恋に落ちたのは①
恋愛とは無縁だと俺は思っていた。なぜなら、俺は現実と向き合えていなかったからだ。しかし、あの日俺は恵美先輩に恋をした。それは去年の12月頃にさかのぼる。
12月にもなると昼夜問わず寒い。こうも寒いと手がかじかんでしまって、シャッターを切ることすらままならなくなる。
放課後、今日は部活は休みだ。俺は急いで荷物をまとめて、教室を出る。校内はざわざわしていたがそんなことは御構い無しにある場所へ向かう。
写真館星野。古びた建物だが、立派な写真館である。この町でフィルムの現像を行っているのは、この写真館だけだ。
「おじさん。頼んだ現像終わってる?」
「ああ。こないだのフィルムだね。ちょっと待っててくれ。」
と駆け足で頼んだ物を取りに行く。もう歳だろうにパワフルなおじさんである。と考えているとおじさんが写真を持って戻ってくる。
「はい。これが頼まれてた物。相変わらずいい写真を撮るね。ほら、特にこれなんか。」
とおじさんは、恵美先輩の写真を手に取る。
「これのどこがいいんだ?」
と俺はおじさんに問う
「長年写真見てきた私にはわかる。この写真にはお前さんの思いが写っておる。」
「俺の思い?」
写真に思いなんて写るのか?そう考えているとおじさんは、続きを話す。
「写真というのは、被写体だけでなく、撮り手の思いも写り込むんだ。お前さんが、その意味を理解したとき、より良い写真が撮れるだろうな。」
とおじさんは言うが、俺には正直わからなかった。いや、わかろうとしなかったのかもしれない。
現像した写真を受け取り、俺は家に帰る。俺の頭の中は、恵美先輩の写真のことでいっぱいだった。
翌朝、相変わらず寒い。こうも寒いと、学校に行くのがおっくうになる。着替えているとメールの着信音が鳴る。恵美先輩からだ。
『今日は部活があるから、カメラを持って来てね。優しい先輩より♡』
今日は部活があるのか。とりあえずあの写真を渡すか。
放課後、俺は部室へ向かう。写真部の部室は元々は教材を置くための倉庫だった。そのため、部室が小さい。最盛期は10人程いたらしいが、今ではたった2人である。
「そういえばこないだの写真現像してもらった?」
「ええ。これです。」
とアルバムを先輩に差し出す。
「おお〜。相変わらず独特な写真ですな。」
「先輩。あとこれを。」
とあの写真を手渡す。
「ああ〜。そういえばこんなの撮ったねー。」
「出来はどうですかね?」
「ん〜。いいんじゃない?よくわからないけど、この写真からは特別な何かを感じるよ。」
特別な何か。昨日おじさんが言っていた、俺の思いってやつだろうか。
「いい写真撮ってくれて、ありがとうね。」
と恵美先輩が笑顔で、お礼を言ってくれた。そのとき、俺の心臓の心拍数が急激に上がった。
なんなのだろう。この何かもどかしい感覚は?