第60話 決戦 中編
この男がレグルス――
俺が、一番戦いたくない野郎だった。
と、そんなことはいい。
「このデブ!!
レイから手を離せ!」
そう、そのデブはなんとレイの肩を抱いているではないか!?
おそらくあのキラキラ装飾多加な男が領主のブルガルタに違いない。
「なっ?!
デブ?吾輩をデブとな!?」
「ああそうだよ。
でぶのブルガルタ!
てめぇーなんてデブタで十分だ!」
生まれて10と7年
未だかつてここまで人に暴言を吐いたことはなかった。
そうこう話していると、
レグルスが動き出した。
レグルスは剣の柄に手を添える。
強化した動体視力でその動作を見つめる
筋の動きが見える。
チカラを入れたのだろう。
そこから剣が抜かれるはずだ。
騎士の左に側から剣を抜くなら“今”は右が無防備になる。
残りの展開中の矢を全て騎士右側に叩き込む。
瞬間――
矢は透明な壁に当たったかのように阻まれ、霧散した。
「なっ!?」
剣を抜かれる!?
警戒して後ろに飛ぼうとして、
斬られた。
「あああああああああ!!」
いてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
「ナツキッ!!」
肩が!!!
斬られた。
「ぐぐううああうあぐぐぐうう」
右の腕が動かない。
血が噴水のように、
飛び続けている。
体中から汗が滴る。
尋常じゃない量だ。
だが、もっとも問題なのは失血量だ。
どこにこれだけあったのだ!?
というほどの血が流れ出ているのに、
さらにあふれ出る。
クソッ!!
クソクソクソッ!!
斬られたところに左手を当て回復魔法を使う。
《回復魔法》
痛いぃぃぃぃぃぃッ!!!!!
止血出来た。
だが、そこはまだ完治していなかった。
右腕もロクに動かせない。
激痛が俺を襲い続ける。
「ぐぐううう
はあああおおおごお」
ろれつが回らない。
頭が重い。
感覚が急速に失われつつある。
マズい。
マズいマズいマズいマズいマズい
ここで意識を失えば、ジ・エンドだ。
必死に魔石袋を漁り、
一際大きい石を取り出す。
「ほう、魔結晶石
それも高純度のものか」
誰かが何か言っているようだが、
言語として認識できない。
何も考えず、
考えられずに、
ただただ俺は回復を願って魔法を発動した。
《回復魔法》
………………………………
「はぁーはぁーはぁー」
痛みは消えた。
なんとか回復できた。
血も止まり、
傷口は塞がり、
貧血っぽい症状は治まった。
でも、勝てるのか!?
この男に?
「見事な回復魔法だの。
じゃが、若すぎる。
動体視力と筋力を強化するのはいいが、
フェイントの動作にああも反応してはのぉ~
見えない攻撃への対処も杜撰。
素人丸出しじゃな。」
クソ!
素人だよ
そうだよ。
平和を愛する国―日本で生まれ育ったんだから当然だ。
「それでもッ!!」
しかし、言葉を続けることはできなかった。
「人も殺せん覚悟で粋がるな
小僧!!」
「――ッ」
心臓を掴まれる、
とはこのことを言うのだろうか。
息ができなかった。
自分の身体が全く動かない。
これが殺気。
これが“本物”
「こ、殺しなら、
俺はもうお前らのとこの騎士を100以上殺したぞ!!!!」
殺し。
自分で言うとさらに重みが増す。
100という数にも――
100以上なんて大規模なテロと同じじゃないか!?
それを俺は一人で――
「バカ言えーー!!!
誰も死んどらんわ」
俺の背後から怒鳴り声。
ボロボロの身なりの騎士だ。
煤だらけで頭もだいぶ焦げている。
「でも、あの攻撃で生きているとは――」
「ふざけるな!
あれだけ高威力の攻撃魔法の予備モーションを見せておいて、なめとるのか!!
黙って見ているほど我が騎士団は落ちぶれとらんわ!!」
「副団長かの
全員無事なのかの?」
「命に関わる者は一人もおらん」
そうか……
それは、
なんというか、
よかった。
少し肩が軽くなった。
こんな時に何を!?と自分でも思うけれども仕方ない。
「まぁよい。
小僧、死ぬ前に名乗りの機会を与えよう」
魔石は1セット。
通常の魔石と金色の魔石。
内包魔力総量は、大きさから後者だろう。
勝てない。
絶対に勝てない。
剣を抜くか!?
そうこう考えていたら、身体が重くなり出した。
時間切れ
身体強化の魔法の効果が切れたのだ。
背中に背負っている剣の重みが増す。
今まですっかり忘れていたのだが、
そういえば剣を背負っていたのだった。
そう思うと身体強化の魔法はかなりすごいな。
剣で戦う……
――無理だな。
レグルスに生半可な剣術が通用するとは思えない。
レイ。
どうすれば!?
そう思い、レイを見る。
レイは視ていた。
俺を。
その透き通るように綺麗な透明な美しい瞳で。
俺をしっかり視ていた――
ああ、俺は一人じゃなかったんだな
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今日も晴れ




