
またその子供はベットの上をピョンピョンと飛び跳ねる。
「はぁ~
まるで子供のようですね」
「バカを言うでない!
ワシはこれでも500は生きとる!」
「なら、それなりの態度をしてください
今の態度はどう見ても子供にしか見えませんよ」
「うるさい!
楽しみなもんは楽しみなんじゃ!
お主こそ、最近ババ臭いぞ」
「なっ!?
私はまだ20歳です!!」
しばらく話して女性は部屋を出る。
仕事があるそうだ。
「ああ、
異世界人
楽しみじゃな~~」
少女の楽しそうな声は、
いつまでも響いていた。
第3章 ルマグ王国編 完
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