第19話 ミッション・インポッシブル 前編
葉山、大沢、日咲さんとの話し合いの翌日。
さっそく俺は、リアを通じて城下町に行きたい旨を伝えてもらった。
朝の申し出から間をおかず、担当の者がやって来た。
宰相直属の人らしい。
長身でゴツイ身体だ。
なんとも文官には向かないのでは!?と思ってしまうような人だった。
俺は、ケガがだいたい治り、一度外の町を見てみたいことを相談した。
すると、拍子抜けするほどあっさり許可が下りた。
いくつか制限はあったが、どれも些細なことだ。
自らを異世界人と名乗らないとか、
ひとりで行動しないとか、
そんなありふれたものだった。
護衛の騎士を二人も用意してくれるとのことだ。
まぁ監視も含めてだろう。
それは仕方ない。
今日中に帰る予定となっている。
一応、帝国の人間であるリアには本当のことを言えない。
でも世話になった恩は忘れたくないな。
たとえ仕事だとしても。
こっちの世界に来てからは、
用意された服を着ているため制服はしまってある。
異世界に飛ばされたとき、俺の制服の中にはいろいろ入っていた。
スマホにペン、メモ帳、目薬、ハンカチ、絆創膏、財布などなど。
スマホでときどき音楽を聴いたが、電池を充電するすべがないため、あまり使っていない。
今回の調査で俺はスマホとペン、それに小銭を持っていくことにした。
文献や風景などを写真で保存しようというわけだ。
大沢がモバイルバッテリーを持ってるらしいから、充電が無くなるまで撮ってやる。
収納スペースから取り出した制服を俺は漁る。
あった!あった!
胸ポケットに入れてある目的の物を取り出した。
「リア、これをやるよ」
俺はボールペンをリアに渡した。
「いいのですか?」
ぱぁーと笑顔になるリア。
若干、飛び跳ねているようにもみえる喜びようだ。
「ああ。
この世界でなら一品物だ。
売れば結構なお金になるはずだ。
生活の足しにしてくれ。」
ただの安物のボールペン。
だが、異世界の品だから結構な値がつくだろう。
リアの生活はお世辞にもいいモノとは言えないと思う。
特にこの城の中では……
俺がいなくなれば、もとの屋敷に戻るんじゃないかな。
その時、少しでも生活の足しになれば!そう思い、ボールペンを渡した。
リアは嬉しそうにボールペンを眺めた。
「じゃ、そろそろ行くよ。」
「はい、お気をつけて、いってらっしゃいませ!」
ぺこっとお辞儀をして笑顔のお見送り。
その笑顔が妹とダブって見えて微かな罪悪感が生まれた。
そんな感情を持ちつつ、ナツキは町を目指した。
――――――――城下町
城下町はすごい賑わいだった。
帝城から馬車で、20分ほどの場所。
日本の商店街を思い出す光景だ。
騎士の一人は馬車番、もう一人が俺の護衛だ。
寡黙な人で全然しゃべらない。
俺は好きに辺りを歩いていく。
時には店により、お土産と称して小物や果物を買った。
それを騎士の人に預ける。
帝国から特別にと、一万リグの支給があった。
その1万リグを半分使ったあたりで、俺は騎士の人に尋ねた。
「すいません。
トイレとかってどこですか?」
俺のプランはトイレの最中に行方をくらまそうというものだ。
陳腐という無かれ。
これでも考えたんだ!
「……向こうの……あの建物に、
確かあったはず。」
「わかりました。
行ってきますね。」
騎士の人の指さす方に大きな建物がある。
ナツキは速足でその建物へと向かった。
よし、うまくいった。
ひとりその建物に入る。
騎士の人は出口で待っているそうだ。
そこで、俺はトイレに入った。
やはり。
日本でいうところの汲み取り式のようなトイレのため、裏口近くに配置されている。
汲み取った汚物をまさか正面から取り出すことはしないだろう。
そう思ったが、ビンゴだ。
トイレ横に外へとつながる扉あり。
そこから外に出られる。
出たところは裏路地のような人の居ない小道であった。
ゴミやら残飯やらが散乱している。
帝都でも裏に入るとそういうところがたくさんあり、その一つだ。
ナツキはそこからを通り、うまく繁華街を抜けた。
が、その後に続く者の存在に、
ついに気が付くことはなかった。
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