第20話 ミッション・インポッシブル 後編
目指すは城下町南部。
帝都は主に5つの地域に分かれる。
中心に帝城。
北部に貴族の住宅街
西部に商業街
東部は森林地帯。
そして南部が住宅街。
この南部のさらに南部は帝都の中で比較的治安が悪い。
人やモノの出入りの要所でもあり、一番出入りしやすい。
現在、西部の商業街にいる。ここから移動して南部に行き、今日は宿を取るつもりだ。
明日、南部からラインという都市に向かう。
――夕刻
俺は住宅街を抜け、帝都最南端に向かった。
出来る限り人ごみに紛れ、よそ者と見られるような行動は慎んだ。
いくつもの宿があり、歓楽街もある。
建物はどれも4,5階建てだ。
中世のような雰囲気があり、
石の建物もあれば木の建物もある。
高すぎず、安過ぎず、を意識して宿の最上階を取った。
一階よりも安全だろう。
「ふぅ~」
宿のベッドに腰かけて俺はヒト息つく。
ここまでは予定通り。
明日のライン行き馬車の時間も調べた。
すると、朝食後、すぐに出発とはいかなかった。
馬車が出るのは昼過ぎ。
これは、次の宿場町が近いからだそうだ。
基本、夜は移動しない。
昼間のうちに次の宿場町へ向かう。
整備された街道には、そうそう魔物は出ない。
問題は魔物ではない。山賊である。
夜はこういった連中が待ち構えている。
明日はどうするかな?
下手に出歩くのは良くないな。
俺は、いろいろ考えて、服を買うことにした。
今持っているのは、帝国から借りた服だ。
普通よりはいいモノらしい。
そういうのは、後々厄介のタネになりかねない。
俺のオタク知識がそう、教えてくれた。
ということで新しい、少しみすぼらしい服を購入しようと決めた。
ナツキは宿で簡単な食事を取り、その日は部屋から出なかった。
それゆえ、知る由もない。
店のオーナーと若い騎士風の男が会話していることなど。
――――朝
ボロボロのベッドから這い出る。
眠い。
ベッドの質が悪すぎる。
浅い眠りに悪態をつきながら起きた。
さて、行動しよう。
もう一度この部屋には戻ってくる。
ということで、スマホやらの所持品は置いておくことにした。
珍しいものだし取られるとまずい。
でも、部屋に置くにしても少し心配だった。
ここセキュリティは万全か!?
そんなことはないだろう。
さすがにアルソ〇クも異世界までは、駆け付けてくれないだろう。
スマホやペンは隠しておこう。
部屋はワンルーム、トイレ・風呂なし。
ベッドがあるだけ。
俺は思案し、天井を見て思いついた。
そこに隠そうと。
ベッドに乗って天井を押す。
ボロい宿だけあって板が歪んだ。
そこにスマホなど所持品を隠しておいた。
これでひとまずは安心だらろう。
宿を出てまず食事。
昨日の夜と同じものを俺は頼んだ。
味のしないスープとパサパサのパンを胃に流し込む。
食事処で服屋の場所を聞くと店の右手を少し行けば服屋があると教えてくれた。
その店は旅に必要なものも売っている。
何ともラッキー。
俺はすぐにそこへ向かった。
歩き始めて、ナツキは気が付かなかった。
彼を視る視線があることに。
その騎士風の男は音を立てずにナツキの背後に忍び寄る。
頭が重い。
ナツキがそう感じた時には、身体から力が抜け崩れ落ちた。
騎士風の男がナツキを運んでいく。
周囲にいる人は、一瞬驚くもすぐに元に戻る。
ここは帝都でも治安の悪い町――それが当たり前の世界。
食事処からわずか5分の場所にあるその店に、
ナツキがたどり着くことはなかった。




