第119話 ナツキの戦場
死闘の果て、なんとか聖人を倒したアンは
そのまま次の戦場へ身を投じようとしていた。
と、そこへ――
//システムメッセージ
//マスター個体識別名ナツキの意識レベル低下
//生体固有波動の乱れを検知
//“乱れ”形成固有波動の拡大を検知
//ステージ2と認定
//対処の必要あり
(はやり来ましたね
いささか早ずぎる気はしますが……
まぁ彼も今はマスターをどうこうしようとはしないでしょう)
「<ダブル・アクセル>」
スピードを上げ、夜空を駆ける。
(なんにせよ、これを片付けないことには始まりませんね)
眼下、劣勢の4人。
アンは光越の太刀を片手に聖人へ斬りかかった。
**********
炎帝の背後に着地――
「【居合】」
「【炎斬】」
指輪から取り出しながら抜刀――ヒトの剣“天叢雲”と
振り向きざまに抜剣――帝剣“紅焔”。
その場に大きな金属音が響いた。
炎帝は想像を超える一撃の“重さ”に内心で驚く。
「【炎連】
【斬双】」
炎が幾重にも広がり、
ナツキの行動を制限する。
と、同時にそこへ素早い剣撃。
斬り返し、再びナツキへ。
ナツキの行動を制限させ、
その上で有効打を確実に叩き込む。
戦闘において“魔法”と“剣術”を取り入れる魔剣術を相手に
ナツキはギリギリの攻防をしていた。
(クソッ
攻撃早すぎだろ!
てか意識が朦朧として――
!?――
クソまた意識飛んでた)
ナツキの持つ刀が扱いやすい上業物だったことも相まって、
なんとか持ちこたえている。
炎帝にはそう見えていた。
炎帝とナツキの攻防は続き、
炎帝はうまくナツキに一歩踏み出させた。
「【炎牙】」
剣を大きく振り上げてからの振り下ろし。
炎を伴った炎帝の剣技。
左右から迫りくる炎。
大きく振り切った状態の刀。
一歩踏み出した状態で後退もできない。
逃げ場なく、炎帝の剣が振り下ろさ――
踏み出した足に力を入れ、ナツキは叫ぶ。
「<ダブル・アクセル>」
渾身の頭突き。
恥も外聞もなく魔法と剣のバトルで全力の頭突きを喰らわせた。
*******
「いてぇーーー
マジ死ぬ!
ほんと痛いぃぃぃぃ」
相手が女性?
魔法と剣の世界?
知ったことじゃない。
勝てばいいんだよ、勝てばな
炎帝の胸部に思いっきり頭突きを実行。
なんとか先ほどまでの窮地を脱することが出来た。
だが、踏み込んだ左足はひどいありさまだった。
アクセルの上位版、
ダブルアクセルに耐え切れず、地面は抉れ、
俺の左足は無残に散った。
いや一応くっついているけどね。
変な方向に曲がっていた、もう骨折は決定だ。
先ほどから腫れが大きくなる一方、痛みも増す一方だ。
「回復ポーションってまだあったかな?」
探すも残っていたのは一本のみ。
「無いよりマシか」
半分を飲み、
半分を患部にふりかけた。
「レイたちに合流しないとな」
よろめきながら刀を杖代わりにして立ち上がると――
「それが馬車の集団を指しているなら
残念ながら“できない”な」
「え?」
炎帝を担いでいる細身の男がいた。
いや、炎帝は俺の前に倒れていたはずなのにいつ?
「炎帝を倒すとは大した男だ」
「できないってどういう意味だ?」
「そのままの意味だ。
すでに部下が取り囲んでいる。
今頃は捕まっているか、もしくは――
死んでいるか
そのどちらかだろうな」
「なッ!?」
「炎帝の炎を見てこちらに来てみたが正解だったな
北帝流聖級“剣帝”が貴様に死を与えよう」
気が付いたら飛んでいた。
否、飛ばされていた。
動的障壁をそのままにしていたのか
勝手に発動していて直撃は避けられたが、
それでも10mほど飛ばされた。
地面を転がる。
怪我している足には地獄だ。
剣帝?
ざけんな!
もう帰りたい
勝てる気がもともと無い上に、
このケガである。
ポーションもなし。
さらに、さきほど剣帝は炎帝を担いでいた状態で攻撃を加えた……ように見えた。
実をいうと攻撃されたのかわからなかった。
気が付いたら飛んでいる。
剣帝を見れば右手に振り切った剣を持っていた。
そこからの推測でしかない。
はっきり言おう。
格上過ぎる。
だが、
しかし、
それでも、
今は引けない。
痛む足に無理やりチカラを入れ、
「おい、俺の仲間に傷一つでも付けてみろ
テメェらまとめて地獄送りにすんぞ」
刀を構える。
こいつを倒すなりなんなりして早く合流しないと。
レイ、リア、葉山、大沢、日咲さん無事でいてくれ。
お読みいただきありがとうございます
今日も晴れ




