第58話 真実に近づきし者
「あのバカども、やり過ぎだ」
竜の暴れる光景と、ナツキの起こした大爆発の煙を同時に眺めつつ、
店長は目的の場所にたどり着く。
領主の屋敷のさらに北。
ラープの街で最も高く街全体を見渡せる警備隊所有の塔のその上。
そこには、黒いローブで全身を覆っている男がいた。
塔の屋根、向かい合う2人の間は4,5mほど。
「近頃、視線が気になっていてな
どういう了見か、聞かせてもらおうか!?」
「やはり、貴方は気が付きますか
ロキセ公国騎士団長殿」
「……」
「いえ、ここは
サーマル王国王国軍元将軍“万拳”
とお呼びした方がいいですか?」
「ッ!?
てめぇー」
店長は戦闘態勢に入る。
ある程度の腕の相手だと予想していたが、
自身の素性、それも隠している方を知っているとなれば話は別だ。
この男の危険度を上方修正する。
8大英雄“万拳”は、
公には今も最前線で魔族と戦っていることになっている。
しかし、各国の上層部や軍関係者の知っている“真実”は、
10年前の第3次人魔大戦で魔族軍の将軍と刺し違えになり、
“万拳”はすでに死んでいる、というものだ。
店長が“万拳”で、
なおかつ今も生きていると知っているのは、本当にごく一部。
イブをはじめとしたリーフスティの面々でさえ知らないことだった。
それゆえ、店長は警戒する。
「私は戦うつもりはありません
一線を退いたとはいえ、
貴方に勝てると思うほど私は愚かではありません
それにあのお方にも釘を刺されていますしね」
「はいそうですかってなるわけないだろ!!」
店長は右拳を振り上げた。
瞬間――
拳により空気が圧縮され、
その圧縮空気は砲弾となり、
黒ローブの男めがけて一直線に飛ぶ。
黒ローブは抵抗するでもなく避けることもしない。
直撃するかに思われたそれは、男の前でただの風に変わっていた。
一方は風を受けながらその威力調節された攻撃に対して感嘆し、
もう一方はそれを見切る相手の度量に警戒を強める。
2人の距離は未だ数メートル。
「危ないですね」
「答えろ!
何が目的だ?
なぜレイを監視している!?」
「なるほど!」
男は1人納得する。
ローブで隠れている顔が、ひとつ頷いた。
そして、若干視線をずらしながら答える。
「ご安心ください。
視ていたのは彼女ではありません」
「なんだと!?
なら一体だれだ!?」
「彼ですよ」
「ああ!?」
彼、これに当てはまる人物はそう多くない。
最近のことと言うことも含めて考えると答えは自ずと一つになる。
「ナツキのことか?
どうしてあいつを!?」
「あまり詳しくは言えません
強いていうなら
彼が“異世界人”だから、でしょうかね」
「いせかいじん……だと!?」
そう話していた男は、屋敷を“視て”、
そして、笑った。
「現れてきましたか。
合格です。
彼は今、“資格”を持つための“権利”を得ました」
「おい、何を視ている?」
店長からでは、
屋敷しか見えない。
西側では大きな煙が、
東側では蒼い竜が見えるが、
男は別の何かが見えているようだ。
「あの方にご報告せねばなりませんんね
それではまたの機会に」
「な!?」
男は消えていた。
万拳はこの現象を一度見たことがあった。
人魔大戦において。
「魔族か」
転移の魔法
それを使えるのは魔族だけだと言われている。
ひとり残された店長は、
なおもその場にとどまり、
男の言葉を考え続ける。
“異世界人”という言葉について。
日は沈み、闇が支配し始める夜が始まった。
*************
「うらぁぁぁ!!」
屋敷の門番の騎士を一撃パンチで殴り飛ばす。
自らの成果を確認することなく俺は全力疾走した。
寄宿舎を後にして、
ついに屋敷への侵入に成功した。
警備の騎士は数名で、
もうこそこそする必要がないので正面突破する。
警備の少なさから先ほどの戦闘で
騎士はあらかた片付けたと思ってもいいだろうと俺は判断した。
身体強化と回復魔法で難なく扉をぶち壊し、
見張りの騎士、2人をノックダウンさせ、
強行突入。
一階は制圧完了。
魔石が残すはもう10セット。
晩餐会の会場になっている3階の部屋まであと少し。
俺は今2階への階段を駆け上がっていた。
屋敷の階段は、
普通の階段と違い直線状の通路が段上になっているタイプだった。
2階から3階への段差の始まりの位置に2人、
警備の騎士がいる。
気が付かれた!
「なんだ、貴様!」
「止まれ!」
俺は慌てることなく魔石を準備する。
俺と騎士たちの間はかなり離れている。
騎士の間合までまだいくらか距離があるだろう。
これなら遠距離攻撃で無力化した方が安全確実だ。
魔石を1セット使うが致し方ない。
《回復魔法》《火球》
何度と繰り返してきた、
俺が一番使って来た魔法の一つ。
すでにイメージ無しでも使うことのできる魔法だ。
その“火球”は、
相手騎士に当たることなく、
その途中で消失した。
「なッ!?」
ヤバい!!
火球が消えたことに焦ったが、
寸前で持ち直し俺はもう一度魔法を使う。
《回復魔法》《火球》
発動と同時に、
いつも通り光に包まれる。
そして、
いつも通り回復魔法は発動したが、
右手に持つ魔石は光を発することなく――
砕け散った。
(――ヨクヤッタ――)
不発!?
クソッ!
眼前に騎士が迫る。
剣を構え、
抜剣。
咄嗟に後ろに飛び下がる。
一跳躍で3mほど。
身体強化の魔法は継続している!?
ならば!
《回復魔法》《氷礫》
今度は、
いつも通りの発動手順で魔法は発動した。
数個の氷の礫は騎士へと一直線に向かい、
彼らに直撃する。
俺は騎士らの無力化に成功した。
「ふぅ~
何とかなったな」
今回はヒヤリとした。
魔法を発動した魔石は、
いつもと同じように壊れ、使えなくなる。
だが、先ほどのように砕け散ることはない。
魔石によっては
魔法が不発する場合もあるということなのか?
これは注意しておかないとな。
にしても……
魔法が不発に終わったとき、
何か頭に声が響いたような気がしたが、
なんだったんだろう!?
おっと、
今は別のことに気を取られている場合ではないな。
魔石の残りは7セット。
3セット消費したが、
魔法の不発が
まだこの場面でよかったと思うしかない。
その後、会場の警備騎士2人も無力化する。
魔石残り6セット。
会場の扉の前までやって来れた。
この扉1枚の先にレイがいる。
さぁ
行こう。
俺は、扉をぶち破った。
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今日も晴れ




