幕間 3 試行錯誤 ~たどり着いた間違った答え~
レイを取り戻す。
そう決意したその晩。
俺はまず、魔法の練習に取り掛かった。
魔石がたくさんある。
といっても、俺自身、魔法を使った端から倒れて気絶してはレイを取り戻せない。
夜も遅い時間帯。
俺たちの住んでいた家――小屋は、町はずれにある。
近くに住宅はなく、人気もない。
小屋から少し離れたところで俺は練習を開始した。
まずは、魔力量の調整だ。
魔石を握り、イメージをして、魔法を発動させる。
イメージはできるだけ、小さな魔法を思い浮かべる。
そう、前に大沢が見せてくれた指先に炎を灯す――
あれをイメージした
三回目でやっと成功。
だが、毎度魔法を使うたびに激しい倦怠感や脱力感、疲労が俺を襲った。
気絶こそ最初の一度目だけだったが、2度目、3度目も動けないことには、変わりなかった。
「魔力を抑えても、あんま変わんねぇ~な。」
そうなのである。
4,5,6度目と大沢の使っていた魔法を再現することには成功したが、
疲労感等が改善することがなかった。
というかむしろひどくなっているような気がした。
魔力量の大小による代償ではなく魔法を行使する代償だとしたら?
そんな考えが俺の頭をよぎった。
はっきり言ってじっくりと検証している時間はない。
魔石も有限だ。
レイを取り戻すのは、早い方がいい。
取り戻すと決めてからは、一刻も早く逢いたいという思いが強くなっていた。
「アプローチを変えてみるか!?」
アプローチを変える。
母は研究者で、行き詰ったときよくこの言葉を口にしていた。
聞くたびによく意味が分からないなぁ~と思っていたが、
今ならわかる気がする。
魔力量を抑えても、
結果は変わらない。
なら抑えるのは、無駄だ。
だから、全力で使う。
だが、全力で使うと、
著しくパフォーマンスが落ちる。
ここだな。
全力で魔法を使えば、
当然パフォーマンスの低下を抑えることはできない。
なら、一度低下させたパフォーマンスを上げればいいのでは!?
レイが使っていた“身体強化”ならどうだろう。
俺は早速試してみることにした。
大火球を夜空にぶっ放したあと、
疲労&脱力&倦怠感の中、
身体強化の魔法を使おうとした。
だが、魔石を握る手に力を入れることができなかった。
「クソッ」
ある程度回復するのを待った。
次に、俺は手ごろな大きさの石を準備した。
満身創痍の身体で、今度は身体強化のみ魔法を使ってみる。
魔法発動の瞬間、右腕を石に振り下ろす。
その最中に疲労感や倦怠感が襲って来たが、
石を砕くことには成功した。
身体強化は使うことができる、
と俺は結論付ける。
だが、身体強化では疲労は治らなかった。
たとえ、攻撃魔法を使った後に、
身体強化の魔法を使えても、
それで疲労や倦怠感が、どうこうするわけではない。
疲労や倦怠感をどうにかする……
そうか!!
回復魔法ならどうだ?
この異世界で俺は回復魔法を見たことがある。
あの謁見の間で!
それに某アークプーリストを筆頭に某アニメや漫画で、
回復魔法は幾度となく見てきた。
それゆえ、イメージが大切と言っていたが、俺なら十分だろう。
早速、俺は回復魔法だけを使ってみる。
イメージするは、淡いあたたかな光。
その光が俺を包んだ。
すると、今までの倦怠感や疲労感などがみるみる内に消え去っていく。
「おお~~
よし!!」
成功だ。
ダメージを減らす方向ではなく、
ダメージ前提で、それを回復する方向でいく。
今でも、発動直後は、指一本動かせないが、
気絶しないだけ、マシな状況だ。
あとは、どうやって攻撃魔法の直後に回復魔法を使うかだな。
その方法を考えるために、
俺は今まで魔法が使われた状況や魔法を使っている人を思い出していた。
帝国での回復魔法、大沢の魔法、葉山の魔法、イブさんの魔法、マックさんの魔法……
そういえば、イブさんは魔法を同時に使っていたな。
食器を重力制御で浮かせながら、
水を出していた。
2つ同時に使うことができれば、
どうにかなるんじゃないのか
両手で魔石を持ち、
右手は火球のイメージ、
左手で回復魔法のイメージを行う。
すると、両手が光に包まれ、
次の瞬間両側で大きな火球が膨れ上がった。
「だめか!」
発動したのは火球で数が2つ。
つまり使用した魔石はすべて火球になったということ。
どうすれば……
いっそイブさんに相談してみるか?
いや、ダメだ。
俺に加担するようなことして、
もしとばっちりを受けたらシャレにならん。
『失敗は乗り越えるもの
徹底的に観察、これが重要よ』
懐かしい。
母さんの言葉だ。
研究者だった母さんに夏休みの自由研究の相談をした。
さっさと終わらせたかったし、
失敗したくないから“正解”を教えてもらおうとした。
そしたらその言葉を言われた。
失敗するのはいいこと。
そしてそれを乗り越える。
あの時は、宿題を終わらせたくて適当な実験を教えてもらいたかったのだが。
人生なにが役に立つかわからんな。
観察。
俺は幾度となく見た、体験した魔法の状況を思い出した。
一つひとつの状況を思い出す。
魔法が使われた状況。
使用者の動き。
使った魔法。
威力。
速さ……
あった!!
糸口になるかもしれない手掛かりが!
俺は“魔法”という現象を時系列順で表わす。
すると、この世界の魔法は、以下の手順で発動していた。
使用者がイメージ。
魔力を使用。
光が発生。
魔法が発動。
そう、魔法発動には必ず、光が発生する。
そして、光の発生と魔法の発動は“同時”ではないのだ。
俺は、試しに指先に炎を灯す。
時間にしておよそ0,5秒。
魔法発動は遅延している。
見つけた。
この0,5秒がカギだ。
俺は、右手で火球を放つ。
このとき、右手が光で包まれた瞬間――魔法発動までのわずか0,5秒の間に左手で回復魔法を使った。
火球は空高く上がり、はじけた。
俺は、倒れることなく、地に足付けて立っている。
「しゃ!!」
成功だ!
とりあえず、俺は高価な魔石と引き換えに魔法を使うすべを手にいれた。
とはいえ、この世界の魔法は謎が多いな。
イメージしただけで”現象”を引き起こすことができる点。
俺の属性――無属性について。
わからないことだらけだが、今考えている暇はない。
落ち着いたらレイにでも聞いてみよう。
とにもかくにも、これでレイを助け出すスタートラインに立てた。
まだまだ考えなくてはならないことは山積み。
どうやって領主宅に侵入するか!?
どうやって騎士や魔法師を倒すか!?
前途多難だが、確実に一歩前進できた。
ありがとう母さん。
俺は心の中でつぶやいた。
*****
ナツキが魔法を練習し始めてから、
それを見つめる視線があった。
高い木の上に、危なげなく立っている。
夜、暗闇でナツキがどんなに目を凝らしても見えない距離にその視線の人物はいた。
「生物学的周期性」
その人物――イブはため息交じりに漏らす。
「こんなに速く習得できるなんて……
私は師匠に教えてもらって2ヶ月かかったのになぁ~」
視線の先では、ナツキが大の字で大地に転がっている。
相当疲れたのだろう
「近いうちに師匠と会う必要があるかもしれないわね」
その言葉を言い終わる前に、イブは姿を消していた。
**********
ナツキが休憩し、イブが去ったあと。
誰の視線もなくなったことを確認して、それは動き出した。
黒のローブで全身を覆うそれは、
レイの小屋に入った。
「あのお方に敵うか否か……」
それは、床の一部をめくる。
そこは、魔石と硬貨のある場所だった。
「見定めさせてもらおう」
それは、ふとことから金色に輝く石を取り出した。
「願わくば、魔法のその先にある”真実”に――」
魔石と硬貨の上に、その金色に輝く石を置く。
もう小屋には誰の姿もない。
ただ、金に輝くおおきな石が3つ残されていた。
お読みいただきありがとうございます
今日も晴れ




