第14話 そろそろ重い腰を上げようか 後編
その夜。
週休という概念がないこの国で14日目が終わろうとしていた遅い時間。
コンコン。
ドアのノックされる音。
電気なんて便利なものはない。
明りを得るには、この世界では、魔道具か魔法かろうそく、専用のランタンが必要だ。
この部屋には帝国用の客室だけあって魔道具があったが、いつも寝るときはリアが持ち出している。
そのため明りを得る物がない状況だ。
リアはもう休んでいるはず。
それにリアならノックではなく声を掛けてくる。
「どちらさん?」
声を掛けるとドアが開いた。
誰か入って来た。
「久しぶり。」
声の主に俺は言った
「俺、怖い系は苦手なんだ。
いきなり指先に火をともすなよ。」
部屋に微かなあかりをともしていた本人はそれを消した。
大沢だ。
「案外、月明かりも乙なものだろ!?」
そう促すと大沢は外を見た。
「そうだな。
気が付かなかった。」
「どうした?」
本題を聞く。
大沢との仲は悪くない。
趣味友で、学校では俺のとばっちりを受けないために距離を置いているが、休日にはイベントに行ったり、アニメの話をしたりする仲である。
「スキルは?」
言葉は少ないが何を聞きたいのかわかった。
葉山と同じようだろう。
「スキルはなしのままだ。
たぶん増えることもないだろう。
あと魔法も使えない。」
「……そうか」
沈黙が流れる。
「……帝国は……まずい。」
そこからぽつぽつと大沢は話し始めた。
「2週間後、迷宮探索に行く予定なのは知ってるよな。
それが延期になった。
来月も主に訓練をするそうだ。
昨日、これからの予定を言われたんだけどさぁ
訓練が終わったら、迷宮探索や魔物退治で実戦経験を積んでいく予定になったよ。
そんで、その後のことなんだけど、騎士団と一緒に見回りに行かないかって誘いがあったんだ。
昨日の昼過ぎに。たぶん、6ヶ月くらい先の話とか言ってたけど。
もちろん、坂本はOKしていたよ。
メイドから聞いた話だと北のほうはよく盗賊が出るらしい。
わかるよな!?」
う~~ん。
分かりたくはないが、
わかってしまう。
「盗賊討伐による人殺しか?」
「……ああ、俺もそうだと思ってる。」
思考が飛躍しえいるかもしれないが、もう疑っていなかった。
これもオタク知識の賜物だろう。
もし間違っていたならそれはそれでいい。
帝国側の人間は、召喚者の知識が必要だといった。
言葉をたがえず、日本のことをクラスメイトに聞いていた。
そして当然知っているはずだ。
俺たちが争いとは無縁の世界で暮らしていたことを。
戦うことと人を殺すということが一致していないということを。
だから訓練を伸ばしたのだろう。
実戦経験をゆっくり積ませることに重点を置きだした。
そして、一人前として騎士団との活動。
俺はミリタリーにはそんなに詳しくないが、確実にこの世界に順応させるプログラムになっていると推測できた。
「大沢は、どうする?」
「僕はレベル22だ。
魔法も火を少し操るのと水を出せるくらいしかできない。」
いや十分すごいだろ。
俺はレベル1のままだし。
魔法は使えないし。
魔力適正もない。
「だから迷っている。」
「大沢はどうしたいんだ?」
「帝国はやばい。
ここからは出るべきだと思っている。」
「なるほどな。」
「ナツキはどう思っているんだ?」
聞かれた俺は、今まで本から得られた推測を話した。
「書物は帝国の検閲が入っているな。
情報統制は思いのほか徹底されているようだった。
まぁ~このままじゃヤバいっていうのは俺も同感だ。
だからこれから少しずつ町に行ってみようと思ってる。」
「そうか。
やはり本はダメだったか。」
ん?やはり?
「なんか知ってるのか?」
「ああ、俺んとこのメイドが言っていたんだが、帝国は他国に比べてそこら辺を徹底しているらしい。
中立のいわゆる冒険ギルドが帝都にないのも、その一環とか。
調べるんだったら帝都じゃなく少し離れたギルドのある街にした方がよさそうだぞ。」
なるほど。
帝都はすでに皇帝陛下の支配下で帝城の図書館と変わりないということか。
そして調べるならやはり冒険者ギルド。
定番中の定番。
ただ、ギルドに行くために別の町に行く必要があるとか、なんというハードモード。
「別の町ってどれくらいかかる?」
「うちのメイドの話だと、1~2週間くらい。
移動は昼間のみで、雨なんかの天候不順でよく足止めがあるらしい。
時間はかかるが、魔物と戦わなくて済むって言ってたな。」
なるほど。
安全マージンですね。
わかります。
「往復1か月か。
それにしても随分メイドさんと仲良さそうだな。
しっぽりウラヤマだぜ。」
「僕のメイドはおばさんだ。」
「おま、おば専だったのか!?」
ナツキが驚愕していると
「おい、冗談はやめてくれ。
マジで怒るぞ。」
「ごめん、ごめん。
そういやお前も後ろの席だったな。」
謁見の間で俺と同じく急遽用意された後ろ三席のうちの一つが俺。
もう一つが大沢だったな。
「うちのおばさんはとにかくしゃべる。
聞いてもいないのに1,2時間しゃべりっぱなしだ。
ほんと、どうにかしてほしいよ。」
リアでよかった。
「リアでよかった。」
「おい、心の声が漏れてるぞ。」
「…………」
「まぁいい。おばさんもいろいろ役に立つし。
本題だが、ナツキについてだ。
どうにも目立っているらしい。」
「えっ?」
目立つ?
俺が?
どういうことなんだ??
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