第111話 救出
「さすがに引くわーー」
それは自分でもわかってる
……のであまり言わないで欲しいんだが。
「リアちゃん大丈夫?
この変態にはホント、
気をつけてね」
「は、はぃ」
葉山がリアにいろいろ吹き込んでいるが、
今は放っておこう。
交渉は、素早く終わった。
見逃せと要求。
渋る坂本。
リアが助けを求める。
要求をのむ坂本。
やっていることがゲスと変わりないような気もするが
緊急事態だからな。
一応城外でリアを開放するという条件をのんだが、
もちろんそんなことをするつもりはない。
俺たちの監視ということでひとり、
クラスメイトの矢八幸助が
後ろをついてきている。
高校での彼の印象は何事にも無関心。
勉強スポーツは共に平均的で
部活にも入っていなかったはずだ。
いざとなれば振り切れる。
「この道を真っ直ぐ
あの奥の建物です」
「少し急ぐぞ」
日本人が捕らわれているという建物が見えてきた。
俺たちは日の落ちた帝城の庭を突っ切っている。
「ナツキ、なんか向こうのほうが――」
『ダンッ!!!』
大沢の言葉を遮るようにして大きな爆発音。
距離は離れているだろうが、
音と、それに一瞬、西の空が明るくなった。
「な、なんだ?」
「ちょっ、なに?」
「始まったようだな」
驚く一同とは対照的にレイは冷静だ。
「なにか知ってるのか?」
「ああ、ステラからいろいろ聞いた。
今、帝国軍の複数の師団が協力してこの帝都へ進軍しているらしい」
「帝都に?」
「そうだ、帝国を二分することになる内乱
それが今日起きている
西、南から一気にここ帝城を目指し進軍。
なるべく早く離れた方がいいだろう」
「なるほど」
「ちょ、待って
ナツキ、その子誰?」
「ん?ああ、まだ言ってなかったな
レイ、俺の仲間だ
いつも助けられててな
めちゃ頼りになるんだ
そして美少女!!」
「へー
異世界で美少女と仲間ね~
それはさぞ楽しかったでしょね」
近い、近い!
そんなにメンチ切らないで!!
レイから一通り、内乱について説明を受けた。
進軍ルートや各師団の規模、予測進軍時間など。
「にしてもよくこれだけ調べたな」
「ステラからの情報だ。
どれくらいの精度かはわからないが、
それほど低くはないと思う。
あと彼女から伝言だ。
『ファナ様からナツキへの貸し』だそうだ」
ファナ……ああ、150万か!!
それに加えて思い出した!
ステラとかいう人は俺を殺そうとしたあの人か!
なるほど、なるほど。
「ファナ様!?ステラさん!?」
「どうしたファファナさん?」
大沢に背負われているファファナさんが大きな声を上げた。
「そ、その方たちは今どちらに?」
「どちらに?」
ファファナさんからの問いをそのままレイに渡す。
「捕らわれた姫奪還のため行動しているらしい」
「そ、それ、私です!!」
おお、ファファナさん本当に姫だったのか
「よし、ファファナさん、
ファナとステラに
姫を救出したんだからこれで貸し借り無しな!って伝えといてね」
これで面倒な貸し借りはなくなる。
情けは人の為ならずとは、まさにこのことだな。
「は、はぁ~わかりました」
****
「着いた」
大きな爆発音が散発的に聞こえてくるようになったためか、
見張りの騎士などはいなかった。
古びた建物。
他の建物と違い華やかさがまるで無い。
ある意味周囲から浮いた建物だった。
「ナツキ、ここからは私が行こう」
レイが扉の前に立つ。
一方、矢八だけは建物には近づかず、
少し離れたところで止まってい――
止まっていないで、
今、反転し来た道を戻っていきやがった。
きっと面倒になって帰っていったのだろう。
まぁこっちには好都合だ。
「【晴風】」
扉が斬られた。
一同は地下へ降りていく。
一階には見張りの騎士すらいなかった。
「ちょっ!?」
葉山が咄嗟に口元を覆う。
“異臭”だ。
とてつもない異臭が地下から昇ってきていた。
俺もたまらず鼻を押さえるが、
それでどうこうなるレベルではない。
「これは――」
「な!?」
「ひっ!」
レイ、大沢、日咲さんの先頭組が声を上げた。
少し遅れて俺も“それ”を見た。
「クソッ!!」
地下の入り口。
そこに積み上げられた死体。
地下自体は薄く光が灯っていた。
そのため辛うじてわかる。
積み上げられた遺体が皆、東洋系の、日本人の顔であったことが。
怒りが湧いてくる。
何かが違えば、こうなっていたのは、俺だ。
「ナツキ、できることをしよう」
「そ、そうだな」
出来ることを。
大沢の言う通りだ。
地下は、真っ直ぐ一本に伸びていて、左右に牢屋が作られていた。
「ねぇ!こっちまだ息がある!!」
一つ目の牢屋を除いていた葉山が声を上げる。
「気配だが、20人はいるな」
レイが呟く。
その数が多い、という感想はなかった。
たとえ何人でも救いたい。
そう思った。
たとえそれが安っぽい正義感だとしても、
そう、思う。
「とにかく、ここにいる人は全員助ける!
俺は各牢屋のカギを開ける
大沢、各部屋からみんなをここに集めて!
日咲さんは一人一人に回復魔法を!
それからリア、ここに食料と水を置いておくから
自力で飲み食いできそうな人に渡して
葉山は大沢のサポート
レイは見張りを」
「「「了解!」」」
一斉に動き出す。
俺は指輪から食料と水を取り出す。
それと、日咲さんに魔石が入った袋を渡した。
これで魔力切れの心配はないだろう。
部屋の入り口にあったカギを使い、
一つひとつ部屋を解錠していく。
その部屋から大沢が中の人を連れ出し、
日咲さんが回復魔法をかける。
さすがにこの人数を背負うのはできない。
ここから出るためには少しは自力で歩いてもらう必要がある。
「大丈夫ですか?
助けに来ました!」
「た、たす、けに」
年齢は同じくらいだろうか
痩せこけて、腕と足は骨が見えるほど細い。
でもこの人は、
この人の目は死んでいなかった。
「はい、助けに、です
大沢!こっちも頼む!」
途中からファファナさんも大沢と葉山を手伝い、
順調に進んで行った。
「まだ、部屋があるのかよ……」
一本道の最奥。
そこには扉が付いていた。
後半の牢屋にはもう日本人はいなかったので、
一つひとつ確認しながら奥までやって来た。
「こういう扉って開けると良いことないよな
レイについてきてもらってからにしよう」
うん、それがいい。
引き返そうとしたところで、
扉は、
開いた。
「待っていた、相沢夏希」
扉の向こうは、部屋だった。
その部屋の入り口に、
その声の主は立っていた。
「彼女たちも頼む」
声の主はそう言って、
部屋の奥を指す。
そこには薄着の若い女性が10名ほど。
「彼女たち9名も全員地球人だ。
中にはアメリカとフランス出身の者もいるが、
意思疎通は問題なくできる
それと牢にいる者達よりは健康状態はいい」
「わ、わかった
とりあえずこの入り口に俺の仲間がいる
だれか来てくれ!」
少ししてリアとファファナさんがやって来た。
「この人たちも頼む」
足取りはしっかりしているようで
リアに続いて女性たちは歩き出す。
「お前は――」
俺はこの目の前の人物を知っている。
クラスメイト、校内でも有名なギャル
山本奈々、それが彼女の名前だ。
「なんでここに山本が?
いや、なんていうか、雰囲気がいつもと違うな
いつもはもっとこう、
頭パーって感じじゃなかったか?」
今の山本は目つきが鋭く、
キャリアウーマンのようなキリッとした雰囲気がある。
それに言葉使いも違う。
いつもは『あーし、だるいんよ~~』みたいな感じのしゃべり方だったような気がするが……
「相沢夏希、私は5年前と2年前のことを知っている」
そう彼女は切り出した。
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今日も晴れ




