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無能お荷物の逆転!!異世界転移  作者: 今日も晴れ
第3章 ルマグ王国編 ~俺はラープの街で大切なことを学びました~
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第54話 蒼炎の竜使い 前編

 



 ナツキが新兵と戦い始めたちょうどそのころ。


 領主の屋敷の東側。

 そこには屋敷の一般関係者と魔法師の寄宿舎があり、

 騎士同様に魔法師専用の訓練グラウンドが存在する。



 そこでは、蹂躙(・・)が行われていた。


「なんだ?

 何が起こっている!?」

「竜が!!」

「うああああああ」

「退避ッ!!!」



 悲鳴が響き渡る。

 訓練中だった魔法師は突如、襲われた。



 蒼い炎の竜に。



 時間にして数分、

 ルマグ王国の中でも屈指の魔法師団のその一部は、

 何の抵抗もできずに壊滅した。



「やり過ぎちゃったかな?

 まぁ、でも殺してはないし、

 いい訓練だということでひとつ!」



 グラウンドに倒れた数十人の魔法師を眺めながら彼女は呟いた。

 視線を寄宿舎のほうに向ければ、魔法師が次々と現れた。

 数は先ほどの数倍に昇る。


 彼女は散歩に出も行くかのような軽やかな足取りで歩みを進めた。




 ****



 国境警備隊や騎士団、領主軍などの主な組織のトップは、

 全てレグルスが一任されている。

 そんな中、魔法師団だけ別の者がトップだった。


 騎士団とは根本的に戦い方が違うことや、

 実戦において後方での活動が多いことなどから

 別の者が指揮する方が合理的であるという理由ゆえのことだった。


 領主軍現魔法師団団長、

 氷の魔技ことアインスは、

 部下から信じがたい報告を聞いていた。



「訓練場に青い竜?」


「はい!

 訓練場で新兵がやられました」


 ここは寄宿舎4階のいわゆる団長室と呼ばれる場所だ。

 同じ格のはずのレグルスは、

 領主の屋敷の一部屋をあてがわれている。

 レグルスの優秀さは認めざるを得ないが、

 その所為で魔法師団の影響力が、

 ここラープの街で低いことは常々頭を悩ませる問題の一つであった。



 先のオーク討伐任務でも

 魔法師団は領主屋敷の防衛任務――お留守番である。

 そんな状況だったからだろう。

 アインスはこの状況を上に知らせる前に

 魔法師団単独で解決しようとした。

 事が終わってからの報告で十分。


 それに今夜は晩餐会。

 この程度で報告など行って

 晩餐会に影響など出れば、領主の怒りを買いかねない。

 カタチだけ領主でも怒りを買うのは得策ではない。

 それに魔法師団はその警備にも就いておらず、戦力は十分ある。

 襲撃と言っても聞けば、一人。

 たとえ腕の立つ魔法師でも、こちらは総勢500名。

 ルマグ王国でも屈指の実力者が半数を占めている我々なら一人くらいどうにかできる。


 アインスはそう考えた。



 常識的に考えてこの判断は間違っていない。

 だが、悲しいことに常識的でない事態が起きていた。

 ゆえにその選択は間違いであったとアインスはのちに知ることとなる。



 アインスが全魔法師を招集して、

 その襲撃者と対峙する。

 襲撃者――その女性は、アインスたちの準備ができるまで

 まるで待っているかのように一歩も動かなかった。


 日の傾き始めた時間帯。


「貴様は完全に包囲されている。

 投降せよ」


 アインスの部下が一応の勧告を行う。

 だが、集まった魔法師を見れば、

 それが形だけだとわかるだろう。

 誰もかれもがやる気だった。



「連中にやり過ぎるなと伝えておけ。」


 アインスがこの指示を出すほどに周囲は殺気立っていた。


 が、その女性は慌てることなく歩みを再開した。

 微笑を浮かべて。



 ****



 降伏って……

 させる気ないのによく言うね~~


 さてと!


 ポケットを漁り、“石”を取り出す。


 その石は“触媒”と呼ばれているもの。


 いっちょやりますか!



 《創成魔法【蒼い炎の竜】》



 *****



「攻撃開始ッ!!」


 辺りの魔法師が一斉に炎や水、氷などの攻撃魔法を放つ。


 が、それは女性のまわりに突如現れた竜によって全て阻まれた。


「な、なんだと!?」

「どうなっている?」

「続けろ!」


 怒号が飛び交う中、

 アインスや多くの魔法師たちが驚愕した。

 新兵の中には、その圧倒的な存在感に後ずさる者もいた。

 新兵がただ驚き、おののいている一方で、

 アインスを含めた古参の魔法師たちは確信する。



 アインスは目にしたことがあったのだ。

 その竜を。


 かつて、正確には7年前


 自身がまだ二つ名など持っていなかったころ。

 ラープの街で今と同じように国境警備をしていたある日。


 帝国が、ルマグ王国と帝国の境にある小国への侵攻を開始した。

 国といっても数百人しかいないような村のような集団も含まれていた。

 当時その小国のいくつかと友好関係を築いていたルマグ王国は、

 魔法師団と騎士団を派遣した。

 最悪、小国を制圧した帝国がルマグ王国侵攻を始める可能性さえある。

 国王の判断は懸命といえるだろう。


 だが、現場についたルマグ王国軍は帝国と戦うことはなかった。




蒼炎(そうえん)の竜使いだと!?

 ばかな……

 奴はあの時死んだはずでは!?」


「アインス団長?」


「なぜ?

 奴が?」


 女性を見つめたまま青ざめた団長を周囲の部下が心配する。


「竜使い?」

「蒼炎?」


 何を言っているのかわからないという者達と、

 まさか!?と驚愕する者達に、その場は分かれた。


「そうか……

 お前たちは知らないのだな。

 おそらくあの女は、

 今は亡きロキセ公国の魔法師

 蒼炎の竜使いの二つ名を持つ

 かの8大英雄の一人、大魔法使いの弟子

 イブ・サータンだ!」


 彼女――イブ・サータンは、

 ナツキの屋敷侵入支援のため魔法師たちの排除を開始した。


お読みいただきありがとうございます

今日も晴れ


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