第123話 Re:“ナツキ”の戦場
一際大きな発光。
一面の白色。
あまりの眩しさに視界が強制的に閉ざされる。
コンマ数秒。
目を開ければ、
何かがすごい勢いで飛んでくる。
それは、まるでボールのように地面を何度もバウンドし、
しかし勢いそのままに俺の方へ向かってきた。
ッ!?
――――ドクン
咄嗟に飛んできたその“何か”を受け止める。
それでもその勢いを殺せず、
一緒になって地面を転がった。
腕の中のそれを抱きしめながら、
止まるのを待つ。
何回転したかわからない。
今、自分がどれだけ元の場所から離されたのかもわからない。
わからなかったけど、
ただ、
手が震えていた。
脳が理解することを拒んでいた。
――――ドクン
心臓は大きく一つ鼓動した。
「あ、ああ……あ――」
それは、
綺麗な緋色の面影などなく、
全身を濁った赤で染められていた。
ぐったり俺の腕の中で横たわるそれは――
――――レイ、だった。
腕の中で急速に熱が失われていく。
――――ドクッン、ドクン
「あ、ああ、れ、れい
れい!!」
レイから流れ出す血がそこに池を作ろうとしていた。
(ツヨク・オモエ)
――――ドクッン、トク ン
「血が……止まら、ない
……クソッ
止まれよ!!」
出血箇所を押さえるが、
それが多すぎて二本の手では到底足りなかった。
(カンジョウニ・ミヲ・マカセロ)
――――ドクッン、ドクンッ
「クソッ!!
クソッ!!」
ウソだ。
こんなところで、レイが――
クソッ!チクショォ!
(モットダ・ソノミ・スベテヲ)
――――ドクッン、ドクッン
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
(理性を捨てろ)
この時、
ついにナツキは、
気づくことはなかった。
ナツキの傷口近くのレイの血液が薄く発光していることに。
継承者と保有者、
――――二つが重なった。
*****
レイを横たえて、
ナツキは血に濡れたその手で何かを始めた。
空を切るように手を動かす。
なにもなかった空中に血文字が浮かび上がった。
「『万物全素を以って癒せ “治癒ノ光”』」
暖かい光がナツキとレイを包む。
傷口が塞がり、傷が癒えていく。
「これで致命傷はなんとかなるだろう」
ナツキは、立ち上がり、
腕を回したり、手を握ったり開いたりし始めた。
「やわな身体だな
もって60ほどか」
ナツキは辺りを見回す。
「あれだけの致命傷を負いながらもこの剣は離さず、か」
そう言いながら、
レイの手から刀を引き離した。
2,3素振りしたナツキは、刀を掲げる。
「いささか軽いが、いい剣だ」
ナツキは、歩き出した。
自身へ急速に向かってくる者がいる方向へ。
「さて、相手になろうか」
ナツキの発言などお構いなしに、
剣帝はナツキの懐へ入る。
一閃
――剣帝の剣は空を切った。
剣帝は目を見開く。
確かに斬った、そう確信したはずなのに。
剣帝の目の前には、無傷のナツキがただ立っていた。
ナツキは剣帝の剣撃のその刹那、
剣帝の間合から外れていた。
「【一ノ斬】」
「【三日月】」
「【帝剣返し】」
剣帝が次々攻撃を仕掛ける。
しかし、ナツキはそれを難なく受け流した。
まるで意味を成さない攻撃に剣帝はある種の恐怖を抱く。
一方でナツキは顔色一つ変えずに、
ただそれを受け流した。
「ッ!――【神撃】」
剣帝の持ちうる最大級の攻撃。
それは辺り一面を白の発光で覆いつくす。
が、ナツキはそれを刀で平然と受け止めていた。
「な!?」
「本物の“技”というもの見せてやる
――――【閃】」
ナツキの剣がブレる。
傍目にはそれしか変化がなかった。
直後、剣帝は崩れ落ちる。
身体中の至るところを斬られて。
帝国最強の剣士の称号である“剣帝”を以てして
その時、何をされたのか、
本当に斬られたのか、
それすら理解できなかった。
「腕にガタがきたか
それにしても脆すぎるな
この身体は」
自身で治癒しながら、
ナツキはレイのもとへ向かう。
「時間切れか――――」
その言葉の後、
ナツキは崩れ落ちた。
レイの作った血だまりの中へ。
数分後、急変に駆けつけたイブやステラたちによって
ナツキとレイは助けられることとなる。
目を覚ましたナツキに
剣帝を倒した記憶はなかった。
お読みいただきありがとうございます
この3連休で第5章完結を目指します
今後ともよろしくお願いします
今日も晴れ




