THE 早朝撮影会
ドサドサ!何が落ちる音がする。その音で眠りから目を覚ます。見れば大量の写真がそこに散らばっていた。そういえば、昨日の夜写真の整理をしていたんだっけ。気がつかないうちに眠りについてしまったのだろう。とりあえず、散らばっていた写真を机に置き、時計を見る。少々早い時間だが学校へ行く準備でもするか、と思った時携帯が鳴る。こんな時間に誰だろうと思って携帯の画面を見ると、『恵美先輩』と表示されていた。すかさず通話ボタンを押す。
「もしもし。恵美先輩ですか?」と応対する。
「そうでーす。写真部の紅一点!須藤恵美でーす。」
とひょうひょうとした答えが返ってくる
「なんですか。こんな時間に。」
と質問する。
「今からさ、写真撮影いかない?」
「今からですか?別にいいですけど」
先輩からの誘いで朝早く写真撮影へ行くことになった。学校の制服に着替え、愛用のトイカメラを首からぶら下げ外に出る。
俺は写真部に所属している。写真部とはいえ俺と3年の恵美先輩の2人だけだが。今年は新入部員が誰1人入らずいわば、廃部寸前である。とはいえ学校行事などでそれなりに使われるため廃部になることはないらしいが。そんなこんな考えていると約束の高台に着く。ここは町を一望できる場所で、俺たちがよく来る撮影スポットの1つである。町を見渡していると、聞き覚えのある声が聞こえる。
「お待たせ〜。 待った?」
「待ってはいないですけど、5分遅刻ですよ。」
「厳しいなぁ。英志君は。」
相変わらずマイペースな人である。約束の時間に5分遅れるとは。いや、俺の気にしすぎであろうか。まあ、今はどうでもいいことだ。
「それではこれより、写真部撮影会を開始します。」
と恵美先輩はキメているようだが、部員が俺しかいないので全く盛り上がらない。
「ちょっとー、英志君。ちゃんと盛り上げてよー。」
「そんなこと言われても、部員が俺しかいないんだから無理がありますよ。」
と先輩の無茶振りを軽くあしらう。
気を取り直して、写真撮影を始める。俺はトイカメラのレンズカバーを外し、ファインダーを覗き込む。左右反転した世界、何もかもが外界と切り離された感じがして、一種の安心感を与えてくれる。
「英志君は相変わらずそのトイカメラ?」
と先輩が質問してくる。俺はその質問に
「普通のカメラじゃ撮れない写真を撮りたいので、変える気はありませんよ。」
と返す。
「ははっ。英志君らしいね。そういう一途なとこ、嫌いじゃないよ。」
一途なところか。まあ、間違ってはいない。カメラのことも、先輩のことも。
そう、俺は恵美先輩のことが好きなのだ。