第104話 理由
「魔法が使えないってなに?
ネタ?
その冗談は面白くないよ、葉山さん」
「……ネタじゃねーよ」
「……」
透明化の魔法
それさえあれば、
俺たちだけでなく
捕まっていた日本人も含めて
誰にも気づかれず外へ逃げることができる、
そう俺は計画していたのに……
肝心かなめの“魔法”が使えない。
これいかに。
「どーすんだよ!?
ここからどうやって出るんだよ!」
扉の先には見張りの騎士が4名。
自慢じゃないが、無事に切り抜けられる自信はない。
「な!?
人のこと当てにしすぎでしょ!
代案とかないわけ?」
「無いよ!」
「あんた、計画性って言葉知ってる?」
「捕まってたお前にだけは言われたくない」
「あの~」
俺と葉山の言い合いの中、
リアが声を掛けた。
「この部屋からでしたら
別の出口があります」
「「えっ?」」
とことこ、とリアは部屋の奥へ走っていく。
部屋の奥には、小さな机が置いてあった。
暗くて今まで気が付かなかった、
そんな程度の存在感の机だ。
リアはその机の下に潜り込んで――
ギギッと音が発せられる。
机下の壁だと思っていたところに
穴ができていた。
「皇族の方専用の隠し通路です
中は狭いですが、
大人1人ギリギリで通れるようになっています」
「……リアってメイドだよな?」
「え?はい
ナツキ様専属のメイドです!」
メイドって隠し皇族専用の通路も知ってるのか?
疑問を抱きつつも、
リアの笑顔を見て、
まぁいいか、とそれを棚上げした。
「よし、行こう」
出発から10分ほど。
城外へと出ることに成功した。
ここは、見覚えがある。
中庭だ。
リアの洗濯を手伝った場所でもある。
懐かしい。
中庭の茂みに4人は潜む。
「で、どうするの?」
「大まかな流れは
1.大沢達と合流・ステータスプレートの解除
2.日本人の救出
3.脱出
ってところかな」
「計画性って言葉知ってる?」
「臨機応変って言葉知ってる?」
「あの~」
「ん?どうした?」
「ナツキ様はほか異世界の方をお探しなんですよね?」
「そう。なにか知ってる?」
「居場所は知らないんですけど、
心当たりがあります
たぶんですけど
別館の地下ではないかと……」
別館?
そんなものまであるのか
一人感心していると、
葉山がリアに尋ねた。
「どうしてそう思うの?」
「別館の地下以外は
清掃で入ったことがあるんです」
え?じゃぁリアはその場所以外
この広い城のあらゆるところの清掃をしたことがある
ということ?
「すご」
ヤバい、俺という存在が小さすぎて消えそうだ。
リアの笑顔がまぶしすぎる。
俺も頑張らなくては!
「私は一度部屋に戻りたいんだけど……」
「そんな時間があると?」
「レディにこのままでいろ、と?」
俺の服を貸しているとはいえ、
まぁ下着なんてものはもちろん無い
「わかった。わかった」
「それとステータスプレートの解除とか言ってたけど何それ?」
「ああ、それは――」
ステータスプレートとは何ぞやということを簡単にレクチャーする。
今回、ステータスプレートの解除も目的の一つだ。
初めにステータスプレートの契約をしたあの広間に行く必要があることも伝える。
「なるほどね
確かにそれは早めに解除するに限るわ
召喚のことといい、ステータスプレートのことといい
本当に帝国は用意周到にやってくれるわね」
「そうだな。
でもなんで日本人ばかり拉致するんだろうな」
「え?」
葉山が間の抜けた声を出す。
「え?」
思わず俺も同じような声を出してしまった。
今の会話に“え?”が入る要素があったのだろうか?
「ナツキ、
あんた知らないの?」
「何が?」
「いやだから日本人が選ばれている理由」
「え?知ってるの?」
驚きだ。
まさか葉山がそんなことまで知っていたなんて。
「はぁ~~
なんだ知らないのか
まぁいいでしょう
ここは結衣様が教えてあげましょう」
「手短に頼むぞ」
時間が無いのだ。
切実に。
でもこの話は気になっていたことだ
これからのことを考えるに、
聞いておいて損はないだろう。
「私が調べた文献によると
最初の召喚は第2次世界大戦中よ」
「第2次世界大戦中!?
それって100年ほど前のことじゃないかよ」
俺が召喚されたのは2030年
第2次世界大戦といえば、1939年
およそ100年。
「そうよ。
それから帝国は地球からいろいろなモノや人を召喚続けたわ
あらゆる国、あらゆる年齢、各性別、それらを召喚したのよ
アメリカ、ロシア、中国に始まり、
アルゼンチンやギリシャ、ラオス、キルギス、ナイジェリアなんて国名もあったわね
年齢は下はまだ言葉も話せない1歳児から
上は100歳を超えたなんていうものあった。
そして召喚にもっとも適している国、年齢を長い時間をかけて割り出した。
それが日本であり、17歳つまり高2ってこと」
「な、なんで?
その理由は?」
「帝国が欲しているのは、チカラを持つことに抵抗の無い人種で、
そのチカラをもったヒトを意のままに操りたいと帝国は考えていた。
ねぇ、ナツキはチートがもらえるならもらう?」
「そりゃ……
もらうだろうな
チートは欲しい」
俺はチートを貰うことについて抵抗などないと言っても過言ではない。
「“戦争”“戦うこと”への恐怖、憎悪
そういった感情から最もかけ離れている国ってどこかわかる?
戦争をしている国?
核兵器をチラつかせている国?
違う。
徴兵が無い分、銃火器に触れることもない。
けれどアニメや漫画、ゲームなどでそれらに対する好奇心が強い。
大きなチカラを恐れるのではなく、
大きな力に興味を抱く。
恐怖よりも好奇心が勝る。
平和を主張しているのに、戦争に対する本当の認識にかけている
そんな国を帝国は見つけた。
見つけられてしまった。
それが日本よ
帝国は日本をターゲットにしたわ
日本人の様々な年齢の男女を召喚し、
精神的に、肉体的に、
さまざまな実験をして私たち日本人という生態を調べ上げた。
その上で、高校2年生が選ばれた。
大学生では、自身でいろいろ考えて行動しすぎる。
中学生では、未熟過ぎて扱いずらい。
高校生は、肉体的には大人とさして変わりないけれども
精神的にはまだまだ未熟
大人を頼らなければ生きていけない。
高2っていう歳は、将来を意識するには早いと思いつつも、
もう子供ではないと背伸びしたがる
そんな年頃ね
高3になると受験とか就活で“社会”を意識せざるを得ない
だからその手前、高2
よく考えられているわ」
な、なんだよそれ
異世界召喚はお気楽で、楽しい
そんなイメージとはかけ離れた現実。
これが現実。
「ほかにもいろいろ書かれてたわ
全部は覚えられてないけど
でもひとつ言えるのは、
地球は100年前から異世界の侵略を受けていたってことね」
お読みいただきありがとうございます
今日も晴れ




