幕間 おみそしる
「ミナミ~
いるーー?」
古びた建物の一室。
玄関の前でセシリアは声を掛けた。
「あ、はーい」
中から元気のいい返事が返ってくる。
セシリアは今、ナツキの住まいを訪ねていた。
もっともナツキを訪ねたのではない。
目的は別にある。
ナツキに頼まれていたミナミの様子をみに来ていたのである。
エルマと交代で毎日どちらかが尋ねるようにしている。
「どうぞ」
「ありがと。
はいこれ」
セシリアは持っていた物を手渡す。
「こんなんでよかったの?」
何度か訪れ、
ミナミと話していたとき、
話題に上がったモノ。
そのモノとは、干し魚。
お金のない冒険者が保存食として買い込むことで有名な品だ。
ミナミの世話については、ナツキからかなりの額を受け取っていたセシリア。
仮に貰っていなくともそのくらいはしっかり面倒をみるつもりだったのだが、
ミナミ曰く、それがどうしても欲しいとのことだ。
基本的にミナミは外出をしない。
というよりセシリアとエルマはミナミを外出させないようにしている。
治安的にも精神的にも十二分とはいえない。
ミナミの住んでいるここもセシリアは数名の部下に見張らせていた。
「はい、ありがとうございます
これでお味噌汁が作れます!」
「おみそしる?」
「はい!」
「それってこないだ飲んだのとは違うの?」
以前訪れた際ミナミが振る舞ってくれた郷土料理。
ナツキの故郷でもある二ホンという国の食べ物だそうだ。
味だが、
正直言ってセシリアにとっては微妙だった。
そのうえ見た目が悪い。
まず、色。
なんていうか茶色く濁っているのだ。
泥水をほうふつとさせる液体に
海岸によく打ちあがっている緑の草が入っている。
この二つが混ざっているだけで食欲が湧かなくなる。
「同じですけど違います!」
干し魚を手に台所へ走っていくミナミ。
それを見届けたセシリアは迷う。
帰ろうかな、と。
「またアレを飲むのね
味はマズくはないけど
見た目をどうにかして欲しい」
それから少しして、
剣の手入れをしていたセシリアのもとにミナミがやって来た。
「出来ました
自信作です!」
「そ、そう」
見た目は変わらず、
具も変わらない。
その上、冒険者御用達の美味いとはいえない干し魚が入っていると思われるソレ。
「い、いただくわ」
「熱いので気をつけてください」
セシリアは恐る恐る一口。
「え!?」
二口。
味を確かめるように。
「どうですか?」
「……おいしい」
少し不服そうにセシリアは言った。
「よかった!
でもまだまだです
日本にいた頃はダシとか味噌とかがあったので味付けは簡単だったんですけど
こっちでは一苦労ですね」
味噌が~とか
大根が~とか
お豆腐は~とか
ミナミは楽しそうに話していた。
セシリアにはほとんど意味が分からずさっぱりだったが――
「おかわり、もらえる?」
「はい!」
ミナミの話は聞いていて飽きなかった。
ちなみにセシリアはこの日、みそ汁を5杯おかわりした。
***********
「セシリア様
緊急の書状です」
ミナミのもとから帰宅したセシリアは
部屋に入るなりサシャから書状を渡された。
「どこから?」
「連合軍参謀本部からです」
セシリアは一通り書かれた文面に目を通した。
「そう、魔族への戦争をこちら側から仕掛けるのね
それにしても3ケ月後?
急すぎるわね」
各国の損耗状況を考慮すると、
いささか急であると言わざるを得ない。
当初計画されていた少数精鋭の作戦ではなく、
軍全体を動かしての作戦である。
「これ提案したのは?」
「お察しの通りシェルミアです
シェルミア王国が強引に連合へ働きかけたようで
アスナ共和国をはじめ、作戦に反対している国もあります」
「うちは?」
「中立、といったところですが
好戦派を中心に編成が進んでいます」
「まぁなんにしても私は行かないといけないわね」
「はい」
書状自体はセシリア宛のモノだったが、
文面は連合軍各国宛のモノだ。
その文面の最後には、こう書かれていた。
『我ら連合軍は勇者と共に悪しき存在たる魔族を討ち、
世界に平和と正義を取り戻さん』
セシリアが許可した覚えもなく、
名前を使われた。
「気に入らないわね
シェルミア」
「引き続きシェルミアの調査は継続させます」
「お願い
あとこの作戦、追加で2名連れていくわ」
「?
どなたですか?」
「ナツキとレイ」
セシリア自身でもとらえきれないほどの速さを見せた加速。
成長著しいレイ。
どちらも興味がある。
「まぁ連れていくだけで作戦中は後方に置いてくし」
2人のうち特にレイは戦争の中でさらに強くなるだろう。
それを見てみたい、セシリアにそう思わせるほどに。
「2人に相談してからだけどね」
作戦の話が終わり、
その他連絡事項もサシャから聞き終えたセシリアは
ひと息つき、サシャに尋ねた。
「おこめって知っている?」
「おこめ、ですか?
何かの武器の名前でしょうか?」
「何でも稲からとれる食べ物らしいわ」
「聞いたことありませんね」
「そう、探すのが大変そうだわ」
ミナミからのおつかい。
どこに行けば手に入るかなと思案しつつ
今日のみそ汁の味を思い出すセシリアであった。
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