SS 第3王女 ファナ
時系列:ナツキとの出会う3か月前
シェルミア王国は対帝国政策の一環として、
ガイナス帝国南方に位置する3国、
スイン共和国、イサイ王国、ルマグ王国との
友好関係を深めようと画策していた。
そこで白羽の矢が立ったのは、
王位継承権から遠く、
また国王や第1王子からの信頼も厚い、
第3王女――ファナであった。
シェルミア王国を出発した一行は1年かけて、
ルマグ王国からイサイ王国、スイン共和国へ訪問をする。
どの国も友好的で、
問題なく一行は日程を消化していった。
スイン共和国での視察や会議などがひと段落し、
あとはシェルミア王国に帰国するだけというところで事件は起こった。
******
第3王女が滞在していた屋敷に投げ込まれる火矢。
直後に起こる爆発。
「どうした!!」
丑三つ時。
大きな物音で飛び起きた筆頭近衛騎士、
ステラは近くの騎士に問いかける。
「何者かの襲撃です」
ステラはすぐさま第3王女のもとへ駆け出す。
途中、襲撃グループの数人と出くわすが、
それらを一斬で切り捨て、目的の部屋へ――
「な!?」
目的の部屋の一つ隣、
その部屋の前でステラは足を止めることになる。
襲撃グループは一様に同じ服装で
顔も布で覆われていたため区別がつかない。
だが、ステラは襲撃グループの使う剣術に
北帝流が混じっていることに気が付いていた。
北帝流は基本帝国の騎士に教えられる剣術である。
他国とは違い、冒険者や傭兵が北帝流を教わることは基本出来ない。
そのため、襲撃グループは北帝流を出さないように立ち回っていたが、
逆にその不自然さがステラに確信を与えていた。
これはガイナス帝国によるものだと。
「動くな!」
部屋の中央にはドレスで着飾り、
王位継承権を有する証でもある腕輪をした少女が1人。
それを囲むように襲撃犯が数人。
そして部屋の少し離れたところで
メイドとこの外交についてきた貴族の娘がそれぞれ組み伏せられていた。
――否、貴族の娘の服装をした第3王女が組み伏せられていた。
ステラはこの状況を即座に理解する。
襲撃グループが第3王女と思っているのは、
貴族の娘――ラーシャ・ラルバス。
彼女が機転を利かせたのだろう。
第3王女も理解しているかのように静かにしている。
今回の一連の訪問が、
公務と呼べる初の仕事であったため、
この身代わりが功を奏していた。
「動かない
殿下をどうするつもりだ」
「なぁに、殿下には帝国の視察も行っていただくだけのこと」
襲撃グループは隠そうともせず、帝国の名前を出す。
――つまり、
ステラを生きては帰さないつもりであるということ。
「ならば、正式な手続きを踏んでいただきたい」
既に屋敷全体に火がまわりはじめ、火の粉が舞っている。
「ふっ
そのまま動かずに剣を落とせ」
ステラは、ゆっくりと帯びている剣を床に置く。
「物わかりのいい騎士殿で助かった――
《氷礫》」
鋭く尖った氷がステラの腹部に刺さる。
「ぐっ」
床が赤く染まった。
バランスを崩し、片膝を付く。
「ス、ステラ!?」
静観を決め込んでいたファナが叫ぶ。
「ラーシャ動いてはなりません」
鋭い声が響く。
第3王女としてラーシャがファナを叱咤した。
襲撃犯はこのやり取りで理解した。
――理解させられた。
人質として組み伏せているこの少女が、
シェルミア王国の中でも有数の大貴族
ラルバス家の娘であると。
「思わぬ収穫だな」
以後、ファナは大貴族の娘――ラーシャとして扱われることとなる。
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シェルミア王国西方国境に位置する砦
それよりもさらに西に位置する今は破棄された砦
その一室でファナはため息をついた。
「はぁ~」
「どうしました?」
「居たのですね、レクティナ
いえ、ラーシャのことが心配で……」
「ラーシャですか
あれから随分経ちましたからね~
ファナの身代わりですから生きてはいるでしょうけど……」
レクティナは、ファナに紅茶を渡す。
「ありがとう」
ナツキと共に脱出したファナは、
現在シェルミア王国の西方の破棄された砦で暮らしている。
本来ならすぐにでも首都へと戻るはずだったのだが、
それがとある事情で叶わなくなってしまったのだ。
救出されて以降シェルミア王国の国境を越えてすらいない。
現在ステラ以下十数名が帝国を探っている。
ラーシャの行方と異世界人について、を。
「それにしてもー
簡単に異世界人についてわかりましたね」
「ええ。
ナツキさんがお話された以外にも
かなり多くの異世界人が召喚されているようですね」
「シェルミア王国へ運ばれた記録も出てくる出てくる」
数ヶ月の調査でステラからもたらされた情報は、
ファナの想像を超えるものだった。
異世界人と思しき人々がかなりの数、
奴隷オークションに出されていること。
そして、その一部がシェルミア王国に運ばれていること。
それらがここ最近ではなく、少なくとも5年ほど前から行われていることが分かった。
「帝国との癒着はもう疑いようもありませんね~
第一王子の行方も分かってないみたいですし」
ファナが帝国に襲撃された時期を同じくして、
シェルミア王国第一王子、ファナの兄も消息が途絶えている。
これが単なる偶然とは、ファナには到底思えなかった。
そのため、敵がいるかもしれない本国へは戻らず、
信頼できる近衛と共に、破棄された砦に潜伏している。
「今はまだ動けません
時が来たとき、戦いましょう」
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