第116話 逃避行
「逃げろ逃げろ!!
葉山サポート早よ!!」
「わかってるわよ」
「殿は任せろ」
「レイさんカッケー
おい、葉山見習え!!」
「ナツキさまもうすぐです」
捕らわれていた日本人+αは17人(年代はバラバラ)
山本の連れてきた人らを合わせて26人
17人のほうは皆、憔悴しきっていてかなり危ない状態の人も数人いた。
日咲さんの魔法でなんとかつなぎとめている状況だ。
水や簡単な食事をとらせ、脱出しようとしたが、ここで問題が!
少なくとも自力で歩けない15人をどうやって移動させるかだ。
相談した末、
リアに案内してもらった倉庫で適当に馬車を見繕い、
筋力強化した大沢が引っ張っていくことになった。
15人を無理矢理一台の馬車もとい人力車に詰め込む。
歩ける11人は馬車の後ろから、
馬車の後方で殿を務めるのは俺とレイ。
日咲さんは馬車内で特に危ない人の治療。
ファファナさんは徒歩組のサポート
リアは案内役。葉山はそのサポート。
馬車を中心に移動を開始した。
「あの建物の裏手が外へつながっています」
帝城からのびている正規の門では、今、戦闘が起きていた。
外からの部隊と帝城を守る騎士たちとの戦いだ。
つまりは、内乱とやらがもう始まっていたのだ。
立ち往生するわけにもいかず、
レイの情報から比較的安全そうな
帝城の北東の従業員用の通路へ向かっていた。
「参ったな」
「当然と言えば当然ね」
「気配は7人だ」
俺と葉山とレイは建物の影から通路を伺っていた。
そこには完全武装した騎士が4人。
レイ曰く外側に3人いるとのこと。
計7人がその場を守っていた。
「戦うか?」
レイの問いに俺は悩む。
戦いたくはない、
戦いたくはないが、時間もない。
先ほどから徐々に大きくなり始めている喧騒。
そして時折聞こえる爆発音。
また西の空では閃光が見えたり、
まるでレーザーか何かのような光の筋が昇ったりしている。
そこで何が起きているのか想像したくないレベルだ。
いや、きっととてつもない規模の戦闘なのだろうが。
あれが、心なしか少しずつ近づいている気もする。
やっぱ、時間はない。
「レイ、行けそうか?」
「手練れだが、問題ないだろう
ただ、遠距離で魔法を使われるのは多少厳しい」
「わかった。
俺と葉山でサポートに入る。
無理だと思ったら一時退却」
レイが加速し踏み込む。
瞬く間に2人を斬り伏せる。
俺もアクセルを使い、足元を狙って空圧砲を叩き込む。
バランスを崩したところでレイがとどめをさした。
外側を守っていた見張りも無力化。
無事、通路を抜け、脱出に成功!!
――そんなに甘くはなかった。
「これは……魔法で気配を消していたか」
「100はいるな」
「この人数
誰かが、ここは俺に任せて――」
「やめろ葉山
こんなところでフラグを立てるな」
レイ、大沢、葉山、そして俺たちは、目にしていた。
軍隊を。
「もう捕捉されている
あれから10名ほどこちらに向かってきているな」
「大沢、全力で行けるか?」
「行けるが、確実に追いつかれるぞ」
そりゃそうだ。
相手は馬に乗っているんだから。
「おっ!?大将ここはあのセリフですかい?」
「ねぇ葉山
俺お前を無性に殴りたい」
馬車引きに大沢は不可欠。
葉山はまだ魔法を上手く使えない(本当かは知らんが)。
となるとここで足止めするには俺かレイが必要だが……
「10名のうち6名は魔法師だな」
レイの言葉の通りだ。
さっきから遠距離攻撃を仕掛けられている。
「次、火系統の魔法!」
「<波状衝撃波>」
「今度は水系統!」
「<多重障壁>」
「土系統!」
「<動的障壁>」
「すげーな葉山
なんで相手の魔法がわかるんだ?」
葉山は先ほどから魔法発動前に相手の魔法を言い当てていた。
そしてその属性に合った対抗措置を取っている。
火に対して空気の壁は熱を通すため悪手。
よって空圧砲で無力化させている。
また水は空圧障壁が有効などなど。
「距離が縮まってきているわよ」
もう限界だな。
レイは魔法師との戦闘では後手に回る。
それにこの先、一人は戦える人間は必要だ。
ならば!
「仕方ない。
俺が時間を稼ぐから」
「おっあのセリフは言わないんですかい?」
ニヤニヤと葉山が言い寄ってくる。
あのセリフ『ここは俺に任せていけ!!』はダメだろ。
そう見ても死亡フラグだ
「まぁいいわ
ナツキ、相手の魔法発動にはある過程が必要。
簡単に言うと使われる属性の現象が起きるのよ
火の魔法ならどの魔法も必ず小さな火の玉が作られる
水や氷の魔法なら水の塊ができる」
「それで攻撃を見抜いてたのか」
「そうよ
まぁ時間稼ぎは少しでいいわ
気をつけなさいよ」
「ああ、レイ、リア行ってくる」
「ナツキさま、必ず!必ず帰ってきてください」
「当然、
あ、リア、お母さんの名前ってわかる?」
こんな時になんだが、思い出した。
気になってリアに尋ねる。
怪訝そうなリアは、それでも答えてくれた。
「えっと、もう亡くなっていますが……リーナ、と」
「そうか(それは、なんとしても逢わせないとな)
レイ、リアやみんなを頼む」
「ああ」
悔しそうなレイの表情を初めて見た。
レイもここは俺のほうが適材適所であるとわかっているのだろう。
何も言ってこないが、何か言いたそうだった。
そんなわけで俺は時間稼ぎのために10人ばかしと戦うことになる。
その時は、その10名の中にかの名高き北帝流聖級“炎帝”が含まれていることなど知る由もなかった。
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「ステラ様に報告だ!
姫は発見できず、繰り返す姫は発見できず」
黒ずくめの一団が、葉山たちの捕らわれていた牢屋へ押し入った。
だが、そこはすでにもぬけの殻。
慌ただしく、動き出す一団。
そしてその報告を受けたステラたちも一斉に動き出す。
この時、帝都の至るところから火の気が上がり始めていた。
そして繰り広げられる戦闘は帝城から帝都全域に及び始める。
悲鳴が、怒号が、響き渡る。
のちに“聖帝の一夜革命”と呼ばれることとなる長い、長い戦いの夜が始まった。
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