第41話 魔法を使ってみよう 前編
レイを見送って俺も仕事に向かう。
レイは愛剣を2本携え、いつも通りの軽装で討伐に向っていった。
プロテクターや盾を勧めてみたものの、
俺ははっきり言って素人意見だし、
レイも動きにくくなるからとそれらを装備しようとはしなかった。
もう慣れた道のりを進み、店に向かう。
店内は無造作に円形のテーブルが置かれ、それぞれに椅子が逆さになって乗っている。
まず、それを戻すのが俺の仕事だ。
掃除は?
と当初、俺は疑問に思ったが、
店長の風魔法により一瞬で片付く。
はっきり言おう。
この世界の住人は案外チートぞろいだ。
簡単な魔法しか使えないとか言っているが、使えない俺からしたらすべてチートだ!
コックのマックさんも風魔法で切れ味を上昇させて硬い魔物の肉をいとも簡単に切断していた。
ちなみに得意料理はグランチェという肉と野菜のスープ料理だ。
断じてハンバーガーやポテトではなかった。
ウェイトレスのイブさんは、制御の魔法で大量の料理をこぼすことなく運んでいる。
ちなみに過去に不思議な喫茶店で働いていたとかいう経歴は断じてなかった。
先輩のお兄さん―――ジョンさんは、とにかく器用だ。
なんでもそつなくこなす。
魔法を使っているのかどうか、はっきりいって俺にはわからなかった。
ちなみに、過去に行って小さなハル〇と会ったりだとかそういうことはない。
店長は店長だ。
名前はまだない・・・
ウソです。
ホントは知りません
みんな店長と呼んでいるし、本人も俺のことは店長と呼べ
と言っていたからな。
店長は攻撃魔法を使える。
時折難癖付ける傭兵や店内で喧嘩する冒険者をいとも簡単に店外に放り出す。
逆らわないようにしよう……
椅子を下ろし終え、買い出しに行く。
慣れたものだ、食材はだいたい同じもの。
日本のスーパーのようにすべてが揃っている店はこのラープの街にはない。
肉は肉屋で、野菜は八百屋で、酒は酒屋で、
とそれぞれの店で購入する。
渡されたメモ通りに品物を買い、時には値切り交渉もする。
俺は、そろそろ”新人”を脱したのではなかろうか!?と思っている。
午前中の準備を乗り切り、午後も働く。
今日はレイが帰ってこないから夜も働くことにした。
この店――リーフスティはめちゃくちゃ高級店というわけでもなく、
かといって格安というわけでもない。
客層は一部冒険者、一部住民そんな感じだ。
それゆえ深夜の営業はやっていない。
時計がないため、正確な時間は分からないが、
朝は、準備ができたら開店。
夜は体感で10時には閉店する。
俺は始めてラストオーダーまで働いた。
まぁやることはあまり変わらないが。
「つ、つかれた~~」
「おう、新人
ほれ」
そういって店長は肉とスープを出してくれた。
まかないだ。
それもいつもでは考えられない豪華さだ。
「いいんすか?」
「ああ、
生ものはその日のうちに食わねぇ~とな」
働き始めて1週間以上たったが、
そういえば皆さんとまだ食事をしたことがなかった。
開店中は交代で昼食だしな。
「ねぇねぇレイちゃんとはどうなの?」
ごほッごほッ
むせる俺。
にやけるイブさん。
イブさん、その話題はほんとやめてください
心の中で叫ばずにはいられなかった。
「どうといわれても……」
ほら皆さんなんか険しい顔になってますよ
イブさんはニヤリとしてこの状況を楽しんでいる
そんな感じの楽しい!?会話で食事が進んでいく
「ナツキくんはやりたいこととかあるの?」
イブさんの質問に俺は少し考える。
「そうですね。
冒険者をやってみたいなぁ~とは思ってます」
冒険者。
それはあこがれだ。
異世界といえば、冒険者というイメージがある以上、一度はやってみたい。
だが、俺は自身を過大評価しない。
そう、俺が冒険者などやれば、命はない。
魔物一匹で死にそうになる俺だ。
たぶん、というか絶対に向いてないな。
というより、
まず、ステータスプレートをどうにかしないとならないという現実があるのだが。
「へぇ~冒険者かぁ
なんで??」
その質問に“異世界だから”とは答えられない。
ので、適当に返事することにした。
「その、かっこいいなぁと思いまして」
「なるほど。
それはわかるなぁ~
でも実際は、冒険者ほど冒険しない人はいないんだけどね」
ん?
「どういうことですか?」
「冒険者っていうのは、
徹底的な下準備をして、実力以下の仕事を確実に遂行する人のことを言うからね
だから、極力危険は冒さない。
冒険はしないんだよ」
なるほど。
でもその考えはわかる。
案外、俺に向いているのかもしれない。
「冒険者なら魔法をしっかり使えた方がいい。
たしか、ナツキは魔法が使えないんだったな」
コックのマックさんだ
「はい、魔力量が少なすぎて使えないみたいです」
俺は、異世界から来たということは、もちろん話していない。
ややこしいことだし、話すにしてもレイに話した後になるだろう。
「今時魔力が少ないなんて珍しいな」
「みんな使えるモノなんですか?」
「ああ、帝国の話は知らんが、この国はだいたい使えるな」
レイと相談して俺は帝国からの難民ということになっている。
それにしても、魔法ってみんな使えるものなのか……
チートはもういらないが、せめて普通のポテンシャルくらいは用意してほしかった。
ねぇ神様ステータスは平均値で――――と思わず叫びたくなる。
「一度でいいから魔法使ってみたいですねぇ~」
このとき、レイから魔石を借りてステータスプレートを呼び出したことを忘れていたのだが。
「使えるぞ」
俺のつぶやきにジョンさんは言った。
「魔石を使えば、魔力量が少なくても魔法は使えるからな」
ジョンさんの魔石という言葉で思い出した。
そう言えば、あの時も魔石を使った、と。
これはもしや俺でも魔法が使えるようになるフラグでは!?
魔法が使える!!
ほう!
なんと素晴らしいことか!
俺は期待に胸を膨らませた。
お読みいただきありがとうございます
今日も晴れ




