第126話 エピローグ5(2) ~新時代の幕開け~
アスナ共和国
厳戒態勢が敷かれる中、
夜が明け、朝日が昇った。
多くの兵は見回りや警戒に従事しながら、
多くの職員は事務作業に忙殺されながら、
その不安な夜を過ごしていた。
「帰還術式の起動を確認!!」
地下の転送に使われた部屋で職員が声を上げた。
一同は固唾を飲んで見守る。
「来ます!」
部屋の中央がまばゆい光に包まれ、
それが人の形へ収束する。
「成功です!」
そこに現れたのは、2人のボロボロの男。
双方ケガをしているが、命に関わるほどではない。
「イルマ隊長より大魔法使い様に至急お伝えしたいことがあります!!」
男の言葉で治療よりも先に報告がなされることとなった。
急きょ会議室には、
関係閣僚や軍関係者が集められた。
「すまんの!遅くなった」
大魔法使い以下数名が入室する。
「いえいえ、大丈夫ですよ
結界のほう、お疲れ様です」
「どうってことないわ
それよりイルマの部下とはこやつか?」
大魔法使いの言葉に見事な敬礼を返す二人の男。
「聞こう」
「ハッ
氷と土を司ると思われる聖人2体の撃破に成功しましたッ」
これには大魔法使いを含めた集まっていた者すべてが驚いた。
「なんと!?」
「聖人を倒したと、まことか?」
「聖女殿と海龍殿は!?」
「二人だけで倒したのか?」
「落ち着け!
報告が聞こえんじゃろ」
矢継ぎ早に飛んでいた質問が止む。
続けて大魔法使いの質問が始まった。
「ビッチと脳筋は?
無事なのか?」
「はい
聖女様、海龍様共に無事であります
ただ、お二方ともかなりの疲労があるようで当分は魔法が使えなくなると」
「それはそうじゃな
聖人は2人だけでか?」
「いえ、その……」
「どうしたんじゃ?」
「君!簡潔に!」
「ハッ
申し訳ありません
その、聖女様より当該戦闘において魔族との同盟を結んで͡事に当たった、と」
「魔族と!?」
「それはどういうことか?」
それらの声を大魔法使いは黙らせる。
「魔族はどれくらいの規模じゃ?」
「2体です
ガルスと名乗る者と
転移魔法を使う者です」
「ほぉ~
魔将軍のガルスか
それに転移魔法の使い手……あやつか」
「御存じで?」
近い席に座っていた首相が尋ねる。
「ああ、一度戦ったことがあるんじゃが当時でも相当強かったのを覚えとる
なるほどの
じゃがその4人でか?」
――それでも聖人二体を相手にするには歩が悪すぎるの。
「いえ、それともう一人
女性なのですが、
この方が、その……圧倒的にお強く
単独で聖人を撃破
その後、その女性と聖女様たち協力のもともう一体の聖人を撃破しました」
驚きを口にする者や疑いを口にする者でまた騒がしくなる。
「ええい!
うるさいの
聞こえんではないか!
その者についてもう少し詳しく!」
「ハッ
女性は20代ほどで、長身でメイド服を着ていました。
また強力な魔法を使ったと思われる攻撃を何度も繰り出していたのを確認しています。
それと、その女性はいくつかよくわからない言葉を話していました
『もーど変更を忘れていました』
『申請、戦術でーりんく』
『かそう空間構築』
『はっきんあるごずむ起動』などです」
会議室の多くの者はその報告に疑問符を浮かべていた。
聞いたことのない単語にあれこれ推測を重ね合っている。
しかし、その中でただ一人、大魔法使いは驚きに目を見開いていた。
「な!?
戦術データリンク!?
まさか……
いや、仮想空間構築に
ハッキングアルゴリズム
どれもこの世界には無い概念じゃ
だとすれば、まさか――
戦術データリンクを使ったということは、
他にも何体かじゃなくて何人かおらなんだか?
同じような容姿をしたモノが」
「い、いえ、その女性一人だけでした」
「ん?
いや待て、マスターがいるはずであろう」
――戦闘ともなれば、状況を見極め、コマンドを送るマスターの存在が不可欠じゃ
「いえ、戦闘中は我々と聖女様に海龍様、魔族、そしてその女性以外は誰もいませんでした」
「そ、そうか」
――ワシの知っている兵器ではないのかもしくは改良された物か
それからも報告は続いた。
関係閣僚や軍関係者はひとまずの勝利に喜んだ。
******
それから5日後
全世界に対して宣言が成された。
当然アスナ共和国にもそれは届いた。
5日前に報告が行われた会議室にて、
同様の面々が再び集まっていた。
「即時開戦だ
国内の教会派を一掃してくれる」
「ひとまず、捕らえましょう
教会派全員が今回の宣言に加担しているわけではありませんしね」
「幸い、各方面とも軍の出撃準備は整っております
先の厳戒態勢を解除されなかったのは英断でしたな」
「さすがは大魔法使い様といったところです」
「世界が動き始めたのじゃ
これから忙しくなるの
まさか、アチラさんから宣言してくれるとはの」
アスナ共和国の教会派はもともと数が少なかったこともあり、
数日で一掃が完了した。
一掃したと言ってもほとんどの者が教会への信仰を辞めることで話がつき、
一部の教会への信仰者(派遣されていた司祭など)は国外追放となった。
それから一週間が経ったころ。
大魔法使いは世界各国の報告を聞いていた。
「シェルミア王国北東軍とボルガ共和国軍の小競り合いが国境沿いで起きています」
「ルミア連合では、構成国の内、教会派と反教会派に別れて緊張が高まっています」
「エルタニア王国でも同様の事態が起き、我が国への救援要請が入っています」
「大陸西方のスイン共和国とイサイ王国ですが、教会の賛同国となりました。
イサイ王国ですが、宣戦布告宣言日に内乱が発生し、王族が一掃されています」
「シェルミア王国ですが、第2王子が教会派の支援を受けているようです
第1王子や第4王子は未だ行方不明です」
「セントフィル都市連合でも緊張が高まっています
クレタ州とフェニキア州で暴動が立て続けに起きています」
「世界大戦でも起きそうじゃな」
「師匠もっと真面目に聞いてください」
大魔法使いと共に報告を聞いていた白衣の女性が、たしなめる。
大魔法使いはそれを聞き流しつつ、報告者に指示を出していく。
「とりあえず、エルタニア王国への救援はもう少し様子を見てからじゃな」
報告者に最後の指示を伝えた頃、
部屋に白衣を着た男が走り込んできた。
「大魔法使い様!
緊急です」
この一週間何度目になるかわからない“緊急”が舞い込んできた。
白衣の男は、大魔法使いに耳打ちする。
「“地下”からです
お急ぎを」
それが今までとは違う報告であったことに驚く。
しかし大魔法使いの中では、その報告には見当がついていた。
「わかったのじゃ」
閣僚や軍関係者でもほとんどの者が知らないその施設へ向かう。
「見てください」
中にいた研究者の指し示すモニターを見る。
「ついに、ついに、この時が来たのじゃな」
「時空間の歪が拡大しています
変動値の急激な上昇を確認
もうじき臨界点に到達すると思われます」
ちょうど、その時、
その場の計器類が振り切れる。
「来たか!!
あの男の言っていた通り“異世界人”が」
「空間の歪を検知
変動係数がもとに戻っていきます」
「座標出ます
ここより北北西におよそ150㎞の距離です」
「全パラメーター適正値に戻りました」
(あの男は言っていたの
やってくる“異世界人”は規格外
生かすも殺すもワシ次第じゃとな)
大魔法使いは、やってきたであろう異世界人へ向けて呟く。
「ようこそ、最果ての世界へ」
第5章完
無能お荷物の逆転!!異世界転移
第一部 完
お読みいただきありがとうございます!
ついに第5章、完結です
“無能お荷物の逆転!!異世界転移” ですが、
本日をもちまして第1部完結となります。
第2部などは、できたら来年中に行う予定です
毎週日曜日の23時頃に活動報告を更新してます
今後についてなどは活動報告に書いていくつもりです
皆様、本当にありがとうございます。
今日も晴れ
2018年3月5日追記
2018年3月16日から第2部連載開始!!
是非よろしくお願いします。
第1部改訂のほうは並行して少しずつやっていきます。
(第2部連載開始後は第2部優先になるかと思います。)
2018年3月16日
第2部連載開始しました
タイトル
紫の領域となっております。
作者の作品一覧からすぐに見つかるかと思います。
ぜひ遊びに来てみてください!
一週間で50ブクマくらい行きたいな~(笑)
応援していただけると嬉しいです
よろしくお願いいたします!
今日も晴れ




