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「和希、今日アヤカたちとの飲み会どうする?」


「悪りぃ、俺パス」


さっき、水原から夜飯OKの返信があったばかりだ。即行断る俺に、驚いた表情を見せるリョウ。



「お前、マジでどうしたんだよ?」


「何が?」


リョウの言いてぇことはだいたい予想がつく。

俺は煙草をくわえ、カチカチとライターを鳴らす。


「春ちゃんから俺んとこ愚痴メールきたぞ。お前春ちゃんいても、遊びで他の女ともヤってたろ。それ春ちゃん許してたじゃん。健気じゃね?なんで今更お前別れる必要あんだよ?」


俺は煙を吐き出した。


「健気ねぇ、そもそも先に男作ったのはあいつの方だぞ」


「え!?マジで?春ちゃん、そうなの?」


「あー、いや…悪りぃ。これ春子と俺の問題だわ。…なんかめんどくせぇ」



「あー、まぁお前も色々あんだな。まっ、それは置いといて…。で?あこちゃんは何でよ?罰ゲームで一回やって終わりだろ。なんで最近一緒にいるわけ?」


メガネ奥、好奇の瞳が光る。

あこちゃんってなんだよ。

いきなり触れて欲しくない話題になり、俺はむせた。


「別に…何もねぇよ。友だちやってんだ」


リョウに向かって俺は笑ってみせた。

これ以上聞くんじゃねぇ…牽制のつもりだった。



「ヤったくせに、今更友だち?ありえねぇ」




『友だち』という奇妙な関係が始まって1か月が経った。あの夜、九条から連絡先を聞かれて、お互い交換することになった。今では短い淡々とした文章だけど、たまにやり取りしたりもする。ご飯食べに誘われたりすることもある。サークルでも話しかけてきたり…ただ女の人の目が痛すぎるけど…。


麻友には、言わなくてもすぐにバレた。


『ちょっと、あこ!!九条と何?どうなってんの?最近仲良くなってない?』


そのまま、経緯を説明した。

もちろん、あの酔っぱらっての出来事は言えるわけないけど。そしたら『それって、脈ありじゃない?』と目を輝かせて言われた。そんなことないのに…フラれたのはついこの間だよ。そのこと、忘れられるわけない。


けど…うざがられて、シカトされたりするより、彼が私との気まずさを気にして、友だちとしてかかわりを持とうとしてくれてることは素直に嬉しく思えた。仮にも一緒のサークルだし…避けるには難しい距離だもん。




「ちょっと、あこ!!まさかあんた昼それだけ?」


私の出した、みるからに小さな弁当箱を見て驚く。そりゃ、麻友でも驚くよね。九条を好きになってから、ダイエットは続けてきたけど…なんか早く痩せたいと思った。


だって、九条の周りにいる女の人はみんなモデルみたいに綺麗で細くて、お洒落だ。目立つ彼の近くにいても見劣りしない。


私は友だちとしてでも…他の女の人の視線が痛い。

『なに、あの子とか』『勘違いしてんじゃないの?和希が相手にするわけないじゃん』といったセリフをわざと聞こえるように言われたことも1度や2度ではない。


そういう時、酷くみじめな気分になる。

『勘違いなんてしてません!!』って否定したくなる。


嘘…


『勘違い…本当にしてないって言える?』


心の奥底でじわじわと込み上げる想い。



九条から話しかけてきたり、2人でご飯食べに行くなんてことある?


少しは特別なんじゃないの?


フラれたけど、これから九条が好きになってくれることもあるかもしれないよ?



『もしかしたら、好きになってもらえる日がくるかも』という期待を消し去ることはできない。


ほんと…どうしようもない。何夢見てんだか…。




『あこちゃん、今日講義後暇ある?(^_^)あるよね~?』


うわ…隆也先輩からまた怖いメールきた。

絶対に嫌な予感するんですけど…


『今日用事あるんで、ムリです!!』


返信したのと同時に、スマホが鳴り危うく落としそうになる。着信『隆也先輩』~♪


『コラ、あこ!!最近付き合い悪いぞ、愛しの隆也先輩がさみしくて泣いてもいいのか?』


『先輩…いったいなんなんですか?』


『お前に会いたいって施設から連絡あったんだよ。ほら、祭りの時、指輪売ってたばーちゃんいたろ?」


指輪のばーちゃん?

温かい、しわくちゃな笑顔が浮かんだ。


『あの、おばあちゃんがどうしたんですか?』


『祭りの時、すごく嬉しかったらしくて、職員さんによると、あこに会いたいって、また会いたいって何度も言ってたらしいんだよ。ただ、最近風邪こじらせて入院してるらしくてさ…来てもらえたらってさ…』


『行きます!!』


即答だった。だって…また笑ってほしい。おばあちゃんが元気になるなら


『お前ならそう言うと思った』


電話越しで優しい声が聞こえた。


『けど、先輩…最初から用件ちゃんと言って下さいよ。怖いメールいらないし』


『だって、お前の反応おもしれぇし。あー、じゃ4時、学生課の自販機前な』




九条との約束は残念だけど…おばあちゃん心配だし。すぐさま、九条へ断りのメールをいれる。


『九条ごめんね、今日急な用事ができてご飯行けなくなりました。本当にごめんね。』



『分かった、また誘う』


九条らしい短いメール。

また誘う…『また』…その2文字に嬉しくなる。




スマホをバックポケットにしまう。


「リョウ、やっぱ今日飲み会行く」


「なになに?急に。顔すげぇこぇーよ、お前?」


「別に何でもねぇ。急に暇になったんだよ」


「あっそう。お前…来んなら、そんな不機嫌な顔すんなよ」




飲んだら少しは気が晴れるかって思ったけど…

やっぱ来んじゃなかった。佐井と高松がいるとか聞いてねぇし。


「アヤカ、今日の服マジで可愛すぎ!!モデルみてぇ」


「あ、これ?こないだ彼氏が買ってくれて…」


興味ねぇ…。佐井と高松は楽しそうだ。


「マジで!?彼氏いるとか聞いてねぇし、こないだいねぇって言ってたのに…」


「だって、付き合ってまだ3日だもん」


語尾に媚が入ってる。佐井と高松はどうしても、アヤカとどうにかなりたいらしい。2人で取り合いすんのか?彼氏いるっつってんのに?


アヤカは男を転がすのが上手い。

ある意味すげぇ女…。


「悪りぃ、あいつら混ぜろってうるせぇから、今回誘った。お前に言うの忘れてたわ」


リョウが申し訳なさそうな様子を見せる。


「あー、別にお前のせいじゃねぇし」


佐井と高松は正直合わねぇ。けど、リョウの知り合いだから、話さねぇわけにもいかねぇし、適当にやってる。




すっかり遅くなってしまった。

金曜の夜だからか、駅前はサラリーマンやOLさんで賑わっていた。サークルの飲み会かな?…集団の学生もいる。


「けど…思ってたより、元気そうでよかったな」


「はい、ほんとよかった…」


見舞いにと言うぐらいだから、病状がよっぽど深刻なのかという不安を抱え、隆也先輩と私は、緊張しながら教えてもらった病院を訪ねた。


着いた時は、おばあちゃんは寝てて…付き添いの家族の方と少しだけ話すことができた。来たことをすごく感謝されて…


「母がお世話になりました。母はお祭りで、自分が作ったものを喜んで一緒に売ってくれたり、褒めてもらったのがすごく嬉しかったのね。」


「時々、年のせいもあって覚えていられないことや、上手くできないことがあって…いつもは元気だけど時々すごく悲しそうな顔するのよ。よく分からないけど、ただ、さみしくて…なんだか不安なんだと思うのよ」


「けど…あこちゃんの名前は何度も呼ぶし、覚えてた。それに、すごく嬉しそうに笑うのよ。ほんとにありがとう…隆也君もね。ありがとう」



私たちは、おばあちゃんが起きるの待って、少しだけ顔を見て帰ってきた。お祭りの時と変わらずに笑ってくれた。病状も安定して…来週末には退院できるらしい。…ほっとした。


おばあちゃんが私とのかかわり、思い出をすごく大事にしてくれているのだと思ったら涙がでた。




「あこ、なんか飯食ってく?」


気を張ってた分、ほっとした今確かにお腹減った。

最近、お弁当も小さくしてるから余計に。


「お腹減った~、食べてきたいです」


洋食屋さんでオムライスを食べて(先輩は肉ね…)、お腹いっぱいになって店から出た直後だった、騒ぐ集団の数人に見覚えがあった。あっちも気づく…


「あれ、隆也先輩と水原じゃん、こんなとこで何してんの?」


「え~、誰、何知り合い?」


知らない人から、私と先輩に視線がそそがれる。


「飯食ってたんだよ。佐井、高松お前ら酔いつぶれて迷惑かけんじゃねぇぞ、つか、サークルちゃんと来いよ」


呆れた様子で先輩は言う。


「分かってますって」


「サークルって何?聞いたことないんだけど」


綺麗なお姉さんが佐井くんの腕を引っ張り、聞いてくる。


「あ~?サークル?ボランティアだよ、俺と高松…あと九条もだよ。意外だろ?俺らエライっしょ、マジで?」


「え~、九条も?」


信じられないとか…女の人たち笑ってた。

九条のこと、みんな知ってるみたい…

えらいとか…なんかサークルをバカにされた気分になる。


「お前らなぁ、勝手言いやがって。出禁にすっぞ」


先輩は笑ってるけど、口調が強い。

怒ってるよ…


「 あこ、行くぞ」


その集団から離れて帰ろうとした瞬間


「あ!?そうだ、アヤカ~、九条の奴、あいつ…あの女とヤッたんだぜ?罰ゲームで。マジうけるだろ?」


高松君の笑い声が聞こえた。

そして、「え~、うそでしょ」と笑う女の声。


「マジマジ。あいつ女なら誰とでもヤれっから」


たくさんの視線と、バカにされる笑い声が痛かった。恥ずかしかった…目の前が真っ暗になる。

自分でも身体が震えているのが分かった。



罰ゲーム?



「あこ、お前…」


心配そうな声、私の顔をのぞきこむ。



「あー、そいつらよく嘘つくから、お姉さんたち気をつけなよ。つか、佐井と高松…お前ら出禁な」


久々聞く、先輩の本気でキレた声。


「行くぞ、ほら、あこ!!」


力強い手が私の腕を引っ張っていく。

泣くことさえできなかった…


数分前の私は…


消し去ろうとしても、否定してみてもどこか期待して、叶わないはずの夢を見ていた。



今の自分はこう嘲笑う。


ほら、やっぱりそんなことないじゃない?


好きになってもらえる?

バカじゃないの?


『俺はお前のこと好きじゃねぇけど』


九条の顔が浮かんで、ようやく泣けた。


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