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無能お荷物の逆転!!異世界転移  作者: 今日も晴れ
第5章 帝国編
134/139

第121話 強者たちの戦場

 


 数刻前、そこは平屋が並ぶ住宅街であった。


 帝都西部の一角。

 かつての面影などはすでになく、

 大きなクレーターと隆起した地面、

 そして家であったものの瓦礫の山に支配されている。


 その中心部、

 数十秒に一回ほどのペースで大きな爆発が続いていた。


「随分と派手ですね

 不詳超スーパーミラクルメイド、助太刀いたします」


 無駄にくるくると回転しながら登場した人物。

 超スーパーミラクルメイドなどと名乗ったアンは、

 聖人の懐へ入り、蹴りを一発。


 身体をくの字に曲がらせた聖人が彼方に吹っ飛んでいく。


「貴女は――

 いえ、お力をお借りできるならあり難い」

「そうね。

 本当に助かるわ」

「うむ」

「てかアンタ強すぎだろ」


 アンのもとへ集まる強者たち。

 黒衣の男、聖女、海龍、ガルスは各々アンに声を掛けた。


「これでも多少鍛えていますからね」


 鍛えるどうこうの話しではない。

 4人はそれを十二分に理解していたが、

 そのことについて、今、聞くことはしなかった。


「そろそろいいんじゃないの?」


 黒衣の男に聖女が尋ねる。

 もともとの目的は時間稼ぎだ。


 それが達成されていてもおかしくはない程度に時間は過ぎている。

 もともとリスクを回避したかった彼女らにとって

 今まさにこの時、このタイミングは好都合でもあった。

 撤退だけならアンを含めた戦力で十二分に行える。


 その提案に黒衣の男は思案する。

 彼もガルスもすでに満身創痍。

 聖人相手に生きて帰れることだけでも奇跡のようなものだ。

 聖女の提案は至極まっとうなもの。


 その提案を飲もうと口を開きかけるが、

 アンがそれを遮った。


「倒しましょう」


 聖人を1人(・・)で倒して見せた彼女の言葉に4人は押し黙る。

 確かに彼女がいれば、それも可能かもしれない。


 可能性を天秤にかける。


「聖人1人を倒すことは

 未来の仲間1000人を救うことに匹敵します

 今、この場で、

 3勢力(・・・)(かい)したこの場で、

 聖人を討ちとることは

 後々大きな意味を持つことになるでしょう」


 アンは言い切る。

 3勢力と。


 この言葉で4人は理解する。

 彼女は魔族|(魔人)側でも、

 ヒト族|(大魔法使い)側でもない

 別の勢力に属する人間であると。


 それはつまり、

 先の戦闘による戦果は、

 その彼女の(くみ)する第3勢力の戦果ということになる。


 4人にはその勢力についての情報はほとんどない。

 黒衣の男だけは、それがナツキにつながうると考えていたが、

 それが事実であるという根拠がなかった。


 現在の圧倒的な戦力差。

 加えて情報量。

 聖女や黒衣の男が耳にした意味の分からない単語などを含めて

 現在彼女の与する勢力に1も2も上を行かれている状況。


 その上、今回の戦闘が彼女の戦果だけで終われば――


 アンが介入する前の、

 今後もっともあり()る可能性の一つ。

 それは勢力同士での同盟の締結。

 4人はそれぞれ今回の戦闘の中で

 その可能性が十分に実現可能なものであると実感し始めていた。

 聖人さらにそれ以上の敵と戦うには、一勢力だけでは力不足。

 魔族とヒト族の同盟は今後を考えるに十分現実味のあるものだった。


 しかし、圧倒的有利な第3勢力が現れた際、話は違ってくる。


 つまり、彼女の戦果だけで終われば――

 同盟ではなく“傘下”での協力関係となりうる


「我々は戦いましょう」


 決断が早かったのは黒衣の男。

 聖人やそれ以上の敵相手に

 魔人だけだはどうにもならないことを理解していた。


 それに続く形で聖女も同意する。


「それでは始めましょうか」


 アンの言葉を合図に各々、散開する。




 土の津波を伴って聖人がアンに殴りかかる。

 アンはそれを避けつつ、

 聖人の注意を自身に釘付けにさせた。

 それを見計らって、

 黒衣の男の転移の魔法により運ばれた3人が攻撃を仕掛ける。


 聖人直上――ガルスの鉄拳に

 聖人は地面に顔をめり込ませた。

 そこへ、すかさず海龍が暴走寸前の魔力砲弾を叩き込む。


「《土壁》」


 土壁の形成前に聖人へ聖女の蹴りが入る。

 高く打ち上げられた聖人に

 アンが接近。


 その勢いを殺さず、

 大きく振りかぶり聖人を叩き落す。


 地面では新たなクレーターが出来上がっていた。

 その中心部。

 聖人の身体から蒸気が上がり、

 折れた骨や傷口が再生していく。


「まぁ想定通りですね

 この調子で行きましょう」


 再生速度は攻撃するよりも格段に速い。


 何度やっても結果は見えている。

 そう、4人は思っていたが、

 アンの意見に従い、

 各々全力で攻撃を行う。


 事実、10回ほど先の攻撃の繰り返すその中で

 聖人は受けたダメージの全てを回復してみせた。


 だが、10を超えた数回目、

 聖人の回復が止まった。


 傷口からは血が流れたままとなり、

 折れた足の骨がつながっていないことも確認できた。


「やっとですか」


 焦った聖人が事態の把握に努めようとするが、

 それをアンたちが見逃すはずもなく、

 聖人は波状攻撃にさらされる。


「どうして?」


 聖女たちもこの事態を好機として手を緩めることなく攻撃を行うが、

 その理由を不思議に思っていた。


「聖人といえど無限に魔力があるわけではありません」


 アンは意図して(・・・・)正解とは少しずれた返答をした。

 指輪から光越の太刀“刀光”を取り出し、構える。


「聖人の動きを封じてください」


 アンの言葉にそれぞれ動き出す。


 動きを止めろではなく、封じろ――

 この意味を聖女は正しく理解した。

 その聖女は海龍の二人がかりで

 結界を構築し始める。


 聖人は状況がマズいことを悟る。

 結界が構築されつつあるそれから逃れようとするも

 黒衣の男により運ばれたガルスが直上に現れた。


 地面に男を両手で押さえつける。


「ガルス!!」


 黒衣の男の焦った声。

 それもそのはず、聖人を素手で押さえつけているのだ。

 魔装をした状態で、

 やっと聖人の魔力支配から逃れられるが、

 これが直接触れ合っていれば、話は違ってくる。


 ガルスの両手は既に崩壊が始まっていた。

 手が崩れ去っていく。

 痛みが脳に命令をする。

 今すぐ手を離せ、と。

 それを無理矢理封じ込め、

 ガルスは押さえつけるチカラを強める。


「らぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


「離れて!!」


 聖女の言葉を合図にガルスがその場を離れる。

 ガルスは利き手でない左腕半分くらいが無くなっていた。

 それは、利き手のほうがよりうまく魔装を操作できるためである。


 構築された結界。

 だが、少しすれば聖人はそれを破壊してしまうだろう。


 少し――ほんの数秒

 アンにとって必要な時間はそれだけだった。


 今から行う技は範囲指定のものであり、

 アンでは移動する標的へこれを行うことができなかった。


 そのための結界。


「トレース

 //システムスキャン開始

 //“戦女神の剣姫”選択

 //剣術トレース……完了

【千の太刀】」


 物理限界の体現――

 質量を持った物質たる刀が

 光の速度へ迫る


 構築された結界は、

 一太刀目にして破壊されたが、

 その一太刀が確実に聖人を斬った。


 この攻撃においてもっとも重要なことは

 “一太刀目を標的に当てられるか”だ。

 結界は十分に役目を果たしていた。


 軌道を追うことすら、

 まして避けることなど不可能な千の斬撃

 そのすべてが聖人へと注がれる。

 ほんの数秒で終わり、

 あとには無残な聖人が残った。


 最後の千太刀目を振り切ったところで

 アンの左腕はもげた。

 ただ単純に耐え切れなかったのだろう。

 左肘から先が煙を上げながら彼方に飛んでゆく。


「やはりしぶといですね」


 四肢を無くし、胴も切り刻まれ、

 ヒトとしてのカタチすら危ういそれは、

 再生を始めていた。


 残った魔力を一極集中させてのことだろう。


 アンがどうこうするよりも速く、

 ガルスが左の拳(・・・)でそれを殴り潰す。

 失った左腕から先は魔装で補っていた。


「終わったようね」


 聖女がひと息つく。


「ええ、こちら(・・・)はそのようですね」


 アンは東の空を見上げて続けた。


「ああ、

 馬車……どうしましょうか」




お読みいただきありがとうございます


そして、大変遅くなり申し訳ありません

葉山の叫びが聞こえてきそうです

『ギルティィィィッ』


第5章も終盤に突入

次回 VS剣帝

どうぞよろしくお願いします


今日も晴れ

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