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無能お荷物の逆転!!異世界転移  作者: 今日も晴れ
第2章 奮闘編 ~状況が 俺に楽をさせてはくれません~
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第18話 プロローグ2 ~銀狼、それはある少女の名~

 


(ある少女の視点)


 その日も、私は傭兵として働いていた。

 幼いころ、住んでいた村は帝国に滅ぼされた。


 だから、それ以来、私は傭兵だ。


 今日の仕事の難易度は、それほど高くなかった。

 仕事の内容は、薬草採取をする薬師の護衛。

 王国と帝国の国境付近は大森林地帯で、さまざまな植物が自生している。

 薬草として使える植物も数多い。


 傭兵・冒険者合わせて7人、薬師は5人。

 時々、森の魔物と対峙しながら、王国の国境付近で野営をした。


 何事もなく朝を迎えるだろう

 そんな私の予想に反して、それは起きた。




 日も沈み、夜も深まったころ。

「騎馬隊が向かってくるぞ!」

 鋭い声で沈みかけていた意識が覚醒した。


 寝床を出て、周りの傭兵と冒険者に合流した。


「間違いねぇ!

 ありゃ帝国の徽章だ」


 魔法を使って視力を強化した男が断言した。

 私も視力を強化する。

 騎馬隊の後方、風にたなびくその旗には確かに帝国の文様が記されてあった。


 街道を一直線に駆けている。

 接触は時間の問題だった。


「クソッ!」

「しかたねぇ!

 おめえら、戦闘用意だ」


 大雑把には、傭兵が前衛を、冒険者が後衛を、勤めることになった。

 それぞれ持ち場につく。

 薬師を森の中に匿う冒険者、

 それを守るように展開する冒険者、

 街道左右に伏せ、待ち構える傭兵。


「来たッ」

 誰かの叫びと同時に

 暗闇で稲妻の一閃。


 待ち伏せを気づかれ、傭兵4人中左右一人ずつ、計2人が一瞬で戦闘不能となった。


 私は、この場で隠れていることは不利と判断した。

「待て!銀狼ッ」


 銀狼――私のいつの間にか付いていた二つ名だ。

 剣筋の速さ故、その軌跡は残像となり、

 剣の輝き――銀色の光がまるで狼のように見える。

 そう、噂され、つけられた名前だ。


 低姿勢のまま、弾丸となって騎馬集団の側面から横一閃。

 3,4体の馬の足を捉え、馬が転倒する。


 支援魔法で身体強化した彼女の最速の剣に、

 帝国の騎馬隊も無視できなくなった。

 彼女が作った隙を逃がさず、冒険者は遠距離から魔法攻撃を開始した。


 騎馬隊の一人が、首にかけられていた笛を取り出した。


「まずい!!

 銀狼ッ」


 彼女もその声に気付き、一瞬後、男の行動の意味を悟った。


 男は笛に口をつけ、それを大きく吹いた。

「――――――ッッッ」



 音は聞こえない。

 なぜなら、それは”音無し笛”言われる魔道具だからだ。


 この笛は、辺りにいる魔物を興奮させる。

 そして興奮した魔物は攻撃対象を定め、見境なく、攻撃を始める。


 やられたッ!


 私は騎馬隊と距離を取った。

 このあと起こるであろうことを想定してのことだ。


 ここら一帯の魔物が今、こちらに向かっているだろう。

 音無し笛で凶暴化した魔物が。


「急げ」

「「「「はっ!!!」」」」

 騎馬隊はこの場を離脱していった。


 左右の森が騒がしくなり、

 一陣の風が吹き抜ける。


 今は深追いしている場合ではない。

 私たちは非戦闘員の薬師を中心として円陣を組んでいた。


 傭兵と冒険者は口々に話した。

「きたきた

 モリイノシシに、レッドウルフ、モリグマもいるな」

「すごい数ですね」

「二人の容体は?」

「ヒールは終わりました

 命も大丈夫でしょう」

「でも今から戦闘は無理でしょうね」

 薬師・離脱組7人を冒険者・傭兵の5人で守らなければならない。


「クソ、厳しいな

 せめて攻撃の方向だけでも絞れればな。」


 全方位を警戒し、守るのは至難の業だ。


 そうこうしていると、第一陣が姿を現した。

 街道左手。

 レッドウルフが5体。


 銀狼が前に出る。

 身体強化に加え、剣にも風の付与魔法。


 切れ味の増した銀狼最速の剣が、一瞬で5体のレッドウルフを両断した。


「す、すげぇ~」

 誰かが呟いた。


 そのあとも左手からのみ、魔物が襲って来た。

 銀狼の剣戟と冒険者の遠距離攻撃魔法で一行は、窮地を脱した。


 魔物の死骸で街道があふれていた。

「な、なんとか、なったな」

 それぞれが腰を下ろし、休んでいたその時、


 聞こえてきた

 助けを求める声が!




「たすけて~~~~~~~」






 今まで魔物が出てこなかった右手の奥からの叫び。

 私は、思うよりも先に体が動いていた。


 巻き込んだかもしれない。

 もし、そうなら早く助けないと。

 他の傭兵や冒険者の制止を振り切り、森の中を駆けた。



 見えてきたのは、粗野な格好をした青年が獣に追いかけられているさま。

 やっぱり、魔物に追われていた。


 助けないとッ!!


 獣の背後に走り寄り、モリグマに一閃。

 この中の獣でモリグマは唯一毒もちである。


 これを先に仕留める。

 続いてレッドウルフ。


 二閃!!

 レッドウルフが宙を舞う。



 一閃!

 モリイノシシが地に倒れる。



 二閃!!

 モリグマの両肩が落ちる。



 数が多い。

 近距離の魔物は剣で、

 中距離以上の魔物は、剣に乗せた風の刃で両断していく。


 連戦での疲れと魔法の連続行使で限界が近づいてきていた。

 でも、考えていても仕方ない。

 私は剣を最速で振るい続けた。



 あの人は?

 そう思い、視線を一瞬外し、目で探す。



 私の目に写ったのは、

 今まさに川に飛び込んだ青年の姿だった!!


『ぼっちゃん!!』



 なッ!?


 青年が川に飛び込んだ。

 無謀な賭けだ。


 一瞬、ほんの一瞬思考が停止し、それゆえ、私に隙ができてしまった




 その一瞬に――――




 スッ!!


「ッ!」





 モリグマの爪が肌を薄く切り裂いた。

 その部分がうっすら赤くなり、そして血が流れ出した。


 しまったッッ!!



 そう長くない時間でモリグマの毒が身体に回るだろう。

 そうなれば、刻一刻と身体がマヒしたようにしびれてくるはずだ



 青年を助けたかったが、どうやらそうはいかないようだ。

 最低でも、体が動かなくなる前に目の前の魔物をすべて倒さないと私は死ぬ。



 時間にして数分。

 私は力を振り絞り、

 目に見えている獣をすべて倒した。

 倒すことができた。


 しかし、


 それが、私の最後の記憶となった。






お読みいただきありがとうございます


第2章開始しました!


ご意見・ご感想・ご指摘大歓迎です

今後ともよろしくお願いします


今日も晴れ

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