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***



あーダメだ、全然酔わねぇ。

店内には酔っ払った佐井と高松の笑い声が響く。

うるせぇ。苛立つ気持ちを抑えるように煙草をくわえる。リョウは、飲み仲間のリサと2人で先に帰った。



「ねぇ、九条…うち近いんでしょ?この後行っていい?」


さっきまで、群れにいたはずの女が隣に座ってくる。甘えた声…


「お前誰?近けぇけど、ムリ。おい!佐井!!悪りぃ、俺先帰るわ」


立ち上がると、金だけ置いて店を出た。




冷たい風が頬を撫でていく。マジさみぃ。

バックポケットからスマホを取り出す。

時間を確認してぇだけだったのに、なぜかあいつのことが浮かんだ。


……。


もう帰ってるよな?

夜飯ドタキャンされてイラついてたはずなのに、

…俺もどうかしてる。



水原は結局、電話に出なかった。




シャワーを浴びて部屋に戻ると、テーブルに置いたままだったスマホが光り、着信があったことを知らせていた。気づいた俺は、すぐさまスマホを手に取る。


着信あり…『春子』

メールはリョウ、それに知らねぇ奴から数件入っていた。高松にメアドを教えてもらって…とある。

あいつ…勝手に人の連絡先教えるとか、マジありえねぇ。俺は知らねぇ奴からのメールを即行削除した。



***



あいつのことだから、次会ったらドタキャンしたこと気にして謝ってくるって思ってた。


なのに…


あれから、水原と会えてねぇ。

連絡してもでねぇし、数回短いメールをしてみたが、返信さえなかった。


避けられてる気がした。妙に不安になる。ヤッた直後は、あいつに逃げられたり、避けられたりもしたけど、最近それもなくなってたはずだった。



サークルに参加すれば会えんだろうけど、レポートに追われて俺自身顔を出す暇がなかった。寝る時間さえ惜しい毎日だった。



「佐井、お前最近サークル顔出したか?」


「よぉ、九条。最近、声掛けてくんねぇじゃん。また飲み誘えよな」


話ちゃんと聞いてたか?質問に答えろよ。


「悪りぃ、今度な。で、お前サークル行ってんのかって?」



「あ…あー、いや、行ってねぇ。ちょっと隆也先輩にキレられてさ」


話しにくそうに、目の前の男は口ごもる。


「キレた?お前何やったんだよ?」


先輩は強引なとこがあるし、態度もデケーけど、理由なくキレたりするタイプじゃねぇし。



「いや…まぁ、あー、九条お前もサークル行くのやめた方がいいぜ」


「は!?なんでだよ。意味分かんねぇ」


佐井は言うのを一瞬ためらい、俺を見た。はっきりしねぇ態度にイラつき、俺が睨み付けると、ようやく話始める。


「あー、罰ゲームでお前が水原とヤッたのバレた。

…ほら、こないだアヤカとの飲みあったろ?お前先帰ったけど、あの後水原と先輩に会ってさ。俺ら酔っぱらってたし、つい口滑っちまって…」


……。


一気に血の気がひいた。マジかよ。

水原と連絡がつかねぇ原因って…全て納得がいった。


先輩には別に知られても、ぶん殴られるぐらいで済むかもしねんねぇけど…。


あいつは…


俺は舌打ちをし、慌てて電話をかける。何回か鳴らしたが…やはり出ることはなかった。


『水原、話ある。電話出ろよ』


メールだけ入れて、構内を探すけど、見つかんねぇし。





講義中、テーブルの上に置かれたスマホは、音を出さない代わりに、忙しく光を点滅させていた。消えたと思ったらまた光る。いきなり画面に『九条』の文字が浮かび、心がざわつく。


メールも届いた。そんなん出れるわけない。あの夜、九条が私に近づいてきた真意を知ってしまった。バレたことに気づいてないのか、彼から短くて挨拶文のようなメールが何個か届いた。電話も数回。けど…どちらにも私は返せずにいた。



話したくない

会いたくない

これ以上傷つきたくない


いろんな感情でごちゃごちゃだが、「傷つきたくない」というのが一番だった。



これじゃ、前の時と同じ…佐賀の時と。


『亜子…お前なんか勘違いしてね?遊びで何回かやってやっただけじゃん。お前が俺を好きっつーから、仕方なくな。でももうやめっから、じゃあな。』



背中がぞわぞわし、鳥肌が立った。





講義が終わって、みんな一斉に出ていった。

私と麻友はそのまま講義室に残る。


「なんかあった?」


大きく伸びをした後、ふと思いついた…とでも言うように麻友は私の顔をのぞきこむ。


目があって…



5秒後、2人同時に吹き出した。



「も~やめてよ!!麻友変顔すんの」


「いや、あんたもノッたじゃん」


そう…そうなんだけどね…ほんと麻友ってさ。

…いいやつ。


「で?何があったの?あこが私に隠せるわけないんだから、全部話しちゃいなよ」



ほんと…かなわないなぁ。

これでも、精一杯なんでもないようにしていたのに。


「まぁ、だいたい予想はつくけどね、九条?」


ため息をつく、麻友。



「うん。私が頑張ったってムリだったのに、期待しちゃってさ~、ほんとバカみたい。フラれてんのにね」


笑った。だって話すと悲しいんだもん。

泣いたらこないだみたいに、先輩ん時みたいに、気を使わせる。そんなん、嫌だ。



『ねぇ、麻友。罰ゲームだったんだって、私としたの』


九条は仕方なく私と…

そんなことで、できてしまう彼が怖かった。

最低だと思った。

笑う女の人の声も、高松くんたちの声も…


私のこともっと知りたいって言ったのも

ご飯とか遊びたいって言ったのも…


笑ってくれたのも

雨の中追いかけてくれたこと

必死な声も…


全て嘘。

嘘だったんだよ…麻友。


そんなこと全部、麻友には言えなかった。



黙りこみ言えない私を、親友は責めることもせず、「あこ、頑張ったね、えらいぞ~」そう言って笑い、私の背中をバシバシ叩く。



「ちょっ、麻友痛い…」


「じゃ、はい。ごほうび」


鞄から出されたのは、チョコたっぷりのドーナツ。間に生クリームまで入ってる。


「私…ダイエット中」


顔をしかめた私に、彼女は誘惑の笑顔を見せた。


「……食べる。これだけ。ありがと」


「いえ、どういたしまして」


また棒読みな私たちのやり取りに、互いに笑った。

二人で分けあって、甘いあまいドーナツを頬張った。



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