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無能お荷物の逆転!!異世界転移  作者: 今日も晴れ
第5章 帝国編
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第98話 リアとお姉さん

 


 帝都南東部



「あ、あの黒目黒髪の人を

 探しているんですけど

 心当たりはありませんか?」


「黒目黒髪?

 覚えないな」


「そ、そうですか

 ありがとうございますぅ」




 帝都南東部の宿屋を

 一軒一軒回りはじめて

 すでにひと月が経過していた。

 日々の仕事の関係でリアは、

 週に一度の聖の日しか自由に行動できない。

 そのうえ、聖の日でも“仕事”をしているため、

 宿屋への聞き込みは、

 日が沈んだ遅い時間帯からとなっていた。


 今週の聖の日も例に漏れず、

 リアは宿屋を訪れ、

 ナツキの行方を捜す。


 リアが本格的に宿屋への聞き込みを開始したのには理由がある。

 仕事で洗濯をしている際、

 聞こえてきたのは、

 “黒目黒髪の少年を南部の繁華街で見かけた”という話だった。


 話の内容は、

 その後、繁華街で捕まり、

 奴隷オークションで売られると続いていたのだが、

 リアは、聞いていなかった。

 否、聞こえていなかった。

 探し人(ナツキ)が南部の繁華街にいるかもしれない。

 その部分のみでリアはすぐに行動を起こしてしまった。


 それ以後、

 聖の日の短い休みが来るたびに

 繁華街へ繰り出し、

 宿屋や飲食店を重点的に聞き込みしている。


 本日の時刻は零時を過ぎるころ。

 少女が出歩いていていい時間ではない。


 リアは収穫なく、引き上げようとする。

 が、そんな時、後ろから声を掛けられた。


「お嬢ちゃん

 俺知ってるぜ

 黒目黒髪の男をな」


「えっ?」


 リアが振り返ると

 そこには大柄な男が数人。


「俺たちに付いてきな

 会わせてやるぞ」


「えっと本当ですか?」


「本当だ本当!」


「えっと、あの、その人の名前は……」


「ッチ

 ごちゃごちゃうるせぇーな

 来るのか来ないのかどっちだ?」


「い、いきます」


 十中八九、ウソである。

 それはリアにもわかっていた。

 しかしわずかな望みでさえ、

 今まで掴むことができなかった。

 それゆえ、リアは、一縷(いちる)の望をかけて

 その男たちに付いていくことを決めた。


 繁華街の大通りから、細い路地へ。

 人通りが少なくなり、

 そして男たちとリア以外、誰もいなくなった。


「なぁ嬢ちゃん

 結構いいところ出だろ?」


 来ている服は帝城内で働くときに来ているモノ。

 一国の城の中での服装故、

 上等ではないにしても粗悪品の類ではない。

 帝都の繁華街で少女がひとり、人を探している。

 普通に考えて迷子だ。

 男たちもそう考えた。


「あ、あの黒目黒髪の方は?」


「情報料だ

 どれだけ出せる?」


「えっと……」


 リアはなけなしのお金を見せる。

 2万リグ――リアの給料2月分。


「おお、結構持ってんな」


「それじゃぁ」


「でも、足りないな

 あとは嬢ちゃんを売った金でまかなうさ

 まぁそれでも足りないと思うけどな」


 ――ああ、やっぱりウソだったんですね


 踵を返して逃げ出そうとするリア。

 それを男たちが許すはずもなく、

 リアはすぐに捕まってしまう。


「は、離してください!」


「はははは

 ちょろい嬢ちゃんだぜ

 黒髪なんか知るかよ」

「アニキ、ちょっと楽しみましょうぜ」

「おいおいこんなガキが趣味かよ」

「また出たぜコイツ」

「ガキ好きだよなお前」


 数人が下世話な話で盛り上がる。


 リアは唇を噛み締めた。


 ――ああ、こんな時でも思い出すのは、

 ナツキ様のことなんですね


『自分を大切にしろ』

 そう言ってくれた言葉がよみがえる。


 大切にしたくてもできない。

 弱者は強者に搾取される。

 それはどんなに大切なモノであっても。

 それがこの国であり、この世界だ。


 リアは、決意する。

 結果は同じでも、みっともなくても

 せめて、精いっぱい抵抗しようと。

 何があっても心だけは、と。


「はいは~~い。そこまでね~~」


 場違いな陽気な声。

 リアたちのほうに軽やかに向かってきた人物はそう言った。


「こんな幼気(いたいけ)な女の子を寄ってたかって

 これは人として失格だね」


「んだと!?

 っておいおい

 こっちのねえちゃんはいい体してるな」

「俺もこっちのほうが好みだぜ」


 男たちの関心が突然現れた女性のほうに向く。

 それを感じ、リアは咄嗟に叫ぶ


「に、逃げてください」


「ちょーと目をつむっててね」


「え?」

「あ?」


 一陣の風が吹き、

 男たちは倒れる。


 胸元から液体が飛び散る。


「ぎゃぁぁぁぁぁ」

「いぃぃぃぃっ」


 自身が斬られたことに気が付き、

 男たちは逃げ出す。

 それをその女性は逃がすはずもなく――


 逃げ出した男たちはいずれも数歩は踏み出せたものの、

 その後、体を地面に投げ出すこととなる。

 彼らが再びおきあがることは永遠になかった。


「大丈夫?」


「は、はい。

 助けていただきありがとうございます」


「いいよいいよ

 でもこんなに遅くに

 あなたみたいな子がひとりで出歩くのは危ないよ」


「す、すみません

 人を探していて……」


「どんな人?」


「えっと黒目黒髪の人です」


「へぇ~名前は?」


「ナツキ様です」


「う~~ん

 ごめん、私は知らないかな

 まだその人を探すの?」


「いえ、もう今日は帰ろうかと思います」


「なら送っていくわよ」


 2人は歩き出す。

 ほどなくして帝城の東門近く


「ここ?」


 女性が尋ねる。


「はい、私は城でメイドをしています」


「へぇ~すごいね

 でもここでいいの?

 門はまだ先だけど」


 東門はまだ数十メートル先。


「大丈夫です

 城仕えの者はここから入るようになっています」


 リアは小さな小屋を指し示す

 小屋にも数名の見張りがいたが、

 東門ほどではない。


「あ、あの今日は本当にありがとうございました」


「いいのよ

 困ったときはお互いさま」


「あのお名前をお訊ねしてもよろしいですか」


「私?私はイブ

 また会いましょう」


 その言葉を残してその女性

 ――イブ・サータンは繁華街へと歩き出す。

 近いうちにまた会うことになる、という確信を持って。





お読みいただきありがとうございます

今日も晴れ

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