第49話 準備、そして戦いへ 前編
《火飛矢》
男が叫ぶと、
空中に10以上の火の玉が現れ、ひとつ一つがどんどん大きくなる。
そして、矢の形へと姿を変えた。
眼前に4人。
一番後ろの男が右腕を俺のほうに向け、魔法を放った。
直後、10以上の火矢が高速で飛来する。
《回復魔法》《水壁》
俺も魔法を発動する。
突如、俺の目の前に水で出来た壁が現れ、火の矢をすべて受け止め、消した。
魔法による攻撃が失敗とわかると、
4人のうち、より俺に近かった木剣を持つ騎士が2人突っ込んでくる。
《水剣》
《氷剣》
木剣にそれぞれ水と氷を纏わせた。
これがおそらく魔剣術とかいうヤツだろう。
魔法と併用した剣での攻撃。
左右同時の強襲に、俺も魔法で対応する。
《回復魔法》《身体硬化》
左右の腕で、それぞれ木剣を受け止めた。
魔法による腕の硬化で痛くも冷たくもない。
2人の騎士の顔が驚きに染まり――
《回復魔法》《帯電》
俺自身が電気を帯びると、
それが木剣を伝い、騎士を襲う。
まずは2人の無力化に成功だ。
ここは、領主の屋敷の敷地内、
2重の壁の内側にある騎士の訓練グラウンド近くの小屋前。
そこで俺は4人の騎士と戦っている。
騎士といっても、
剣は木製だし、鎧なども付けていない。
おそらく訓練中の騎士か見習い騎士のどちらかだろう。
訓練グラウンドを一望できるこの位置は、当然向こうからも見ることができる。
初め、相手をしていた4人はただ単に俺の近くにいただけ。
この4人のうち2人を倒したところで、
侵入者に気付いた騎士がわんさかやってきた。
俺は今、100人以上の騎士に囲まれている。
どうしてこうなった!?
決意をしたのは昨日の晩だ。
今が、ちょうど太陽が沈み始める頃――すなわち夕方。
つまり、あれから24時間も経たずにこんな状況になるなど誰が予想できたか!?
騎士に包囲され、鼓動が速まる。
もう、やるしかない。
俺は魔石を握りしめながら、
こうなってしまうことをまだ知らない今日の朝の自分を思い出していた。
****************
「ああ!!」
俺は跳び起きた。
暗闇が支配していた空は、白み始めていた。
東の空から太陽が昇ろうとしている。
ここは、レイの家の近くにある開けた場所だ。
ここで俺は昨晩からある練習をしていた。
それは魔法。
領主よりレイを取り戻す。
そう、決めたはいいが、俺は自分の実力を過大評価しない。
このまま、魔石を握りしめ突っ込んで特攻しても、
上手くいくはずがない。
だからせめて、魔法を使える程度にはしたい。
そして、昨晩、試行錯誤の末に、
俺はこの世界の魔法のある規則性を見つけることに成功した。
これが果たして、本当に正しいのか、またどういう理屈があるのか
そういうことは分からない。
でも、今はその“現象”を最大限利用することにした。
太陽の光がまぶしい。
いよいよ完全に姿を現した。
朝だ。
俺はどうやら少し長く寝てしまっていたようだ。
当初は、太陽が昇る前に出発しようと思っていた。
少し休憩のつもりで寝転がったのだが、
昨晩の練習で相当疲れていたのだろう。
「よし」
これからのことを考える。
まず俺は暫定的にだが、
魔法が使えるようになった。
ならば、これを使わない手はない。
昨日、領主からもらった金貨とレイの家の硬貨すべて合わせて魔石を買い占める。
その他もろもろの装備もそろえる。
綿密な侵入計画を立てて、レイ奪還作戦を開始する。
計画はだいたいこんな感じだ。
俺は、気持ちばかりの朝食を流し込み、準備を始めた。
残った魔石と、床下の魔石、硬貨それらをひとまとめにする。
レイの形見と言っていた石だけは、自身のズボンのポケットにしまい、
他はすべてリュックっぽいものに入れていく。
短剣を腰に提げ、リュックを背負い、準備完了。
「リーフスティにも寄らないとな」
短い間だがお世話になった。
後であいさつに行こう。
今日は忙しくなる。
気合い入れていこう。
俺は、約2週間お世話になった小屋を後にした。
お読みいただきありがとうございます
今日も晴れ




