第122話 レイの戦場
「ん!?
イブ……さん?」
「やっほー
久しぶり~」
驚くレイに軽い挨拶を送るイブ。
イブに続き、ジョンとマックの登場に
さらにレイは驚いた。
現在、帝都東部
辺りには、まだ先ほどまでの戦闘の爪痕が残されている。
このとき戦闘が行われていたのは、ここだけではなかった。
その証拠に、あちこちで火の気が上がっている。
また、帝都でひときわ高い建物――帝城の燃えている様も確認できた。
ステラ率いる部隊とイブたちの活躍により
窮地を脱した葉山たち。
大沢を含めケガ人は手当てを受ける。
ステラの部下の魔法師により
火傷も跡が残らずきれいに回復されていった。
――もう大丈夫だな
ステラとイブに任せれば大丈夫、そう判断したレイは、
2人にこの場を任せ、自身は元来た道へ。
はやる気持ちを抑え、風のように駆けだした。
レイの姿を見送るのは、当の2人。
「まさか、あの“蒼炎の竜使い”
イブ・サータン殿にお会いできるとは!
光栄です」
「こちらこそ
かの有名な守護聖と碧ノ聖剣を目にできてうれしいわ」
握手を交わす二人。
迫りつつある第2陣に視線を向けて
イブはステラに問いかける。
「背中は任せても?」
「もちろんです」
************
意識が朦朧とする。
身体中が痛い。
何より、
何より、だ。
目の前の相手は俺の手に負えるどうこうの話しじゃなかった。
「どうしたのです?
もう終わりですか~?」
斬りかかるも、
全て受け流され、
相手の剣撃は、
目視することができない。
相手が殺さないよう加減して
斬っていることがよくわかる。
手足は斬られ、
血を流しているが、
どの傷も浅い。
当初、<アクセル>を使ってさっさと葉山たちのもとへ行こうとしたのだが、
どうもアクセルを使った俺よりも剣帝のほうが速いらしい。
……うん、これ詰みだわ
両足の腱を斬られているのか
チカラが入らない。
膝立ちのまま、視界が赤く染まり始めた。
「【 一 ノ 斬 】」
居合の構えから繰り出される一撃。
あえて俺にモーションを見せて、
その上、声に出しての攻撃宣言。
咄嗟に頭を庇うようにして両腕をクロスさせた。
キ――――ン
まるで金属同士がこすれ合ったかのような超高音が響き渡る。
目を開けて見てみると、
絶空の指輪“最後の砦”が発動していた。
俺を包む透明なシールドが展開されている。
安堵もつかの間。
構わず、剣帝は攻撃を繰り返した。
その攻撃ごとに少しずつだが確実にシールドは薄くなってゆく。
剣帝はゆっくりと、
ゆっくりとした足取りで近づいてくる。
「炎帝を倒したというから期待していたのですが、
がっかりですね」
シールドが消え去り、
剣帝は攻撃の手を一端止めた。
「……そうかい
そりゃ悪かったな」
軽口を返しつつ、
考える。状況の打開策を――
「圧倒的な不利な状況においても
絶望せず必死に考え続けているその眼
……そういう人物が非常に厄介であると知っている
残念ながら私はそういう人物に油断したりしない」
目の前に来た剣帝は、
これ見よがしに剣を上段に振りかぶり――
あ、死ぬ――
直感で悟るも、
“緋色”がそれを妨げる。
身体に纏う魔力が
彼女を紅く染めていた。
「レイ!」
王子様に一目惚れするお姫様の気分がよくわかる。
そりゃピンチにカッコよく助けられたら惚れるわな。
レイの背中が何よりも頼もしく感じられた。
「待たせたな」
「みんなは?」
「大丈夫だ」
「……よかった」
「ナツキ、少し下がっていろ」
「あ、ああ
でもレイ、気をつけろよ
あいつは強いぞ」
「ああ、わかってる」
心なしか、いつもよりレイの表情が柔らかい気がした。
なんというか、そう、まるで、
まるでレイでない何かが重なっているかのような――――
一瞬そんなことが頭をよぎり……
直後、俺に違和感は全くなくなっていた。
「だが……今の私ならイケる気がする」
言うや否や、レイが消えた。
否、そうと見まがう速度で剣帝へ斬りかかる。
「【風嵐二奏】」
しなやかに流れるような二刀の連撃。
常に二刀のタイミングをずらしつつ、
的確に急所を狙って斬りかかる。
“風”の後押しを受けてそれはさらに加速する。
「っく」
剣帝も負けじとその連撃全てを弾ききる。
初手以降の連撃がもう俺の動体視力の限界を超えていた。
「……あ、傷が……」
剣帝の剣による斬り傷。
レイの腕や足のそれが、一瞬で治っていた。
傷を負った側からの回復。
「すげぇ」
レイはあんなことまでできるようになっていたのか。
修業したのは知っていたが、
これほどまでとは。
俺ももっと頑張らないとな。
**********
ナツキを背にレイは刀を振るい続ける。
全能感。
何者にも負けない。
ナツキを守り抜ける。
そんな感情にレイは支配されつつあった。
「【絶牙】」
真空の刃が飛ぶ。
剣帝はそれを見切り、一刀両断する。
「【三日月】」
剣帝の放ったそれは
弧を描くように回転しながらレイに襲い掛かる。
レイはそれを引き付け、ギリギリで躱していく。
両者譲らずの攻防が続き、そして――
「素晴らしい
あと2年修行を積まれていたら危なかったでしょうな
――――【神撃】」
「ッ【神風】」
上段振り上げから振り下ろす剣帝。
左手の刀を離し、居合の構えから放つレイ。
両者必殺の一撃が激突した。
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