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無能お荷物の逆転!!異世界転移  作者: 今日も晴れ
第3章 ルマグ王国編 ~俺はラープの街で大切なことを学びました~
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第46話 はじまり 後編

 



 レイは豪華な絨毯の上を歩いていた。

 右を見れば、高いのだろう絵画が飾ってあり、

 左を見れば、高いのだろう調度品が置かれていた。



「こちらです。」

 男は、扉の横に立ち、

「どうぞ」

 そういって扉を開いた。


 どうやら男は中に入らないようである。

 レイはひとり、部屋に入っていった。


「おお、美しい

 本当に、美しいなぁ~」

 でぶっとした贅肉を隠しもしないその男は、ニヤリと笑い、

 レイに不躾な視線をよこした。


 部屋には、扉から、領主と思しき男まで続く絨毯があり、

 その左右には騎士や魔導士が整列していた。

 広い広間、謁見の間というモノだろうか?そうレイは思った。


 領主の隣にいた男が、口を開いた。

「領主様よりお言葉がある。」


 レイは、問題を起こさないようにしようと思っていた。

 今は以前と違ってナツキがいる、そのことを意識して不躾な態度を取らないように意識していた。

 だが、それも次の一言を聞いて、一変する。


「貴様、我の妾となれ。

 いや、すでに貴様は我のモノだ。

 どうだ?

 光栄だろう!?

 明日は祝いの席にしよう

 そしてその晩はお楽しみじゃなぁ!!

 ワハハハハハ!!!」


 領主はそう言った。

 下卑た笑いを浮かべ、自身の正しさを疑わないような態度で宣言した。


 レイはようやく理解した。

 そういえば、そんな噂もあったような気がしてきた。

 なんで今まで忘れていたのだろう。

 ナツキと過ごす毎日が充実し過ぎて、感覚が鈍ったのかもしれない。


 レイは、心が冷えていくのを知覚した。

 表情が消える。

 人の生きている“温かさ”が、消えていく。

 周囲の感覚が研ぎ澄まされ、余計な情報が遮断される。


 そこにはかつて銀狼として恐れられた剣士がいた。


「「ッ!?」」

 数人の比較的若い騎士が、そのプレッシャーに耐え切れず、剣を抜いた。


 レイは剣を抜いた騎士を真っ直ぐ見つめる。

 騎士の中には青ざめ、震えている者もいた。


「抜いたな!?

 それは“覚悟”が、あるということだな」

 レイは剣に手をかける。


 銀狼は容赦しない。

 一撃をして一殺。

 剣を扱う者にとって、剣を抜くとは、“戦う”ということ。

 戦意があるということだ。


 銀狼は戦意あるものに、それが魔物でも、たとえヒトでも容赦しない。


 レイが踏み出し―――――

「待て」


 抜刀した騎士の首筋から血を滴らせる寸前で銀狼の剣は止まっていた。

 今の一瞬で踏み出し、距離を詰め、抜刀した銀狼をもってしても、

 無視できないほどの圧倒的な存在感が場に現れた。



 騎士の中で、唯一、今もリラックスしたように立っているその男は声を掛けた。

 低い響く声だ。

 レイと剣を抜いた騎士、双方に声を掛けたのだろう。

 顔を双方に行き来させた後、レイと向き合った。



「無礼はお詫びしよう。

 私は騎士団団長、レグルスだ。

 しかし、貴殿もその殺気はよろしくない。」


 レグルスといった男は、ほかの騎士に比べて年老いているように見えた。

 が、身のこなしがただ者でないことを物語っていた。


「……」

 銀狼としてのレイに言葉は要らない、通じない。

 ただ、敵を斬る。

 レイは、その衝動のみに身を任せていた。


「ふぅー」

 やれやれと言った表情でレグルスはレイに聞こえる程度の声で言葉を発した。


「彼の為を思うなら――――――――」

 それを聞いた直後、銀狼―否、レイは殺気を解いた。

 彼――それはレイにとって一人しかいない。

 剣をレグルスに預け、領主のもとに歩み寄る。


 領主は、レイに気おされて飛んでいた意識を取り戻した。

 レイが近づいてきたことに、ニヤリとした笑みは引きつっている。


「領主様、本日よりよろしくお願いします」


 レイの言葉を聞き、領主はようやく理解した。

 レイが自分のモノになったのだと。


「れ、れいちゃん~」

 再びニヤリとした笑みを浮かべた領主ブルガルタ。


 レイは意識せずに、自然と手に力がこもっていた。

 爪が皮膚に食い込み、血が流れる。

 それすらもレイにはわからなかった。


 **********


(ありゃりゃ~~)

 一連の流れをしっかりと見ていたイブは、気配を消したままその場を後にした。

 レイの殺気ごときにビビッていた騎士ならば、束になろうとも脅威にはならない。

 だが、あの場には騎士団団長がいた。

 いくつもの武勇伝があり、帝国と接するこの町を国王が任せる者。

 普通であるはずがない。


 イブは、レイの奪還は現状不利であると判断し、撤退していった。


 リーフスティに戻るとそこには、ナツキを含めた全員が待っていた。


「ただいま~」


「おう、で?

 どうだった?」


 さっそく店長が尋ねてきた。

 ここでありのまま見てきたことを話した。



 話ながらイブの中にはいくつもの疑問が沸き上がっていた。

 レイからは、ナツキは帝国出身の難民で、命の恩人と説明されていたが、

 一文無しかつ、どこかでステータスプレートを作るそぶりがない。

 難民や亡命者ならこの街でステータスプレートを作るのがあたりまえだ。

 たとえ帝国で血の契約をしていても、この街で簡易契約のステータスプレートを作ることはできるから。


 だから、そこから奴隷だったのでは!?と、推測できる。


 だが、買い出しの時に見せた高度な計算能力や文字の読み書き、

 会話の中の端々にうかがえる教養の高さなどがあるかと思えば、

 誰でも知っている基本的なことを知らない。

 そして、このあいだの“魔法”のこと。


 イブはズレる思考にいったん歯止めをかけ、今のことを考え始めた。



 レイをどう取り戻すのか、それについて。






お読みいただきありがとうございます

今日も晴れ


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