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無能お荷物の逆転!!異世界転移  作者: 今日も晴れ
第5章 帝国編
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第113話 話し合い

 



「相沢夏希、私は5年前と2年前のことを知っている」


 山本の言葉にナツキは一瞬、

 表情を崩しかけるも

 いつも通りの調子で言った。


「2年前、俺が中3のときか

 ま、まさか遠足で腹が痛くなってみんなに迷惑をかけたことを知っているというのか!?」


「いや、それは知らない」


「5年前、俺が小6の時

 まさか運動会で靴の中に消しゴムを入れていたことか!?

 いやでもあれはうまくいかなくて結局徒競走は6人中4位だったぞ

 それを今更――」






「杉野すみれ」






 山本の言葉にナツキは言葉を切り――


「いや今は、

 相沢すみれ、だな」


 無表情(・・・)になった。


 どんな時でも表情豊かな

 何をするにしても比較的テンション高めなナツキから

 表情が消えた。


「私は相沢の過去を詮索するつもりもないし

 誰かに言いふらすつもりもない」


「…………」


「これを渡しておく」


 山本は一冊の手帳のようなものをナツキに渡した。

 受け取ったナツキはそれを開く。


「これはッ!?」


 ちょうど手帳の中央ら辺のページを見て声を上げた。

 直筆で書かれた内容を食い入るように見つめるナツキ。



 ―――――――――――――――――――――――

 神暦761年4月

 帝国北域 ゴーイン伯爵領

 日本人―男性1女性2

 時価総額1600万リグ

 備考

 ゴーイン伯爵はそれ以降奴隷の購入履歴なし

 日本人の生存確率は高いと思われる。


 神歴761年5月

 帝国南域 大都市ナイル

 地球人―男性3(日本人1)

 時価総額200万リグ

 備考

 買い手不明

 おそらく帝国軍師団が購入したものと思われる。

 しかし、師団の奴隷購入は使い捨てが主

 生存確率は低いと思われる


 神歴761年12月

 帝国南東域 大都市ライン

 日本人女性1

 時価総額550万リグ

 備考

 買い手不明

 贈呈品として買われた可能性大

 当時の出品データから高校生未満と推測

 一次出荷先として大陸中央の都市国家セントフィルへ運ばれた可能性大

 寄贈品指定のため生存確率は高いと思われる。


 ―――――――――――――――――――――――


 手帳をパラパラとめくる。

 同じような内容が何ページにも渡って書かれていた。


「それは私がここ数ケ月かけて集めた情報だ

 日本人の行き先の推測が主だが、

 後半に少し各国のことも載せてある

 もっとも各国についてはメモ書き程度だが」


「なんで?

 いや、これだけの情報を1人で?」


 全体に目を通し、

 手帳を返そうとするナツキに山本は待ったをかけた。


「それは相沢が使ってくれ

 そこに書いた情報は全て頭に入っている」


「使うって……」


 どうしろと?

 疑問を浮かべるナツキ。


「この異世界で何かしらの行動を起こすとすれば、

 相沢夏希、お前だと思っていた。

 私の推測通り相沢は日本人救出に動いた

 ならそれは今後役に立つはずだ

 読んだ後で決めればいい

 助けるか否かを」


 山本は相沢夏希という人間を

 条件付きでならよく理解できていると思っている。

 それゆえ、この手帳の

 “生存確率が高いと思われる”

 というフレーズを読んだナツキの行動は想像にたやすい。


 生存確率が低ければ、

 不確定要素が多ければ、

 危険な可能性が大きければ、

 相沢夏希という男は迷わず他者を見捨てるだろう。


 だが、

 不確定要素が少なく、

 危険も帝城侵入よりは小さい、

 そして何より生存確率が大きいとなれば、

 この男は間違いなく動く。

 素直に動くかは別だが。


「これが事実だという証拠は――」


 ナツキの言葉を遮って山本は口早に言う。


「相沢夏希の過去を知っている人間が記した

 それで十分か?」


「……」


 しばらく黙っていたナツキは、

 山本を見つめて口を開いた。


とりあえず(・・・・・)、受け取っておく」


 読むかどうかは別にしても、

 そう言外に示す。


「ああ、とりあえず(・・・・・)、受け取っておいてくれ」


 読むかどうかも任せると

 含みを持たせて山本は返答した。



「ナツキさま」


 沈黙を破ったのは、

 ナツキの背後からの声。

 案内を終え戻ってきたリアの声だった。


「あの――え?」


 薄暗い地下

 ある程度近づかないと相手の表情はわからない。

 ナツキに近づいたリアは、

 その視界に山本の顔が入った。


「リア?」


 リアの表情が強張(こわば)ったことにナツキが気が付く。


「な、なんでもありません」


 (うわ)ずる声の中に恐怖の色を感じ取った山本は、

 リアに軽く頭を下げた。


「あの時はすまなかった」


「い、いえ、その」


「貴女は強い女だ

 何事にも自信を持て」


 しっかりとリアを見つめる山本。

 真剣な表情にリアはひとつ、頷いた。


「さて、私はそろそろ行く」


「あ、ああ、山本は逃げないのか?」


「やるべきことがある。

 助け出した日本人は任せた

 帝国から離れたところに拠点でも設ければいい

 葉山や大沢達がいれば、

 やっていけるだろう」


「拠点なら一応ある

 帝国からもだいぶ離れてるし

 大丈夫だと思う

 あ、ミナミも連れてかないとな」


 この人数だとナツキの部屋は狭い。

 よってナツキは、地下のアンを見つけた場所を当面の拠点にしようと考えた。


「みなみ?

 松本みなみ、か?」


 山本は拠点のほうではなく、

 別の単語に反応した。


「え?ああ、そうだけど知り合い?」


「知り合いではないが、

 そうか、それは…………よかった」


 山本が初めて少し気を緩めたようなそんな表情をした。


「あ、一応これ渡しとくよ」


「これは?」


「ステータスプレートの解錠液

 契約した謁見の間でステータスプレートに

 自分の血とその液を入れれば、

 ステータスプレートを解除できる」


「そうか、ありがたくもらっておく。

 いずれどうにかしようとしていたから助かる」


 外で爆発音が大きく響いているのが伝わってくる。

 ナツキも山本も視線を上にあげた。


「そろそろ危なくなってきたか

 早めに脱出した方がいい」


「そのつもりだよ

 俺たちは帝国から南東方向の

 セントフィル都市連合イリオス州ってとこら辺を拠点にしてるから」


「了解した」


 振り返り歩き出したナツキ。

 リアと共に部屋を出ていこうとする。


「相沢夏希、忠告だ。

 日咲紅里には気をつけろ」


「え?そ、それどういう意味だ?」


「頭の片隅に置いておくだけでいい

 それじゃあーしかえるわ~」


 後半の口調はいつもの、ナツキの知っている山本奈々だった。

 今までのような鋭い表情はなくなり、

 いつものギャルの表情になっていた。

 そのギャップに驚きつつ、

 残されたナツキは、言葉通り、

 そのことを頭の片隅に置いて、

 部屋を出た。



お読みいただきありがとうございます

今日も晴れ


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