第42話 魔法を使ってみよう 中編
「使えるぞ。
魔石を使えば、魔力量が少なくても魔法は使えるからな」
おお~~!
俺は目を輝かせ、ジョンさんに詰め寄った。
「やめとけや。
魔石はそんな便利なもんちゃうぞ」
店長の一喝。
「え?」
何もわからない俺が困惑しているとイブさんが丁寧に教えてくれた。
「魔石っていうのね、まぁ文字通り魔力を持った石のことなんだけど、
それにも種類があってね
原魔石と魔結晶石。
これら2つをいわゆる魔石って呼んでるのよ
一般に魔石といえば原魔石のこと。
これを購入して自分の魔力を魔石に閉じ込め、使いたいときに使うの。」
「へぇ~、なら俺もそれ、使えないんですか?」
「ん~~
使えないことはないけど、魔力にはそれぞれ固有の波長があってね。
自分以外の魔力ってすごく扱いが難しいの。
他人の魔力の入った魔石だと威力はだいたい10分の1くらいになっちゃうかなぁ」
おいおい魔力ってのはみんな同じじゃないのかよ。
波長とかは、わからなかったけど
つまり、輸血とかで型の合わない血液だと拒絶反応が出るようなものだろうか。
「なら俺の魔力を入れればいいんですね!?」
魔石自体は高額かもしれないが、魔法が使えるなら一考の余地ありだ。
この世界で生きていくには、魔法は必要になるだろう。
そのことを、俺は身をもって体験している。
「そ、それも厳しくてね~
魔石に魔力を溜めようとすると、
だいたい入れた分の半分くらいしか溜まらないんだよ。
ナツキくんは、もともとの魔力量が少ないからね
どれくらいかかるかわからないかも」
……厳しいな
ほんと厳しい
俺、この世界に何かしたのだろうか?
まぁ地球にも永久機関は存在していない。
未だにエネルギー効率は良くなかった。
たしか30%とかだっただろうか!?
それと同じということだ。
100入れて50使えるのは、まだ高い方なのかもしれない。
クソ!!
ファンタジー世界にそんな合理性求めていない!
「じゃあ魔結晶石はどんなものなんですか?」
「魔結晶石は天然の魔力が入ってるの。
だから誰でも使えるし、威力もそんなに落ちないのよ」
…………期待はすまい。
何かあるのだろう。
「ただね、ものすごく高いの
一般庶民の一生分って噂もあるくらい高価らしくてね
私も見たことはないのよ
透明だとか、金に輝くとか、虹色に発光してるとか、
いろいろ噂されているわね
あと、使い終わった後も原魔石として普通に使えるらしいから、
それも高価な原因のひとつね」
俺には縁のない話だったのだろう
一生分って
想像もつかんわ
店長の関西弁が、思わず移るほどだ。
魔法が使えないと落ち込んでいる俺の肩をマックさんが叩いた。
「まぁそう落ち込むな
特別に俺の魔石を使わせてやるよ」
そういってどこからともなく出してきた緑色の石を取り出した
「こ、これが魔石ですか?」
緑色のそれは淡く光っていた。
まさに神秘的な輝きだ。
「ああ、せっかくだし使ってみな」
ステータスプレートを呼び出した時以来の魔法だ。
あの時は何をしているかわからないまま終わってしまったので実質初体験。
俺は子供のように高揚した。
だって魔法だぜ!
異世界に来て、はや1ケ月と少し。
やっとたどり着いた異世界らしいイベントだ。
思えばひどい異世界生活を送ってきたが、そんなこと、今はどうでもいい。
初めての魔法ということでイブさんのレクチャーを受けることになった。
「魔法を使う時に大切なのはね
イメージすること。
今からどういう事象を起こしたいのか
それを明確にイメージするの。
火なら燃えている炎を、
水なら川や海を、
って具合にはっきりとイメージする
これがコツね」
なるほどなるほど。
イメージもとい妄想なら得意中の得意だ。
伊達や酔狂でオタクをやっていない。
いわば、俺は妄想のスペシャリストだ。
「この魔石って風の属性?」
「ああ、この属性は風だ」
この国、ルマグ王国のステータスプレートの属性は、一般的な俺のよく知る属性と同じだった。
つまり、火属性、水属性、風属性、土属性など。
マックさんの魔石には風の属性魔力が入っているらしい。
イブさんがマックさんに確認してくれた。
「となると、少し難しいわね
風って火や水と違ってイメージしにくいから。
声に出してイメージするといいよ」
ほうほう。
どんな掛け声にしようかな
シュト〇ムやレイアド〇ス、テ〇ペスト
いや、まぁここは無難に『風よ!』にするか
「よし、大丈夫です!」
イメージするのは竜巻だ
実物を見たことはないが、
アニメや映画で見たことあったのでイメージは問題ないはずだ。
「魔石を握って“魔力”を感じるの
それをイメージしたまま解き放つ!
そうすれば、事象改変が起きて魔法になるわ」
「やってみます!」
俺は店の扉のほうに片手を突き出し構えた。
イブさん、マックさん、ジョンさんが見守る。
店長は、明日の準備だとか言ってさっき奥に入っていった。
よしよし
いよいよ俺の魔法が炸裂する!
ドキドキとワクワクではやる気持ちを抑えつつ、
深呼吸で息を整える。
落ち着け俺。
イメージだ
高速回転する竜巻。
それを俺の手のひらからドアのほうに向かって進むようにイメージする。
魔石を強く握る
魔石の輝きが増し、握った手のひらから光が漏れ出る。
握る左手、突き出す右手。
右手の手のひらに“チカラ”が集中するのがわかった。
それが凝縮していく。
今ッッ!!!
「風よ!!」
直後、
爆発といってもいいほどの風圧が店内を襲い、
店の扉が吹っ飛んだ。
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今日も晴れ




