第10話 これが努力の差だ!(いや、チートだろ) 前編
「おい、相沢君
君も訓練に参加すべきじゃないか?」
ん?なぜ?
正直煩わしい。
俺は露骨にいやそうな顔をした。
この一週間で帝国はヤバい!と、俺は確信を持ち始めていた。
その帝国のために訓練しているような奴に何かを言われたくはない。
坂本はナツキの表情など気にせず、話を進める。
自身の正しさを疑っていない顔だ。
「俺はいいよ
本を読んでる方が楽しいし。」
ナツキが本を読んでいるということは、クラスのだいたいの奴が知っている。
異世界転生モノの話を知っている奴はクラスにも数人いたから、俺と同じように始めは図書館に行ってるやつもいた。
だが、この坂本が訓練や見学に誘ったのだ。
俺はもともと一人のようなものだったので気にしなかったが、そうでないやつもいた。
特に男子は、逆らって俺のようにハブられるのが、嫌だったようですぐに勇者と行動を共にするようになった。
またオタクな女子、地味子3トリオはイケメン執事に落とされ、午後からホスト通いの状態だ。
「君はまたそうやってクラスの歩調を乱そうとする。
そういうのは感心しないよ。
それに努力すれば君でもレベルは上がる。
もうみんなだいたいレベル10を超えている。
僕や松浦君なんかはレベル20を超えているよ」
そりゃチート持ちだからな。
そんな当たり前なこと言われても。
はいそうですか。
としか、返しようがない。
坂本の声が廊下に響き渡る。
辺りにいた人たちは何事かとこちらを見てくる。
と、そこに天使降臨、日咲さんの登場だ。
「坂本君、無理強いは良くないよ
それに午後は自由時間だしね。」
ああ、ほんと美人だな。
スレンダーな体系で背筋もピンとしている。
颯爽と現れ俺に手を差し伸べてくれる。
異世界じゃなければ、これは完全に恋におちていたレベルだ。
「紅里、僕は相沢君のためを思っていっているんだ。
いくらスキルを持っていないからといって、
ふてくされていつまでも本ばかり読んでいるのは良くない。
それにいつ、僕たちの力が必要になるか分からないんだ。」
おお、ご立派なことだ。
スキルがないから知識を!ってスタンスはきっと説明しても理解されないだろう。
この一週間で坂本を中心としたクラスの中核の連中は、戦争に参加する勢いで訓練している。
なんでも召喚されて1ヶ月経ち、魔力が馴染んだら魔剣術という魔法と剣を組み合わせたものを学ぶらしい。
そして帝都郊外の魔物討伐、果ては迷宮探索なんかも計画しているというから驚きである。
自慢じゃないが、一般人の俺は帝都郊外の魔物レベルでも軽く5回は死ねる自信がある。
意外だったのは、松浦を中心としたヤンキーも坂本と行動を共にしているということだ。
まぁ松浦はあれで頭が回るところがあるからな。
一応俺の居た学校は、それほど偏差値は低くない。
上の下もしくは中の上ってレベルだったからな。
俺が一人考えていると、日咲さんに坂本が詰め寄っている。
いかん。
日咲さんが困っているな。
坂本はそんなこと気にせず、しゃべり続けていた。
「わかった、わかったよ
今日は体験って形だけど参加させてもらえないかな
いきなり剣とか使えないし」
そんなこんなで俺は訓練場に行くことになった。
―――――訓練場
中庭を進んでいくと広いグラウンドのような場所に出た。
そこでは、大勢の騎士が訓練をしていた。
クラスメイトはその一角を借り受け、訓練を行っていた。
俺は、その場所の端っこに陣取り、その風景を遠くから眺める。
それは、想像のはるか上をゆくものだった。
アニメで剣や魔法の戦闘は、好んで観ていた。
だから、そんなものだろうと思っていたが、実際の剣や魔法を使った訓練は、違った。
肌を伝わる風、剣と剣のはじき合う音、何より人の真剣さ、そのどれもがいやおうなしにこれが現実だと突き付けてくる。
確かにこれなら雰囲気にのまれても仕方ない。
訓練を眺めていた俺に、不意に声がかけられた。
「おい、相沢、ちょっと来いよ」
ヤンキーこと松浦である。
手には訓練用の木剣が握られていた。
来ている服もそこら辺の騎士団と同じ。
後ろ姿だけなら、騎士団と見間違えるレベルである。
木剣で肩をたたきながらニヤリと笑っていた。
嫌だな。
行きたくない。
何するか分かってしまったから。
「い、いや、俺はここで見ているだけでいいよ」
丁重にお断りしようとしていると
「見学よりも実際に身体を動かした方がいい。
大丈夫、訓練用の剣だから心配いらないよ」
黙れ、イケメン坂本。
さっき話した時とは違い、こちらも訓練用なのか騎士団の服を着ていた。
腰に剣を携えている姿は、まさに勇者という風格があった。
よく見れば、少し遠くにいたメイドさんたちが熱い視線を送っているではないか。
うっとりしているメイドさんの視線に当然気が付きもせず、坂本は俺のもとに近づいてくる。
残念だったな。
俺にそっちの気はない!!
などと心の中で叫んでみるも、状況は変わらない。
断れない雰囲気に加えて、わざわざ騎士団の人が木剣を持ってきた。
四方をふさがれた気分だ。
あれよあれよで場が整ってしまった。
仕方ない。
こうなりゃやってやるさ
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