遠足
その日、教室は騒がしかった。
今は春の遠足の班決めの時間だった。
因みに場所は動物園だ。
もう既に生徒達は遠足気分ではしゃいでいる。
遥は彼方、美結と班になる事にした。
だが、班は五名必要だった。
つまり、あと二人必要なのだ。
しかし、遥はまだクラスに仲の良い子は他に居なかった。
彼方に関しては問題外…。
残る美結だけが希望だった。
班決めは慎重に行わなければならない。
相性の悪い人と組むと折角の楽しい遠足も台無しになってしまうからだ。
『美結ちゃん、私達の未来は君に掛かってる!』
肩をポンッと叩き親指を立て遥は美結に全てを委ねるが、美結もそんなにクラスに馴染めていないのだった。
何故なら、今は5月。
クラス替えをしてまだ一月程だった。
同じクラスになった事の有る子はみんな班が既に決まってしまっていた。
(どうしよう、イタイッ!二人の眼差しが今はとてもイタイッ!)
『望月〜班決まってる?』
クラス1のスポーツマン、【田辺 圭吾】が美結に話しかけてきた。
(美結の名字って望月だったんだ…)
『俺達まだ二人だけなんだよ』
『二人?』
圭吾の後ろには学級委員の【黒木 悟】の姿が有った。
『もし良ければ僕達と同じ班になってくれないかな?』
『はい、勿論です!!(ビシッ)』
美結は悟に惚れていた。
断る理由など、どこにも無かった。
美結はさっきまでと違い気合が入った。
『それじゃあ班長なんだけど…花園さん、やってくれないかな?』
悟の突然の話に遥は戸惑った。
『私なんて新参者だし…それに班長なんて…』
『はい、賛成!』
彼方にとって遥は絶対の存在。
即ち、遥以外の命令など彼方が聞くわけないのだ。
それを踏まえて悟は提案したのだ。
『俺も賛成』
『私もー!』
多数決により遥が班長に決まってしまった。
そして、副班長は悟がする事になった。
その日は班と担当を決めるだけだった。
美結は気持ち悪いくらい機嫌が良くずっと浮かれていた。
よっぽど悟と同じ班になれたのが嬉しかったのだろう。
放課後は本屋に寄ると言って美結は走って先に帰っていった。
遠足に備えてファッション誌を購入するらしい。
『今日の美結ちゃん、元気だったね〜。どうしたんだろ?』
『………さぁ?』
遥と違い、彼方は美結のその理由を解っていた。
だが、「遥には恋愛なんてまだ早い。」 と、親心の様な気持ちで知らないフリをしていた。
一度家に帰り荷物を置くと部屋にはピエールの姿は無かった。
(あれ?ピエール何処に行ったんだろ?)
少し気になったが遥は彼方と約束が有ったので彼方の家に向かった。
『よっ!』
遥が彼方の部屋に入るとそこにはピエールの姿が有った。
『どうしてここに居るの!?』
『私が呼んだの〜』
ドーラがフワフワと近付いてきた。
『私達も遠足に着いて行くからね〜』
それは困った…。
みんなにこの珍妙な生物を見られたら、動物園の動物どころじゃなくなってしまう。
『あ!心配しなくても普通の人には俺達の姿は見えないから安心しろ』
どうやら無駄な心配だったらしい。
『でも、どうして着いて来るの?』
『えっと…それはだな…』
『私達は動物園でデートなの〜』
ピエールが話している最中にドーラが割り込んできた。
(おい、何言って…)
(良いから私に話合わせて)
何か他の理由が有るみたいだが、それを疑う者は誰も居なかった。
そして、遠足当日を迎えた…。