第12話 そろそろ重い腰を上げようか 前編
「元気そうね。」
葉山結衣。
学内2大美少女のひとり。
そんな葉山が訪ねてきた。
「これが元気そうに見えるなら眼科を紹介するぜ。」
俺は彼女と友人だ。
しかし、このことを知っているクラスメイトはいないはずである。
どうして俺がこんな美少女とお友達になれたのかは昨年の夏の話をする必要がある。
俺は高校入学当初から、オープンオタとして生きてきた。
クラスにはオタクっぽい人は何人かいたが、わざわざ話しかけるようなことはしなかった。
オタク趣味を隠すかどうかは人それぞれである。
帰宅部だった俺は当時、クラスメイトと話はするが、遊びに行ったりはしない、そんな仲であった。
唯一大沢とは、趣味が合い、イベントなども時々行った。
だが、彼はオタクを隠しているようだったのでクラスでは特に必要でない限り話はしなかった。
そんな感じで俺は、高校生活を送っていた。
夏休み。
日本最大級のオタイベント。
東京で開催される、コミサーに俺は参加すべく、その日も始発に乗ってあの長蛇の列に並んでいた。
どうして始発なのにすでに長蛇の列ができているの?
どうしてこんなに暑いの?
そんなことを考えていると横の人から声がかけられた。
「あ、相沢夏希!」
おい、だれだフルネームをこんなところで言うのは!?
せめて呼ぶならペンネームにしてくれ。
そう思い振り返ると、そこにいたのがなんと葉山だった。
「おまっ、なんで?
どうしてここに?」
きょとんとした葉山は一瞬あとには青ざめて、早口にたてまくる。
「へ?いや、これは……そうお使いなの。
友達にどうしてもって言われて――」
必死に言い訳しているが、何というか恰好がもうアウトだった。
帽子にタオル、リュック。
今時のファッション命な女子高生からは考えられないような装備だ。
「うん、わかったよ」
「おいっ!まだだ、まだ説明は終わっていない」
俺の肩をゆすりながらしゃべるのはやめてください葉山さん……
だいたいなんで友達のお使いの話から、
おじいちゃんのペットの話になってるんだ?
理解不能である。
「安心しろ。別に言いふらしたりしないから。」
その言葉で安心したようだ。
「ちょろいん」
ボソっと俺が呟いた。
キッと葉山が顔を上げた。
「あ、あんたねぇ~~」
それからオタク談議で仲良くなり、ラインでたびたび話す仲になった。
葉山結衣。17歳。
スレンダーな日咲さんと比べると葉山は出るとこしっかり出ている。
巨乳とまではいかないが、アダルトなプロポーションで人気を博している。
話しやすく、なんにでも興味を持つ性格もそれを助けていた。
だが、彼女がそれはそれはオタクの中のオタクであるということを知るものは少ない。
****
リアが気を利かせて退出した。
別に出ていくことないのに……
「こんなとこ来てもいいのか?」
「ナツキの部屋だと他の男子と同じ階だけどここなら大丈夫のはずよ」
「ふ~ん、ばれると俺が被害にあうからな。
ホント、気をつけてくださいm(__)m」
俺の真面目なお願いに噴き出す葉山。
「確かにww
今日の男子もすごかったしね」
日咲さんのことを言っているのだろう。
これに加え、二大美人のもうひとりとまで仲良く(しているように見える行動を)していたら、命まで危ない気がする。
「チート持ちはうらやましい。」
「ふ~~ん、ナツキはほんとにチート持ってないの?」
葉山もオタクだ。
言わんとしていることは理解できる。
そう、隠しスキルやユニークスキルがないのかどうかを聞いているのだろう。
「それがほんとに何もないんだよ。
異世界まで来てどうなってんだこれ?」
「それは残念。
テンプレならすごいチートが降ってくるのにね。」
「ほんとそれな!」
ふたりで笑った後、葉山は真剣な表情で尋ねてきた。
「ところでさ、この国、どう思う?」
この国、すなわち帝国――――俺たちを召喚した国。
「危険だな。
最近、本を漁ってるんだけど、帝国はどうにもキナ臭いって感じる。」
俺は葉山に帝国の歴史や勇者の伝承など知っていることを掻い摘んで話した。
「どの話も帝国が良すぎるね。」
そう、そうなのだ。
どの話も帝国すごい、帝国万歳って話なのだ。
大日本帝国万歳な状況と似ているのではないのか!?とも俺は考えていた。
「少なくともここの図書館で、本当の帝国の歴史は分からないな」
俺の考えにう~~ん、と唸る葉山。
「まさか、本当に素晴らしい国ってわけじゃないだろうしね。
ナツキはどうするの?」
「もう少し本を読んでみたい。
本当ならすごいチートをもらってすぐに旅に出たりするんだろうけど、それはできないしな。」
「テンプレどおりにはいかないってことだね。」
「葉山はどうするん?」
「あたしは今魔法の勉強をしてるよ。
とにかく自分の身を守れるくらいには強くなるつもり。
余裕があったらナツキも守ってあげるよん。」
「おいおい、フラグが立っちまうぞ!?(笑)」
その後いくつか談笑し、定期的に連絡を取り合うことになった。
俺としては願ったり叶ったり。
いつまでも孤立は厳しいからな。
異世界に来て俺の初めての協力者だ。
ギブアンドテイク!
俺もがんばって情報を集めよう。
次は三日後の夜になった。
場所は人目につかない倉庫近く。
解散してすぐ、俺はベッドに入った。
今日も疲れた。
というより胸が痛い。
いつもよりは早い時間だったが、すぐに眠りについた。
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