教え
刀になれ。
刀は鋭く、重く、厳しく、静かで、しなやかで、揺るぎない。ゆえに強靱だ。
世を渡るならば刀になるしかない。これは荒ぶるという意味ではない。
刀の如く精神を造り上げろ。
あたため、練り上げ、鍛え、伸ばし、整え、研ぎ上げ、装え。
渡世には熱き心がいる。
渡世には知恵という粘りがいる。
渡世には打たれ強さがいる。
渡世には先立つ個性がいる。
渡世には乱されぬ精神がいる。
渡世には機会に分け入る鋭さがいる。
渡世には順応する賢さがいる。
直刀では間に合わない。ただ真っ直ぐは突き進むしかできない。それとて生中な精神では成り立たないが、そんな不器用に用はない。
ゆえに刀のそりがいる。世に沿わせたそりがいる。悪意、弱志を引き切るそりがいる。
刀とはなにか? それは己の精神。
精神とはなにか? それは内に携えた天秤。
天秤が振れれば、切っ先はぶれる。
刀とはなにか? その問いをつねに自分の片隅に持て。
よくよく工夫あるべし。
世には跳梁跋扈の悪がいる。
常に心を乱そうと躍起である。
それでも刀は悪戯に振るう物ではない。常に忍ばせる物なり。
刀を振るうときその時は、己の前には悪がいる。
刀を振るうときその時は、己の内には悪がいる。
悪がいるその時こそ、忍んだ刀の出番なり。
刀を構える場所は身体に訊け。なにを切り裂くべきは刀に訊け。
本身の切っ先が切り裂くは、退けるべき二つの事柄なり。
それは悪と弱志なり。
この二つを切り裂く先に、善と勇気が見えてくる。
自分が揺るがぬ一振りなれば、おさめる鞘を探すべし。
鞘とは刀を包む物。優しく刀を包む物。その切れ味を支える物。
刀とは鞘を守る物。正しく鞘を守る物。その優しさを守る物。
鞘とはこれ伴侶なり。
刀とはこれ己なり。
互いに寄り添い、支え合えたなら、仲睦まじく世を渡れ。
此方彼方の境目を、どちらが先に渡るとも、仲睦まじく世を渡れ。
これが刀の道である。
刀とはなにか?
その問いをつねに自分の片隅に持て。
心の刀は変幻自在。常態が造る機会なり。
あたためよ。
練り上げよ。
鍛えよ。
伸べよ。
整えよ。
研ぎ上げよ。
装え。
よくよく工夫あるべし。