第25話 純潔を死守せよ 後編
脱出作戦決行の日
俺は、今日までにこの馬車の欠点を見つけていた。
それは何か!?
それは、床だ!
左右はいわゆる鉄格子。
御者と俺たちとの間には分厚い木の板がある。
そして、出入り口はもっとも頑丈な鉄っぽい扉だ。
だが、床はどうだろう?
おそらく、普通の馬車を改造したのであろう、この馬車は、床だけはもとのままだった。
そう、左右の壁や扉に比べて、ぼろく、ところどころ下の地面が見えている。
この床の一部をめくって、外に出るという作戦だ。
馬車が揺れたり、どこかで大きな音が鳴ったりしたときなどに、少しずつめくっていく。
基本的に俺はその近くにいて、穴を隠し、
トイレや夕食などで離れる時は、申し訳程度にもらった布きれ(掛布団)を穴の上に敷いて、ごまかした。
寝るときはもちろん手錠はされる。
だが、足枷がないだけましだと思うしかない。
夜、夕食後、護衛の騎士は野営を設置し始める。
数時間後、一部の護衛の騎士以外は眠りについただろう。
もう声もしない。
一部の護衛に残った騎士も相当疲れていたのだろう。
船をこぎ始めていた。
夜間護衛の交代は基本的に1回だ。
およそ深夜2時ごろを目安に交代していた。
だから作戦開始は0時を予定している。
交代してからは、望みは薄くなる。
かといってギリギリでは逃げ切る時間が稼げない。
だから0時間だ。
その後2時間で出来る限り遠くへ行く。
もうこれしかないだろう。
そして時刻は体感で12時あたりとなった。
「よし!」
「あの~」
「さらばだッ!」
「だから、待ってください」
「いや、150万よ
俺は本当に急いでいるんだが!?」
「私もご一緒したいのですが」
「え?」
正直他人に構っている暇も時間も余裕もない。
ここはしっかり断ろう。
チャンスは一度だけだ。
捕まれば……
うん、考えたくない。
男色が趣味な領主なら150万はきっと大丈夫だろう。
「すまんな
150万、俺には――」
「大きな声で叫びたくなってきましたわ」
「一緒に行こう!
こんな可憐な子を見捨てていくなんて俺にはできない。
もともと150万のために俺はこれを計画したんだ!
さぁ!
急いでいこう!」
「はい、よろしくお願いします」
にこやかな150万の笑顔に騙されてはいけない。
これは末恐ろしいな。
俺はまたひとつ異世界で学んだ。
馬車の床の穴を布きれで隠し、俺たちは馬車から脱出することに成功した。
見つからないように、音を立てないように茂みの中を進んだ。
街道、進行方向左側面に止められていた馬車から脱出した俺たちは一度左の森を進行方向に進んだ。
そして馬車から十分離れたところで、街道右側の森に進む。
これはかく乱の意味ともう一つ重要な意味がある。
それは、このあたりが国境付近であるということだ。
左に進めば帝国だが、右の森を進めば別の国に出られるらしい。
150万が言うには、ルマグという国だとか。
俺たちは2人で懸命に森を進んだ。
1時間くらいだろうか、早歩きで進んでいた俺たちの目の前に村の後らしき痕跡のある場所に行きついた。
「な、なんだこれ?
ちょっと怖いな」
「これはおそらく、かつて帝国と接していた小国の村でしょうね。
帝国によってすべて焼かれたのでしょう。」
時間が経っているのか、家らしき建物には雑草やつるが伸びは放題になっていた。
何かがあった痕跡しか残っていなかった。
「今日はここで休みませんか?」
「それもそうだな。」
夜の森は魔物が出る。
ここまでは運よく遭遇しなかったが、今後もそうなるという保証はない。
自慢じゃないが、俺の戦闘力は1くらいだ。
危機に直面すると俺に眠っている力が覚醒するなどという都合のいい展開は起きないだろう。
ということで、俺たちは廃村で一晩を過ごすことにした。
俺は寝床に適した場所を探すため、村を見て回る。
金属や石で造られた建物は何とか外形をとどめていた。
ちょうど、石造りの建物の中に、それほど荒らされてない一室を見つけた。
そこに俺と150万は、隠れつつ夜を過ごすこととなった。
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