平穏な日常
朝、教室はザワザワと騒がしかった。
『これ、どうなってるの?』
美結は言った。
『何が?』
遥はなんの事だかわからなかった。
『何で空野さんと仲良くなってるの?どんな裏技使ったの?』
ヒソヒソと遥に耳打ちした。
いつもつっけんどんな彼方が、今日は遥と手を繋いで登校したうえ、机をくっつけていたのだから当然の反応だった。
『ヒソヒソしてないで堂々と言ったら?どういう風の吹き回しなの?って』
美結は驚きビクッとした。
『今までわるかったわね』
彼方は目を逸らしながら美結に言った。
不器用ながらも彼方が謝った事に驚き口をポカンと開け、目をまん丸とさせていた。
今日の彼方はいつもに比べると明るかった。
その理由は放課後にわかった。
『今から私の家に来てくれる?』
突然のお呼ばれに遥は驚いたが嬉しかった。
勿論返事はイエスだ。
そして、彼方の住む屋敷へ着くと遥の顔は少し強張った。
門が開くと、そこには彼方の叔父が立っていたからだ。
『君に話したい事があってね』
遥は屋敷の中へと案内された。
高そうな壺や絵画が辺りに飾られ天井にはシャンデリア。
遥が通された部屋はさすがお金持ちといった感じの部屋だった。
フカフカの椅子に腰を掛け彼方の叔父は話し始めた。
『君に言われ私は決心したよ。彼方を正式に私の籍に入れる事をね』
突然の事に遥は驚いた。
彼方の叔父は遥の言葉に感化され彼方を娘として育て事にしたのだった。
『私は今まで彼女を裏切り者の娘としか見ていなかった。彼女を一人の人間として見てあげる事が出来なかった。だが、君に言われて気付いたよ。彼女は立派な私の娘なのだと…。ありがとう』
礼を言われて遥はちょっと照れ臭そうにしていた。
『私こそ生意気な事を言ってしまってごめんなさい』
遥も深く頭を下げて謝罪した。
『いや、君が彼方の友達で本当に良かった。これからも娘を宜しく頼む』
そう言って彼方の叔父、否、父は頭を下げ部屋を出ていった。
『私からも…その……ありがとう。叔父様から全て聞いたわ』
照れなから彼方は言った。
『叔父様?お父様でしょ?それともパパかな?』
『もう、ウルサイわね』
遥が少しからかうと彼方は笑いながら怒っていた。
ちょっと前の彼方からは想像出来ない様なやりとりに遥はとても嬉しく思う。
帰りは屋敷の車で家まで送ってもらった。
その時の母の驚いた顔は思い出すだけで吹き出す程に面白かった。
その夜、幸せを噛み締め遥は眠りについた。