第48話 やりたいこと やらなければならないこと 後編
帰宅した俺は、いつも自分が座っている場所に座っている。
そして、いつもレイの座っていた場所に、
先ほどもらった手紙を置いていた。
むむむ。
きっとレイはこの手紙ですごく冷たいことを書いた!
つもりなのだろう。
眉間にしわを寄せているレイの顔が思い浮かび、可笑しくなった。
もっとこう、直接的なキーワードが欲しいよな。
本当は嫌いだったとか、
クソニート仕事しろとか、
生理的に受けつけないとか、
このネクラオタク!!とか。
まぁ最後のは、事実だし、全然堪えないけれどね。
とにかく、そんな感じなら俺も心置きなく……
などと、思考が何ともアレな方に向かってしまった。
短剣に、お金。
合わせると結構な額だ
これだけあれば――――
当分は暮らしに困らず生きていけるだろう。
葉山と大沢に手紙を出すという目的も果たせる。
リーフスティの皆さんは、領主は敵にまわせないらしい。
そりゃそうだよな。
この町で店を構える以上、絶対に敵にまわせないのが、領主だ。
それに、レイの親というわけではない。
レイもここで暮らし始めてお世話になったヒトたちと言っていた。
つまるところ、レイにとっては、俺も店長たちも他人なのだ。
(ホントウニソウナノカ)
アレ?オカシイナ
気が付けば、俺の視界が歪んでいる。
頬を伝った何かが、俺の服を湿らせた。
(オモイダセ)
『ナツキなら大丈夫だ』
レイの言葉が、不意に頭に再生された。
いやいや、そもそも、
俺はレイにずっと世話になる予定じゃなかった。
旅立ちが、そう、早まっただけだ。
何も悲観することじゃない。
レイにとっても悪いことだらけじゃない。
暮らしも豊かになるだろう。
危険な傭兵家業とはおさらばできる。
これからは剣じゃなくて包丁を持てばいい。
きっといい奥さんになるだろう。
『ナツキは私が守る!』
レイのあの時の笑顔が頭をよぎる。
(アノコハ、ワラエルノカ)
クッソ!
さっきから頭がおかしい。
ズキズキと頭が痛む。
俺もとうとう末期かもしれん。
(オモイダセ、コノセカイヲ)
思い出すも何も、この世界は俺に厳しすぎだよ!
チートもないわ、魔法も使えないわ
奴隷になるわ、売られるわ
魔物に襲われるわ
いつも、いつもいつもいつも……………………
……………………………誰かに助けられてきた。
(オモイダシタカ)
ああ
(オマエダケガ、ムリョクデハナイ)
そうだな
そうだった
(オモイダセ)
“声”が、思い出させてくれた。
俺は、この世界に来てからとにかく卑屈だったことを。
自分ひとりチートがもらえず
自分ひとり魔法が使えず、
事あるごとにそれを言い訳にしてきた。
この世界で、この世界で生きてきた人たちは、生きていく人たちは、
チートも魔法もなくても生きていく、生きていかなければならない。
日々を精いっぱい。
一生懸命に。
リアがそうだ。
数合わせで連れてこられ、文句も言わず毎日毎日俺の世話を――
リアにも悩みはあっただろう。
その片鱗に俺はいくつか気が付いていた。
“いじめ”のようなものを受けていたことを俺は知っている。
考えないようにしていたし、そのことを触れもしなかった。
俺は、俺にはできないと決めつけ、何もしてこなかった。
そして、言い訳付けて、何も言わずに、あの場を出ていった!!
150万――ファナには八つ当たりをしたな。
一緒に逃げ出したのは、ファナに強引に迫られての結果だ。
あの時、俺は自分から彼女を助けようとしなかった。
結局、逆に助けられた。
その上、短剣をもらい、あの短剣には命を助けられた。
あの、ドクダミをくれたお姉さんには、本当に世話になった。
だけど俺は、お姉さんの名前さえ知らない。
勝手に何かあるのだろうと解釈して、何一つ聞こうともしなかった。
レイのことも何一つ知らない。
どこで生まれ、育ち、どうして傭兵になったのか。
何一つ知らない。
いや、聞こうとしなかった。
形見の話の時もそうだ。
そうやって俺はいろんなものから逃げてきた。
いつも、誰かに助けられた。
俺は何一つ自分で決断してこなかった。
状況に流され、不都合は無能のせいにして。
それでも、レイはこんな俺を支えてくれた。
もう、2週間以上ここに泊めてもらっている。
レイにおんぶに抱っこだ。
情けないな。
改めて部屋を見渡した。
大きくはない
6畳ほどの一部屋で2人。
「あ」
部屋を見ていて気が付いた。
床の一部が少し浮いている。
そこは、レイが金庫として使っていた場所だ。
そこを開けてみると、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッッ!!
「チクショウ」
思わず、声が漏れた。
そこには、前見たほどのお金は入っていなかった。
でも、その代わり見覚えのある“石”がたくさん入っていた。
「これ、高いんじゃねぇ~のかよ」
大きさはまばらだが、どれも綺麗だった。
質?
そんなもん俺にはわからん。
でも、両の掌で持てないほどの“石”が、
たとえ一つひとつが安くても
普通に買える額ではないことくらいわかる。
「俺は、使ったら壊すんだぞ
割りに合わねぇ~だろ」
俺の場合、イブさん曰く、魔石を使えば壊してしまうとか。
一度目のレイの魔石の時はたまたま、壊さずに済んだのだろう。
それは、レイにも話したはずだ。
でも、だからこそ、この量なのか?
「クソッ!!クソッ!!」
視界が歪んで、嗚咽が漏れた。
「クソッ!!クソッ!!」
涙はとめどなくあふれて、
「クソッ!!クソッ!!クソッ!!クソッ!!」
俺の心は静かに燃えていく。
(ケツダンセヨ)
ああ、クソッタレ!
やってやるよ
レイを取り戻す!!
お読みいただきありがとうございます
今後ともよろしくお願いします
今日も晴れ




