第40話 レイ
―――――レイの視点
最近、私の生活が変わってきた
“生きること”を実感したのはいつぶりだろうか?
それほど長く、“生”に、こだわっていなかったような気がする。
別に死にたかったわけではない。
でもいつ死んでも構わないと思っていた。
それは私の”戦い方”に如実に表れている。
攻撃特化。
攻撃こそは最大の防御
父と師匠の言葉を胸に、ひたすら”攻撃”のみを鍛えてきた。
覚える魔法も使う技もすべて攻撃に関連している。
例えば、身体強化や剣の威力上昇、俊敏化など。
防御系の魔法も盾も使わない。使えない。
それがゆえにあの時、私は不覚を取った。
モリグマの攻撃は単調だ。
普通なら前衛が盾で防ぎ、中衛が斬りかかるもしくは、後衛が遠距離攻撃する。
ただ、それだけで倒すことができる。
1人でも盾やシールド魔法を使えればそれほど苦労しない。
あの夜、私は魔獣に対してすべて攻撃される前に攻撃し、撃退しようとした。
それが私の、銀狼としての戦いだった。
でも、1、2体ならどうにかなったが、数が多すぎたのだ。
結果モリグマの毒をくらい意識を失った。
その時の記憶はよく覚えている。
ああ、死んだな――と。
でも違った。
目は覚めたのだ。
驚きが一番だった。
最近、人魔対戦の影響で薬の相場は、相当高価になっている。
人魔大戦が終わったとはいえ、まだ魔族の残党が各地で暴れているという噂も聞く。
ラープでドクダミなど売れば、それこそ金貨2,3枚にはなるだろう。
数も少なくなって見つけることも難しい。
少し前は、一攫千金を狙って多くの者が採取に赴いていた。
私も何度か探したことがあるくらいだ。
それを私のために探してきたというから驚きだ。
身売りでもさせられるかと思えばそんなことはない。
ナツキ
もと帝国の奴隷。
ステータスプレートで契約しているのに内容を全く知らない。
博識な面もあるがどことなく抜けている。
魔物に怯えているかと思えば、私の剣技には全く怯えない。
冒険者志望の少年によくあるプライドがあるのかと思えば、
リーフスティの下働きを喜んでやっている。
私が感謝をすれば、助けるのは当然だというほどの謙虚さもある。
本当によくわからない男だ。
でも一緒にいることは嫌じゃない。
家に帰ってくると人がいる。
それがこんなに気持ちを落ち着かせることだなんて思いもよらなかった。
ナツキには助けられた恩がある。
せめて彼の恩に報いれるように明日も頑張ろう。
***********
国境付近
王国国境警備隊との合同討伐
冒険ギルドからの正式なクエストもあってその場には
300名近い人間がいる
およそ半数は同じ鎧に同じ盾、同じ剣をもった警備隊
残りの半数のうち、冒険者と傭兵が半々というような内訳だ
オークの群れは100を超えていた
冒険者や傭兵と警備隊では連携が取りづらい
それぞれが分かれて戦うことになった。
もっとも、働けば働くほど(オークの素材採取ができる)儲かる冒険者や傭兵が主に前に出て戦う。
一方で警備隊はどれだけ討伐しても給料は変わらない
その意識の違いから積極的には参加していなかった。
前衛が冒険者、傭兵
後衛が警備隊
その日、レイは珍しくというか、初めて最前線にはいなかった
魔物討伐や山賊退治などがあると、
決まってレイは最前線で戦った。
防御を捨て攻撃にのみ特化したその戦いは、命をチップにするもので、見ている者に戦慄を抱かせる。
その結果が銀狼の二つ名だった
「敵、前方より5体来ます!
右翼をお願いできますか?」
今日のレイは前衛と後衛のちょうど中間で戦っていた。
前衛と後衛が開きすぎてお互いをカバーできなくなりつつある、
その戦場でレイの存在は本人が思う以上に大きかった。
優秀な人材が単騎で前線におかれるのと戦局を大局的に見つつ後方で指示を出す
これは大きな開きがあった。
本人はいつものように死に急ぐ戦いではなく、堅実確実に討伐しようとしていただけだったのだが。
その結果前衛組に置いて行かれ、かといって後衛の警備隊に混じることもできなく
仕方なく中間にいるだけだ。
「なんだ!?あの少女は?」
「速いですね」
「ああ、それに剣技も素晴らしい
先ほどからオークを一撃で仕留めている」
レイの戦いを見て称賛する声が各方面で上がっていた。
今まで最前線のさらにその先に、単騎で乗り込み、剣を振るう
そんなことをしていたから、当然警備隊はレイのことを知らなかった
銀狼の二つ名のほうを知っていても、それが目の前の少女と結びつかなかったのである。
口々にレイの剣技を褒めたたえる
もっとも日常から異常な戦いを繰り返してきたレイにとっては造作もないことだった。
後方の警備隊のさらに後方、
ブルガルタ家当主
今回の警備隊の責任者で、ラープの自治を国王より預かっている貴族。
でぶっとしたお腹に、後退した生え際、手足が短くまん丸にみえるその人物もレイを見ていた。
口元をニヤリとゆがめて黒い瞳に光を宿して。
―――そのことを、レイは知る由もなかった。
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