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ちっ、いねぇ。

にぎわう、テラスを一通り眺めたが、あいつの姿はなかった。


あいつ…どこにいんだよ。


マジで寝てねぇから、息切れる。走って暑いはずなのに、身体はどんどん冷えていく感じがした。額に冷汗がにじむ。俺は柄にもなく、焦ってた。



東館は、学部が違う俺はめったに来ることはない。

1階、2階と見て回ったが、どこにもいねぇし。3階に上る階段を探していたとこで、続々と人の流れができている空間があった。あっちか?階段を見つけたと同時に、人の流れのその中知っている顔を発見する。サークルによく参加してる女だ。


「高木!!あー、あいつ…水原どこいっか知らね?」


俺は慌てて呼び止める。


「あれぇ?九条なんでこっちの館いんの?」


高木は、普通ならいるはずのねぇ俺の姿を発見し、驚いた顔を見せる。すぐさま、群れを離れ駆け寄ってきた。



「あぁ、ちょっとな。お前さ、水原と一緒の講義とってたよな?今日もう終わり?」


「水原さん?さっきまで一緒の講義受けてた。次私たち空きだよ。私は今日はもう1個あるけど、水原さんたちはとってるか分かんない」


「さっき?部屋どこ?」


「301だけど?」


「悪りぃ、助かった」


「え!?ちょっと九条」


俺はそのまま、階段をかけあがった。


水原、マジで逃げんなよ。





「水原…やっと見つけた。お前電話シカトすんじゃねぇよ」


低い…どこかかすれた声。呼ばれて振り向くと、

そこには、息を切らした九条が立っていた。


…なんで?


雨の中、追いかけてきた九条の…どこかあん時の表情と重なって見えた。


麻友と一緒にいて和やかになった心が再び凍りつく。予期していない状況が舞い降りて、言葉が出ない…。そんな私より先に、隣にいた麻友が発する。


「九条なんの用?あこに構わないでよ」


こういうときの親友はかなり強い声色を使う。

彼はひるまない。


「は!?お前誰?関係ねぇだろ。おい、水原ちょっと来いよ、話あるっつったろ」


腕を無理矢理つかまれる。

私は反射的にそれを振り払ってしまった。



……。

一瞬ピリッとした空気が流れたのを感じた。


麻友は私が心底嫌がっていると思ったのか、さらに強気な態度にでる。


「はぁ!?信じらんない!!私、同じサークルなんだけど。九条、あこ嫌がってるじゃん!!やめてよ!!」



「あー、うるせぇ。水原、お前さ…罰ゲームのことあいつらから聞いたんだろ?」


麻友にかまわず、彼は話を続ける。


『罰ゲーム』という言葉に私は身体が強ばるのを感じた。鼓動が速くなる。


やめて…

聞きたくない


「え!?罰ゲームって何?どういうこと?」


何も知らない親友の発言に私ははっと我に返った。

麻友に心配かけたくないし、知られたくない。


「あ…九条、話聞く!!聞くから…だから」


「なら、来いよ」



腕を再びつかまれ、連れていかれる。講義室に残された麻友は、訳が分からず…


「ちょ、待ってよ、何?」


「九条~!!あんた、あこのこと傷つけたら許さないからね!!」


叫んでいた。






「腕離して!!」


「あ…あー、悪りぃ」


3階の端にある、小さな休憩スペースに来た所で、

九条はようやく腕を離してくれた。

たまたま、誰もいないことにほっとする。

一瞬彼は私の様子を伺うように見た後、言いずらそうに話始めた。


「あー、さっきの続き。お前さ…あれ、罰ゲームはちげぇから」


「違うって何が?」


こんなに冷たい声、自分でも出せるんだと思った。

私の淡々とした態度に、彼は困惑した表情をみせる。


「だから、確かに罰ゲームだったけど…あれは…」


さっきまで、話したくないって…嫌なこと聞きたくないって思ってたはずなのに…。怒りの感情が込み上げてくる。


「私…九条がそういうので、誰とでも…私とできるとか…最低だと思ったよ」


私の怒りに触れ、彼はため息を溢した。

私を見る彼の瞳にもまた、怒りがにじむ。


「最低って何?お前は俺が罰ゲームっつーくだらねぇことだけで、お前とヤったと思ってるわけ?」


なんで九条の方が強気なの?

悪びれる素振りを見せようとしない彼に、怒りが倍増する。


「だって、そうじゃない?九条私のこと好きじゃないってフッたのにするとか、それ以外考えられない!!」


ついに、本音を言ってしまった。九条を見ると、彼は先程とは違い、私の言葉に明らかに動揺を見せた。


「あー、お前さ…俺が好きじゃねぇっつったの覚えてんの?…全部忘れたわけじゃねぇんだな?」


忘れるわけないじゃない…

改めて確認されると、心をえぐられるような気がしてくる。


私はどんどんみじめな気持ちになって、

逃げたいのに、九条に連れてこられて、知りたくないことを知ってしまう。


なのに…

目の前の男は私とは対照的に笑った。

な…なんで、この状況で笑えんの?


「も…もう、いいよ。もうこういう風に九条と話したくない!!麻友心配するし、私行くから」


目線を九条から避けたまま、私は去ろうとする。


「待てよ!!俺は話終わってねぇし、つか勝手に自己完結すんじゃねぇよ。」


「ちょ、離して、痛いってば」


両手首を強引に掴まれ、身動きがとれない。


「……だから、好きだっつってんだろ?お前のこと。」



はあ!?


「好きでヤったに決まってんだろ。バカじゃねぇの?お前だからだろ。他の奴ならしねぇよ。なんで分かんねぇんだよ?」


……。

九条何言ってんの?

意味分かんない。これも罰ゲーム?


黙る私に、不機嫌そうな声がかかる。


「おい、何か言えよ」


「嘘。そんなん嘘だよ」


「はぁ!?なんで嘘つかなきゃなんねぇんだよ?」


「だって…私フラレてるし……罰ゲーム…」


「だから、それは悪かったよ。けど、気持ちなきゃしてねぇから。な、ちゃんとお前のことマジだから」


……。


抱き締められ…耳元でなだめるように優しくささやかれる。甘い言葉…。


九条がこんなことするなんて…


これも嘘?

また罰ゲームのため?


それとも…







『俺も好きだよ』


ほんとに?嬉しい。私のこと好きになってくれるなんて思わなかったから。佐賀、ありがと。大好き。


「佐賀?あいつこないだサヤカとデートっつってたよ」


「え!?水原お前、あいつと付き合ってたのか?マジで?あいつサヤカと付き合ってるっつってたぞ」


嘘だよね?

佐賀、私のこと好きって言ってくれたもん。

信じてる…。信じて…


『亜子…お前なんか勘違いしてね?遊びで何回かやってやっただけじゃん。お前が俺を好きっつーから、仕方なくな。でももうやめっから、じゃあな。』



ドンッ


私は九条を突き飛ばした。


「水原?」


私の行動に、明らかに戸惑いをみせる九条。けど…


「ムリ。そんなん嘘だよ。今さら信じられないよ」


私は彼を置いて逃げた。

傷つきたくない…。

夢見てたはずなのに…けど、信じられなかった。




水原に突き飛ばされた。


『信じられない』マジになった女に毎回言われるセリフ。またかよ。また…


くそっ…


髪をぐしゃぐしゃにする。

どうやったら、お前は俺のこと信じる?



追いかけたい気持ちとは裏腹に…身体は冷えて目の前がサァーっと暗くなる。


ガタッ


やべぇ。俺は壁にもたれかかり、短い呼吸を何度か繰り返す。追いかけらんなかったな…マジでだせぇ。



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