第27話 俺、頑張ってます 前編
――――――――山脈。
夕刻、
空が刻一刻と闇に支配され始めた頃。
「目標を視認。」
山脈から街道を見つめる男は呟いた。
その男の目は、ナツキたちの乗る馬車を捉えていた。
男は合図を出す。
一瞬あとその場には何も残されていなかった。
誰かが合図を受け取る。
「合図、来ました。
今夜はこのあたりで野営になると考えられます」
男は地図を指さしながら受け取った合図をもとに
場の中央にいる女性に報告した。
「わかった。
全員、配置につけ。
2班が奇襲、3班は前方の騎士、4班は後方の騎士をそれぞれ足止め
魔法師は遠距離で支援に徹しろ
1班は私とだ!
我々に失敗は許されん。」
彼女を中心に広がっていた男たちは各々の持ち場に散っていく。
その誰もが老いていた。
現役を退いていそうな者たちの集団は、歳など感じさせない動きをする。
ある者は剣を手に、ある者は弓を手に、槍や杖を持つ者もいる。
「我々に失敗はない」
彼女は呟いた。
その瞳には強い意志が宿っていた。
***********
「敵襲!!」
護衛の兵士が叫んだ。
寝ていた騎士はその言葉で飛び起きた。
各所で戦いが始まる中、襲撃した集団のリーダー格の女性は、目的の馬車までやってきていた。
「ここだな。
ファナ様、失礼します」
そういって扉を無理矢理開くも、中はもぬけの殻だった。
「なに?」
情報では、この馬車の中で間違いないはず。
襲撃してからこの馬車より離れる人影は見ていない。
女性は、馬車の中を検めて気が付いた。
その馬車の床に穴が開いていることに。
女性はすぐに飛び出て、
あたりの地面を指先に炎を灯しながら観察する。
「見つけた」
足跡がふたつ。
これに間違いないだろう。
考えられないが、襲撃の作戦が漏れたのかもしれない。
女性はすぐに撤退の合図を出すべく、
笛を鳴らした。
「ここにファナ様はいない。
私は、ファナ様を追う。
お前たちは騎士らをかく乱し、時間を稼げ。」
「了解しました。
お気をつけて
例の場所で明日の夜お待ちしています。」
女性は、自身に“強化”の付与魔法を使い、身体能力を高め、足跡を追った。
ナツキは計算していなかった。
この世界には魔法があり、当然それを駆使して追われるということに。
女性は難なく足跡を追跡し、ものの10分程度で廃村にたどり着いた。
途中、お粗末なかく乱の様な事をしているようだったが、全く問題にならなかった。
そして人の気配を見つけた。
石造りの建物の一室に彼女は踏み込んだ。
**********
(ナツキ視点)
150万がトイレに行った。
俺もトイレに行こうと思ったが、
ここはできる男ナツキとして、しっかり空気を読んで時間をずらすことにした。
「遅いな。
なにかあったのか?
いや、女性のトイレってこんなもんか?」
何しろ彼女などいたことがない。
そういう知識は皆無であった。
仕方ない。
少し様子を見てくるか。
魔物にでも襲われていたら厄介だしな。
まぁその時は俺に何ができるわけではないが。
動こうとした瞬間――――
俺は地面に押さえつけられていた。
「なに?
え?
どういうこと?」
「黙れ!
こちらの質問に答えろ」
なになに?
どうやらこの声の主に俺は組み伏せられているらしい。
押さえつけられた右肩が痛む。
そして、首筋にあたるひんやりとした金属の感覚。
……え?
もしかして……もしかすると……そういう状況??
「ごめんなさい!!
ごめんなさい!!
なんでもお答えします
ええそれはもう、どんなことでも聞いてください。」
「このあたりで金髪碧眼を持つ少女を見なかったか?」
金髪碧眼……
そう言えば150万がそうだったような……
「えっと、150万がそうだったような――」
「ほう、150万リグを渡せということか?
貴様、まだ状況をわかっていないようだな」
「いやいやいやいや
150万というのは、あだ名みたいなものでしてね
別にお金を要求しているわけではッ――」
「黙れ!!」
いきなり首を絞められた。
息もロクにできず、俺はもがくことしかできない。
「少し、痛い目を見てもらう
話したくなったら言ってくれ」
「んーんぶぐうぐぐうう(話すから離してーー)」
マズい―――
もしかして、いやもしかしなくても、命の危機!?
誰か助けて!!
やっぱり頼りになるのは、神様なの?仏さまなの?
信仰すると助かるの?!
驚き通り越して驚愕だよ
俺も入るよ!
入るから誰かたすけてえええぇぇぇぇぇーーーー
意識が完全に失われる刹那――
そこで俺を助けたのは神でも仏でもない
150万であった!!
お読みいただきありがとうございます
今日も晴れ




