第13話 そろそろ重い腰を上げようか 中編
――――翌日
完治まで1週間。
これでも日本の医療に比べて格段に早い。
やはり魔法は便利だ。
本当ならものの一時間で動けるようになるとしても。
俺にとったら早いのだ!!
その間は自室で過ごすことになる。
朝、治療院から自室に移動し、リアの持ってきた味のないご飯を食べる。
午前中はリアの勉強を見た。
本は返却してしまったので手持ちがない。
「リアは上達が早いな」
「ナツキさんの教え方が上手なんですよ」
リアは会話の中の敬語が徐々に和らいできた。
やっぱり年相応の言葉使いのほうが俺としても話しやすい。
それに笑顔も増えてきた。
また、リアはこの一週間で長文を読めるようになっていた。
母国語だからだろうか、とにかく上達が早い。
明日からは俺と一緒に書きの練習をしても大丈夫だな。
「よし、リア、明日からは書き方の練習をしよう」
「はい!よろしくお願いします」
お昼、これもリアが持ってきた味のないご飯。
もう慣れた。
それに、クラスメイトと食べるより楽でいい。
今日は自室でリアと昼食。
リアとご飯を食べるのは実は初めてだったりする。
「リアも俺と同じご飯なの?」
これは病院食のはず。
なぜリアも?と思い聞いてみた。
「ナツキさんと同じものを食べたくて。」
詳しく聞けば、使用人たるものご主人よりいいものは食べないと。
なんと健気なんだろうか。
使用人って言っても俺が直接雇っているわけじゃないのに。
雇用条件はどうなってるんだ?
ブラックじゃないことを祈るばかりである。
リアの顔が妹とダブって見えたことで、妹を思い出してしまった。
あいつは今頃どうしてるかな!?
元気でやっているだろうか?
リアとの昼食の後、いつもより時間をずらして図書館へ。
ここの本もだいたいわかってきた。
そもそもそんなに冊数がない。
そのうえ伝承を中心とした物語が主で、歴史関連の書物が圧倒的に少ない。
「そろそろ限界かな。」
もう少し詳しく調べるには町に出るなり、ヒトに聞くなりする必要がある。
帝城での情報収集に限界を感じていた。
そもそもこの図書館には帝国批判の文献が一冊もない。
情報統制が取れているということだろう。
午後は自室で本を読み、夕食も自室で取り、夕食後はリアと勉強会。
こんな生活サイクルで数日が過ぎた。
今日は葉山との密会の日だ。
密会……いい響きだ。
ばれたら大変なんてもんじゃないが。
「お久!」
倉庫に行くと葉山が座っていた。
「早いな。
てかここ、なんの倉庫?」
「う~~ん、古い武器庫とか聞いたけど!?
よくわかんない」
「なるほ。」
「ナツキ、なんか進展あった?」
「いや、帝国に関してはさっぱり。
たぶん町とかに行ってみる必要があるかな。」
「おっ、定番の流れですね。
冒険者登録からの旅だね。」
目を輝かせて言ってくる葉山に俺は釘をさす
「冒険者なんてやるわけないだろ。
俺は一般人で、魔法も使えない。
旅なんかに出たら瞬殺、間違いなしだわ」
「じゃあどうするの?」
「安全に町に行って、すぐに帰ってくる。
まずはそれができるように頑張ることから始める。」
「なんという安全設計。
マージン取り過ぎww」
「いやいやいや、これは現実!
死んだら終わり!
しかもチートなし。
俺は危ないことはしないと誓ったんだ!!」
「それがフラグにならないように祈ってるよん。」
葉山が笑いながら言って来た。
クソッ、やっぱ街に出るのやめようかな。
そのあと、二・三話をして別れた。
日咲さんが心配してくれているというのでお礼を言っておいた。
それから同じような生活サイクルで数日が過ぎていく。
――――――ケガから一週間。
やっと今日、完治予定である。
昨日からもうほとんど痛みもなく、動かせていたので問題ない。
激しい運動は控えるようにとのことだが、そんな予定はない。
こちらの世界に来てもう2週間が経過した。
クラスメイトは確実にレベルを上げているそうだ。
もう坂本や松浦は40になったとか。
成人男性の一般が20。
騎士団員が40~50ほど。
訓練に付き合っている元騎士団の人はレベル90らしい。
この短期間でレベル40がどれほどなのか。
恐るべしチートの威力。
俺はケガの完治祝いにひとり中庭を散歩していた。
「外の空気はうまいなぁ~~」
車や工場のない世界。
空気がおいしい。
スキップで、鼻歌交じりに中庭を進んでいく。
たまには気分転換もいいなぁと思っているとなにやら声が聞こえてきた。
「ほら、さっさとしな」
「すみません」
「終わったらこれもやっとくんだよ」
「わかりました」
中庭の端の方、洗濯場のような場所で5人くらいのメイドさんがなにやら言っている。
それ自体はどうでもいいのだが、気になることがあった。
さっきの声の中に、知っている声が聞こえたような気がしたのだ。
メイド集団をよく見ると、やはりそこには知っている顔があった。
この異世界で俺の知っている顔など限られる。
そう、俺の専属メイドのリアだ。
物陰から頭だけ出して、のぞき込む。
あっメイドさんが離れていった。
リア一人残して。
そういえば、リアはこの城に来たばかり、と言っていたなぁ~。
これもまた異世界文化なのだろうか!?
ほかのメイドがリアに仕事を押し付けているように俺には見える。
そういえば、毎日朝食後や昼食後ひとりどこかに行くことがあったな。
それも、もしかしてこういうことだったのだろうか?
胸が痛むがここは異世界。
俺は無力だ。
首を突っ込み引っ掻き回してもいいことはない。
リアをずっと守っていけるわけだはないのだ。
俺はそっとリアに近づいた。
たとえずっと助けられないとしても、今、少しだけ負担を減らせることはできる。
「手伝うよ」
「え?」
リアが振り返る。
きょとんとして俺に気が付いた。
「な、なつきさん
どうしてここに?」
俺はその質問には答えず、洗濯を手伝った。
手もみ式、水が冷たく長時間やるにはきつい。
リアはこれをやっているのか!?
「だ、だめですよ」
「まぁ、いつも世話になってるし、
少しくらいはやらせてくれ」
そう言うと、リアはうつむいてしまった。
ちょっと怒らせちゃったかな!?
そんなことを考えつつ、俺は洗濯に取り掛かる。
ふたりでそれを終えたのは1時間後。
こんな気分転換もありだな
そう俺は思った。
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