第47話 やりたいこと やらなければならないこと 前編
おいおい、何がどうなった?
いつも通り帰宅した俺は、レイの帰りをこれまたいつも通り待っていた。
しかし、待ち人は来ず、代わりに現れたのは、ジョンさんだった。
ジョンさんに半ば無理矢理連れていかれ、
再びリーフスティに戻って来た。
そこで妙なことがあった。
リーフスティが閉まっていたのである。
これからが、夜本番なのに今日は店じまい。
何かあるのかな?
そう思って店に連れてこられて、待つことしばし。
その間、俺のみが部屋にいて、みなさん忙しそうにしていた。
イブさんだけ姿が見えなかったが、帰って来たそうだ。
どこに行っていたのだろう?
その後、部屋に全員集まり、
イブさんの話を聞いた。
「つ、つまりレイが連れ去られた?」
「そうも言えるわね。
まぁ最後は自分から殺気を解いて、剣を預けていたからね
無理矢理ではない……かな?」
いやいやイブさん、
それを無理矢理っていうんですよ。
「レグルスの言葉は聞き取れなかったのか?」
「店長、無理言わないでくださいよ
あの男の前で魔法を使ったらばれますよ」
「でも、その言葉が何かしらのきっかけだろうな」
マックさんの分析に俺も賛成だ。
何を言われたんだ?
さっぱりわからん……
とは言わない!
言えない。
俺は鈍感系でなかったことをこれほど後悔したことはない。
たぶん、俺だろうな。
原因は。
自意識過剰なんじゃないのか!?と思う無かれ。
別にそれならそれで、俺が痛い奴認定で構わない。
というかそうしてくれ。
最近のレイは変わったそうだ。
俺は知らないが、以前のレイは、
もっとこう、日々楽しくないような顔をしていたらしい。
最近は笑顔が増えたとイブさんをはじめいろんな人が喜んでいた。
今まで、レイが住んでいて、起こらなかったことが起きた。
このとき、以前と現在の相違点はなにか?
それは俺がいるか否いかだ。
とりあえず、俺にはそれくらいしか思いつかない。
一緒に住んでいるといっても、
本当はレイのことをあまり知らないということを改めて自覚した。
そんなことを考えているとき、
バンッ!
バンッ!バンッ!バンッ!
扉の叩く音が聞こえた。
皆が顔を見合わせる。
「マック、店の前に看板出さなかったのか?」
「いや、出しましたよ」
そんなことを言いながらマックさんは店内を抜け、店の扉を開けた。
皆が移動したので俺もついて行った。
「失礼、リーフスティとはここかな!?」
眼鏡をかけた長身の男がそこにいた。
「聞き方がやらしいのぉ~」
「要件だけ言え」
老騎士と杖を持っている男は口々に言う。
(騎士と魔導士か)
店長は、感情を表に出さず言った。
「あん?
そうだ!ここがリーフスティだが、あいにくと今日は店じまいだ!」
「そうですか。
それは残念です。
ですが、今日は食事に来たわけではありません。
ナツキという青年に用があります。」
おい、俺か?
なんだか雰囲気のヤバそうな二人におののきながら、前に出た。
「お、俺です」
「ほう!
君が、ナツキ君ですか。」
親し気な態度に若干俺は眉をしかめた。
「いえ、すみません
今日はナツキ君に届け物を預かっています。」
そういって手持ちの麻袋から、短剣と小袋を取り出した。
「これを君に、と預かっています。」
俺は短剣と小袋を受け取る。
短剣――ファナからもらった短剣は、レイに渡したときと同じ状態だった。
使っているはずなのに汚れが一切ない。
しっかりと手入れされていたのだろう。
次に俺は小さな袋を広げた。
その中には、折りたたまれた小さな紙とこの国の金貨が5枚入っていた。
紙を広げる。
レイって字が書けたんだな、とか、
そういえばリアはまだ書き取りの練習をしているのだろうか?とか、
そんなことが頭をよぎった。
『ナツキへ
恩は金で返させてもらう
もう関わらないでくれ』
……レイさんよ。
そういう言葉を使う人間だったか!?
小さい紙は所々汚れている。
それに最期の文字がブレブレだった。
この世界に鉛筆に消しゴムなんて便利なものはないし、紙一枚でもぜいたく品だ。
ああ、どうしてこういう書き方をするんだろう?
短い付き合いだが、俺はレイの考えをなんとなく予想できる。
レイももう少し考えてほしいな。
俺はこの文面を文字通り受け取るほどアホじゃないよ。
イブさんから聞いていた話とつながり、俺は確信した。
――――俺がレイの枷になっていると
「それとこちらはあなたたちに」
そういって長身の男は店長に俺と同じ布袋を渡した。
「何の真似だ?」
店長は、中を検めずに尋ねた。
「ほんのお気持ちですよ
レイさんは身寄りと呼べる方がいないとか。
本人は、あなたたちにとのことでしたよ」
領主は娶った女性の家族や両親に“お気持ち”を渡している。
このようにしてお金で事を円滑に進めていた。
ただ、そうは納得しない者も中にはいる。
そういう時は、長身の男の後方に控えている騎士と魔導士の出番だ。
彼らにかかれば、生きたまま“納得”させることは造作もないことだ。
店長は、噂で知っていたし、相手を見た時にある程度予想していた。
この金を受け取るということは、今後関わらないと宣言すること。
拒否するということは、領主を敵に回すこと。
「……わかった
受け取ろう」
「はい、そういっていただけると嬉しいです」
店長の言葉を聞いた長身の男は、満足そうに頷くと騎士と魔導士を連れて帰っていった。
****************
部屋に戻ると開口一番、店長は言った。
「とりあえず、ナツキは帰んな」
「レイのことは残念だが、領主は敵にまわせん」
ナツキは、こくりと頷くとあっさりと帰っていった。
「随分あっさりしていましたね
私たちが表向きは協力できないって話なのに」
ナツキの居なくなった部屋でイブが尋ねた。
「手紙読んでも取り乱してなかったしな」
「そうだな。
暴れるかもと心配したが、杞憂だったな」
ジョンとマックも口々に言う。
「ナツキの中に迷いがあったな。
これから考えるんだろうよ
どうするか!?
どうしたいのか!をな。
あまり時間は残されてないが、
ナツキの”選択”を見てみたい
俺たちが動き出すのはそれからでも遅くない。」
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