第124話 聖帝の一夜革命
帝城
皇帝の間
「異世界人のチカラ
これほどとはな」
帝国第2師団を預かる師団長“力帝”
その名の通り“武”に優れた男である。
その力帝は、左腕を押さえ、苦悶の表情を浮かべた。
「ここも時間の問題でありますな」
力帝をサポートしていた老人が声を掛ける。
“博帝”の称号を得ているその老人は
既に隠居した身ではあったが、
衰えた体力を技術と経験で補っていた。
「おいおい、
もっと楽しもうぜ
こちとら上物を逃した後なんだ」
「松浦くん
これは遊びじゃないよ
もっと真面目に!」
力帝と博帝と戦っているのは、
松浦と坂本であった。
2人の後ろには数名のクラスメイトも控えていた。
ナツキを逃した坂本一行は、
もともとの計画を実行していた。
革命――
圧政に苦しむ帝国を打倒するため
今こそ立ち上がれ
帝国を解放せんがために
帝国師団が、
帝国騎士団が、
そして多くの帝国臣民が、
この戦いに参戦していた。
また、その中心には
坂本達の姿もあった。
「もういいだろ
十分稼いだ」
「そうじゃですな
《黒霧》」
突如現れた黒い霧に
力帝と博帝が包まれた。
「【聖刻ノ風】
……ッチ
今日は逃げられてばっかりだクソ」
松浦の剣で霧をはらった時にはすでに
2人の姿はどこにもなかった。
その後、帝城の陥落宣言が成されることとなる。
逃げたのは、元皇帝に味方した少数の第2師団と文官やメイドなど。
帝城を守る守備隊や騎士団、第2師団は壊滅した。
壊滅していたが、その割に戦場となった場所に残った死体の数が
少なすぎることはあまり問題にならなかった。
被害でいえば、帝都はそのほとんどが燃やし尽くされていた。
なぜか、戦場となっていない場所までもが。
帝都には20万の民が暮らしていたが、
今回の犠牲者は2千を下回っていた。
即時降伏をし、革命側へと回った12万ほどの民を考慮してもその数はおかしかったが、
犠牲者は少なく済んでよかったという考えと
各師団が12万の民の受け入れに手一杯であったことが重なり
ほとんどの者は気にも留めなかった。
また、他のクラスメイト達も帝都に散らばり
革命に参加していた。
クラスメイトの配属された場所は、
全て本当に、圧政に苦しむ人々が存在していた。
一部の帝国貴族による奴隷や臣民への虐待の場面、
無理やり働かされている女性のいる娼館、
悪趣味の変態貴族の館、
スラム街。
この戦いでクラスメイトの多くが
初めて人を殺めたが、
その事実よりも自分たち自身が多くの人を助けたという事実が勝っていた。
かくして、一夜の革命は成功を収めた。
*****
聖帝の一夜革命から5日後
元帝城跡地には、
多くの民が集まっていた。
その民の見守る先。
壇上には、元師団長の面々、さらに10代と思しき少年少女
そして――2人の聖人の姿があった。
その立ち居振る舞いで誰しもが
無意識に彼ら2人を“聖人”と認識できていた。
片方はもともとこの帝国に度々姿を見せていた“聖人”
もう片方は、近くにいる少年少女と同じような黒目黒髪の青年。
「お集まりいただいた皆様
今日は報告と宣言があります」
声が響く。
壇上の誰かが発した。
魔法により増幅されたそれは帝都のどこにいても聞くことができた。
「聖人である私から
新たな聖人を紹介しよう
こちらの彼
異世界よりはるばるこの世界を救うため
駆け付けてくれた真の勇者
坂本瞬
彼が新たな“聖人”だ」
集まった10万を超える民の歓声。
民衆が新たな聖人の誕生に歓喜する。
「そして今日、
我ら聖人は、
否、教会はここに神聖教国の誕生を宣言する
その民は諸君らだ」
本来中立である教会の建国宣言に多くの者が驚く。
次第にその驚きは、
自身らがその国の民になれるという事実によって歓声に代わる。
「その諸君らにまずある事実を知らせなければならない。
それは近々起きるであろう大きな“災い”の話だ。
それはとてつもなく大きく、
今の世界ではどうすることもできないだろう。
だから、我々教会は、
中立という立場を捨て、建国を宣言した。
のちの世界のために、我々は立ち上がるが、
それだけでは足りない。
多くの国の民よ、
聞こえているであろう。
見えているであろう
貴方たちの協力が必要だ。
そして各国の皇帝よ、王よ、代表よ
神聖教国の元へ集え。
神の導きは示された!!」
歓声が一段と大きくなる。
神の代弁者が創る国。
そこに集うは神民となる。
その声や映像は、
全世界の教会にある魔道具へと発信されていた。
全世界はその日、
神聖教国誕生を知ることとなる。
それだけでも世界は混乱に陥っていたが、
それはまだ、序章に過ぎなかったと知ることになる。
「我々教会は、
来たる“災い”に備える。
全世界の国々よ
神の御許へ集え
今日より全世界の国々は
我々神聖教国の一部となる!!
また、我々教会、聖人、
そして“神”は
歯向かう全世界に対して
宣戦布告する」
第5章本編完
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