第45話 はじまり 中編
男がラープの街に向かって歩き出した。
男に続く前、レイはナツキのことを思い、提案する。
「その前に少し寄らせてほしいところがある」
「どちらに?」
「リーフスティだ」
「おや、あの店ですか?
私も何度か行ったことがありますよ
そのくらいなら別に構いません」
男を先頭にしてレイはついてゆく。
適度な距離を保ちつつ、気を抜かないようにしながら、リーフスティまでやってきた。
「あらレイちゃん~」
レイが店に入るとイブが手を振ってきた。
「ナツキはいますか?」
これから領主のところに行くなら、ナツキに一言伝えておこうと思ったのだ。
「店長~~
まだナツキくんっている??」
店の奥から店長がやってきた。
「ああ?
ついさっき、あがったぞ。
ん?
レイちゃんじゃねぇ~か!?
どうした?」
どうやら運悪くナツキとは入れ違いになったようだ。
「ナツキに帰りが遅くなるって伝えたかったんだけど……」
店長はレイと、その後ろの男を一瞥する。
その男が、領主直轄の魔法師であったことに眉をひそめつつ、
レイのために店長は続けた。
断じてナツキのためでなかった。
「それなら、あとでナツキに伝えといたるわ」
レイの顔が明るくなる。
なんともわかりやすい、そう店長は思った。
「ありがとう、店長!」
「気にすんな。」
「またご飯食べにくる」
そういって、レイは男と去っていたった。
店長は知っている。
その言葉がこのままでは叶わないと。
ふたりが完全に見えなくなったところで、店長は奥の部屋に入る。
そこはナツキの寝かされていた、あの部屋である。
開店中にもかかわらず、そこには、イブ、マック、ジョンが揃っていた。
店長が扉を閉め、発した。
「イブ、あの男はどうだ?」
「あれは、たぶん凄腕だよ。
領主のとこの二つ名持じゃないかな!?」
「領主のとこの二つ名持なら、二人いたな。
氷の魔技 と 風殺だったか?」
「風殺のほうだと思うよ
気配がまるでなかったからね。
すごく暗殺向きかな」
風殺の二つ名で呼ばれた魔法師は暗殺が得意であった。
そこからイブは先ほどの男が風殺と同一人物だろうと考えた。
「厄介だな」
店長は顎に手を当てて考える。
なぜ、これはほどまでに警戒しているのか!?
それは、あるうわさが関係していた。
曰く、領主は女好き。
曰く、愛人を数十人囲っている。
曰く、その対象範囲が広い。
領主の愛人になれると聞いて、女性の反応は2つだ。
多数派の喜ぶ女性。
愛人といっても数ある中の一つだ。
生活の安定は約束されるし、領主にいる高給取りの玉の輿にもなれるとか
そんな話もあり、喜ぶ女性も多い。
領主に呼ばれたはいいが、一度も相手にされず、忘れられ、警備隊の騎士と結婚した女性の話は有名だ。
町娘の大出世ともいえるだろう
対して少数なのが、すでに婚約者がいるもしくは既婚者の女性だ。
当然、拒否したいが、そうなれば、不運な事故で最愛の人を失うかもしれない、そんなことが起きる。
いち町娘に対抗手段などなく、泣き寝入りすることがふつうだ。
店長はレイが領主の愛人として選ばれたのではないかと考えていた。
最近のレイは、ナツキとこの街に戻ってからのレイは、すごく美しい。
今までは、虚ろな目で、死に急いでいるようにみえていた上に、
会話も単調で笑顔などまず見せない。
だから誰の目にもとまらなかった。
だが、最近のレイは、はたから見ても綺麗でそして目立つ。
本人の意識でここまで変わるものかと驚いたほどだ。
ナツキを一発くらいなら殴っても許されるだろう。
「イブ、見つからないように偵察できるか?」
「私を誰だと思っているの?
任せておきなさい!!」
イブは自身の胸をたたく。
「ジョン、ナツキを呼んで来い」
「うすぅ」
「マック、今日は店仕舞いだ。」
「了解!」
マックは店内に戻り、客の対応に、
ジョンは小走りでナツキのもとに、
イブは魔法を使い、自身を消して店外に、
各々自身の仕事に取り掛かる。
その足取りは既に、一般的な店の店員をはるかに超えているものだった。
*******
イブは、自身の姿を消して、レイの後を追った。
屋根に上がり、視力を強化し、男に注意しつつ、慎重に追っていく。
《重力制御》《視力強化》《気配隠蔽》《身体強化》等、魔法の重複同時行使を難なくこなし、レイと男の後、領主の住む屋敷への侵入に成功する。
(ここまでは、何とかなったわね
ただ、結界魔法があると厄介なんだけど……)
イブの予想どおり、屋敷の要所、要所には設置型の結界魔法が存在していた。
(ちょっと手荒だけど、急いでるから仕方ないよね~)
屋敷敷地内は、2重の壁によりグルリと外周を囲まれている。
外壁と内壁の間は芝生、内壁の中に屋敷があった。
イブは、結界は芝生部分に等間隔で設置されていると感じた。
ポケットから包みを出し、それの中からいくつかの石を取り出した。
それは”触媒”と呼ばれる石だった。
「使い捨てになるからあんまり使いたくはないんだけどね~」
触媒を握りしめ、イブは結界魔法設置地点に向けて結界魔法を仕掛けていった。
結界を結界で包みこみ、無効化する。
手荒だが、確実な手段であった。
イブの進行方向にあった結界はついに侵入者を屋敷の人間に知らせることはできなかった。
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