悪夢の動物園 - 前編 -
遥かは遠足が楽しみで、セットした目覚ましより早く目を覚ました。カーテンを開けると、そこには雲一つない澄み渡った青空が広がっていた。
『ヤッタ、晴れてる♪』
ウキウキ気分で着替え始めた。
ガサゴソと音を立てていたため、ピエールは目を覚ましてしまった。
『おい、予定より早くないか?』
『あっ、ゴメン。起こしちゃった?』
眠気眼をゴシゴシと擦り、ヨタヨタとおぼつかない足取りでピエールが椅子に座った。
『別に構わない。気にするな……』
いつもなら怒鳴り散らすだろう所を、今日は珍しく大人しく受け入れた。
『ピエールも遠足楽しみ?』
遥はなんとなく聞いてみた。すると、しばらくピエールは黙っていたが口を開いた。
『…………そうだな。……楽しみだな』
窓の外を見つめながら呟いたピエールは、今までに見た事の無い真剣な瞳をしていた。
その時遥は、いつもと違っている理由を特には気にしていなかった。
仕度を済ませ、いつものように彼方と待ち合わせをしていると、フラフラしながら彼方がやってきた。
『ちょっ!? どうしたの!? 何が有ったの!?』
『うん……実は……』
彼方は初めて遠足に行くらしく、皆の前ではクールな素振りを見せていたが、内心ではウキウキのワクワクで眠れなかったらしい。
そんな彼方が可愛く思えた。
学校に着くとみんなも楽しそうにしていた。その中でも、美結だけがやたら目立っていた。
『何? その格好……』
普段ファッション誌を読まない美結は、どれを読んだら良いのかわからず、とりあえず一番可愛いと思った雑誌を購入した。その雑誌こそ、ゴスロリ系のファッション誌だったのだ。
そのため、美結はフランス人形みたいな格好で一際目立ってしまった。後に、彼女にとって黒歴史となるのは言うまでもない……。
『私の青春……終わった……』
涙ぐむ彼女に掛ける声が見つからない。そんな時、彼女に一筋の光が射し込んだ。
『やぁ、おはよう。凄く可愛らしい服だね』
悟が爽やかに話し掛けてきた。
『うわっ、何だよその服!?』
圭吾は奇妙な物を目にしたかの様に驚いていた。
『圭吾、女性にそういう事言っちゃ駄目だよ。センスは人それぞれなんだから』
悟君、フォローになってません……。一筋の光は一瞬で途絶えてしまった。
この日を境に美結のあだ名は【ドールちゃん】になったとか……。
『班長は人数を確認したらバスに乗って〜』
先生の声が響き渡る。
遥達は人数を確認してバスに乗った。すると、そこには既にピエール達がバスに乗り込んでいた。
一瞬ドキッとしたが平常心を保ち、知らないフリをしていた。
『おい遥、エンジェルキーは持ってきたか?』
頭の中にピエールの声が響いてきた。
『うん、一応持ってきたけど……どうかしたの?』
『いや……それが聞きたかっただけだ。気にするな』
ピエールはそれだけ言うと黙り続けていた。
やがて、バスは目的地の動物園に到着した。
『それじゃあ、記念写真を撮ったら班別行動をとってもらうね』
先生が生徒達を集め、記念写真を撮影して、班別行動が始まった。
動物園に入ると、エンジェルキーが僅かに反応をしていた事に、まだ遥達は気付いていなかった。