第43話 魔法を使ってみよう 後編
ダンッッッッッッ!!!!!
衝撃とともに店内のあらゆるものが、
ナツキを中心に同心円状に吹き飛ばされた。
「ごほっごほっ」
イブは咄嗟にシールドを展開し、難を逃れていた。
「な、なんだ?」
「何が起きやがった!?」
ジョンとマックも吹き飛ばされはしたが、一瞬で持ち直していた。
「どうしたッ??」
店長が怒声を上げながら店内に入って来た。
「な、なんじゃこりゃ!?」
店長があたりを見渡すが、それぞれ何が起こったのか理解できていなかった。
そして当事者のナツキは片膝をついた状態から今まさに前のめりに倒れた。
「ちょっと!?」
イブが慌てて助け起こす。
ナツキの顔は真っ青で、額から大量の汗を滴らせていた。
「イブ、そいつを奥に連れてけ!
マックとジョンは店の外に散らかった瓦礫集めてこい。」
店長の指示で各々が動き出す。
掃除・片付けは、さほど時間をかけずに終わった。
店長も店の中を掃除し終えていた。
「こりゃダメだな
机も椅子も買い替えやな」
一同は、店奥の小さな部屋に集まった。
簡素な部屋の中央にはナツキが寝かされていた。
それをイブが看病し、マックとジョンは様子を見ている。
「で?
何があってん?」
店長からの問いに代表してマックが答えていく。
ナツキに魔法を使えわせたこと
そして、その結果、”惨事”が起きたこと。
「ナツキは高位魔法師なんか?」
店長のつぶやきにイブが返す。
「それはないですよ。
今も看てますけど、
ナツキくんは本当に魔力量が少ないみたいですね
てゆうか“魔力”を感じないんですけど……」
イブの言葉に一同は顔を見合わせた。
「魔力がないなんてありえないだろ」
「そうだな。生きとし生けるモノはすべて魔力を持つ。
“魔力”と“生命力”は同じだからな
魔力がないんなら、それは生きているとは言えないんじゃないか?」
「それはそうなんだけど……
ナツキくんの症状が似てるのよ
たしか、セントフィル都市連合で行われた
魔力を持たないものに魔力を持たせようとした実験に!」
「実験?
あれはたしか人が作ったとかいうネズミの話だろ!?
人とネズミを一緒にするなよ」
議論が深まりかけたる前に、店長が言った
「ナツキの魔力量が無いと考えられるほど少ないのはわかった。
おそらく他者への魔力抵抗も小さいのだろう
それなら、この結果にも納得だな」
「しっかし、マックさん、
満タンの魔石一つ壊れちゃいましたね」
そう、マックの魔石は、ナツキの手の中にあったのだが、
それが粉々に砕けていた。
普通、魔石は魔力を入れ、取り出す容器だ。
永久にとまではいかなくても数百回は使いまわせるのが普通だった。
それが、砕けてしまったことをジョンは指摘した。
ただ、その指摘には、間違いもあった。
「満タンじゃねぇ
今日一日使った、もう残り一割切っているはずの魔石だ」
この言葉に一同は黙り込んだ。
なにか異常なことが起きている。
4人の考えたことは同じだったが、
それ以上そのことを話そうとする者はいなかった。
(ナツキ視点)
気絶。
日本にいた時、これを経験することはなかった。
せいぜい授業中に意識が飛んで、黒板が一新されているそんなレベルだ。
だが、俺はこの世界に来てとにかく意識を失うことが多い。
いい加減、慣れてきてしまったこの感覚で、
俺は意識を覚醒させた。
「いつつつ……」
たしか、店の皆さんとご飯を食べていて、
えっと……
そうだ魔法の練習をしたような……
そのあたりから俺の記憶はおぼろげだ。
「起きた?」
「あ、イブさん
えっと俺は……?」
「覚えてない?
昨日魔法使ってそのまま倒れちゃって」
「えっ?
そうだったんですか?
昨日の記憶があいまいで……
すみません」
どうやら俺は魔法を使って倒れたらしい。
そういえば、竜巻を連想していたような気もする。
起き上がろうとして、俺は体制を崩した。
上手く力が入らない。
ん?全身が、長時間正座して痺れたみたいな感じがする。
「ちょっと!?
まだ寝てなさいよ」
「いや、でももう開店してるんじゃ?」
そう、外の喧騒から俺は今が昼前だと予想していた。
「あははは
えっと、今日はたぶんまだ開店しないと思うな~」
???
イブさんの言っている意味がよくわからない。
痺れも収まってきた俺は、身体を起こした。
イブさんに支えられながら俺は店内に入り、
絶句した。
え?
ドアがない。
ドアのあった場所は、丸くくり抜かれていた。
部屋の隅には、無残にもボロボロな机やいすが山積みになっていた。
「ど、どうしたんですか?」
記憶が少しずつ、よみがえって来た。
そういえば、あの丸くくり抜かれている方向に“魔法”を放ったような……
「おう、ナツキ元気そうやな!?」
店長の声で我に返る。
もう、だいたい思い出した。
マックさんから借りた魔石を使ったのだ。
そう、それで魔法を使おうとして……
そこまで思い出せた。
「す、すいませんでした!!!」
社会は”厳しい”のである。
まず、謝ること。
これが一番基本。
「まぁあの場にいた全員に責任はある
だから割り勘でざっと銀貨1枚だな」
ぐはッ!!
銀貨1枚!?
一体どれだけ働けば……
その日、リーフスティが開店することはなかった。
そして、俺は異世界で銀貨1枚の借金を背負った。
お読みいただきありがとうございます
今後ともよろしくお願いします
今日も晴れ




