希望
きっと彼方は奪われたキーを探しているに違いない。
遥もキーを探した。
キーを探していれば彼方に会えると思ったからだ。
最後に見せた彼方の涙が遥かを走らせた。
次第に空は曇りだし、雨が降り出した。
空がピカッと光った。
遥は雨の中びしょ濡れになりながらも走り続けた。
ピエールもびしょ濡れになりながら遥を追い掛けた。
『なぁ遥、おかしくないか?』
息を切らせながらピエールは言った。
『何がおかしいの?』
遥はピエールに振り向き訪ねた。
『空が光ってるけど音がしないんだ』
確かに先程から空は激しく何度もピカピカ光ってはいるが雷の音がしなかった。
『キーを奪ったのは空飛ぶ魚………まさかっ!?』
遥は立ち止まり空を見上げた。
『あぁ、多分そのまさかだ』
【モード シューティング】
遥は急いで魔装女神に変身して、雲の上へと向かった。
『彼方ちゃんっ!!』
そこには彼方の姿があった。
彼方は一人で空の上で魚と戦っていたのだった。
空飛ぶ魚は以前とは違い小学校の校舎二つ分位に成長していた。
繁殖したのか数え切れない程の魚もウヨウヨと空を飛んでいた。
『…何!?…また邪魔しに来たの?』
遥に気付き息を切らせながら彼方は言った。
『違うよ!彼方ちゃんを探してたの』
『私を?』
『うん、きっと一人で無理するんじゃないか?って』
『やっぱアンタってウザい。ホント大ッキライ』
彼方は遥をまた突き放す様に言った。
『嫌いでも良いよ。でも、今回は一緒に戦うからっ!』
『邪魔って言ってるでしょ!!』
彼方が遥達に右手を向けると、遥とピエールの身体は光の紐に縛られた。
遥はもがいたがとても解けそうにない。
『バインド!?あの娘、こんな事も出来るのか!?』
ピエールは彼方の力に驚いた。
『まぁ、私が伝授したからねぇ〜』
どこからかドーラがフワフワと現れ近づいてきた。
『なぁ、このバインドを解いてくれないか?』
『ピエールの頼みでもそれは無理かな〜』
ドーラは拒否した。
『だって解いても彼方はまた縛ると思うよ?そしたら彼方の魔力が無駄になっちゃうもん』
なるほどと、ピエールは納得した。
『彼方ちゃん、解いてよ!彼方ちゃんっ!!』
遥の声に耳を傾けずに彼方は魚達と戦い始めた。
遥達がここに来る前からずっと一人で戦い続けていた彼方は限界に近かった。
それでも力を振り絞って一人で魚達に立ち向かっていった。
まだ遥は諦めずなんとかしてバインドを解こうとしていた。
『みんな灰になっちゃえ!!』
彼方は扇子を降って魚達に炎を放つ。
魚達は灰となるが次から次へと魚は彼方へと向かって飛んでいく。
数があまりにも多すぎる。
疲れて彼方の動きが鈍くなっていく。
魚達はそれを見逃さなかった。
次から次へと魚達は彼方に体当たりを仕掛けた。
魚達の攻撃を受け彼方の変身は解けてしまい、空から落ちていく。
遥達のバインドが解け、急いで彼方の元へと飛んでいった。
『彼方ちゃーーーん!!』
遥は彼方を受け止めた。
だが魚達は遥か達に襲い掛かってくる。
『ここは俺が食い止める、その間に何とかしろ』
ピエールは球体で包む様にシールドを貼り二人には足場を作ってあげた。
『私は…まだ、…戦える』
彼方はエンジェルキーを握りしめると立ち上がろうとした。
『駄目だよ立ち上がっちゃ』
『離して!私が戦わなくちゃ!』
無理矢理遥から離れようとする彼方。
『離さない、絶対に離さないから!』
遥は彼方を強く抱きしめた。
『何でそんなに一人で頑張るの?』
遥の問に彼方は動きを止める。
『誰を頼れって言うの?私は今まで一人で生きてきた…。親を早くに無くし親戚をたらい回しにされて…みんな…みんな私を置き去りにしていく…』
彼方の身体は小刻みに震えていた。
『誰にも必要とされないで…何の為に産まれてきたのかわからなかった…。でも、この力を手にして分かったの。私は戦う為に産まれてきたんだって…。だから戦って自分を証明しなきゃいけないのっ!!』
『違うよ』
『っ!?』
『何の為に産まれてきたのかなんて関係ないよ。大切なのは何の為に生きるかだよ。人はね、それを【希望】って呼ぶの』
遥は彼方を優しく包み込んだ。
『アナタに何がわかるっていうの!!』
彼方は怒っていたが声が震えていた。
遥は微笑んで言った。
『わからないよ…。わからないから彼方ちゃんの事知りたいと思うよ』
『嘘だ!そんなの信じられない!』
遥の服を強く握りしめるその手は言葉とは裏腹に強く遥を求めていた。
『今は信じられなくてもいいよ。でも…ゆっくりで良いから信じてほしいな』
『………』
遥は立ち上がって手を差し伸べる。
『一緒に戦おう?』
その言葉に彼方はとまどっていた。
ずっと遥にキツくあたっていたのに優しくされたのだから当然だ。
『私を…裏切らない?』
『うん』
『私を…見捨てない?』
『うん』
『私を…一人にしない?』
『うん』
遥の一生懸命な気持ちが伝わったのか彼方は涙を流し思い切り泣き出した。
(そっか、この子の事がウザい訳でも嫌いな訳でもない。ただ、私にはあまりにも眩しすぎただけだったんだ)
彼方は自分の本当の気持ちに気が付くと涙を拭って遥の手を取り立ち上がった。
『一緒に戦おう、えっと…』
『私は遥。花園 遥だよ彼方ちゃん』
一緒に戦おうと言われ遥はとても嬉しくなった。
『彼方で良い…。私も遥って呼ぶから…』
彼方は産まれて初めて出来た友達に戸惑いながらも照れながら微笑んだ。
不器用ながらも初めて見せるその笑みは、どんな宝石よりも輝いて見えた。
『なぁ、そろそろ限界なんだが…』
そうだった。ピエールが一人でなんとか防いでくれていたのを遥は忘れていた。
『待たせてゴメンね。それじゃいくよ彼方』
『うん、遥』
【タイプ フレイム】
彼方はエンジェルキーを掲げ魔装女神に変身した。
彼方の心が晴れると同時に雨雲も消え去り空は晴れ渡っていた。
『私が援護するから彼方はあの巨大な魚を!』
『わかった』
彼方は巨大魚に向かって真直ぐ飛んでいった。
遥は小さな魚の群れを散弾で撃ち落としていく。
遥の援護により彼方は巨大魚の元へと辿り着いた。
『全てを焼き尽くせ』
【フレイムサークル】
大きな筒状の炎が巨大魚の身体を焼き尽くしていく。
巨大魚の中にエンジェルキーが見えた。
その時、エンジェルキーは光り出し巨大魚の身体を修復していった。
エンジェルキーによる【再生】。
『そんな…』
彼方が諦めかけたその時、遥は言った。
『諦めちゃダメ!もう一回やるよ』
遥の声で彼方はやる気を取り戻し、もう一度巨大魚の身体を焼き尽くしていった。
すると、遥が巨大魚に向かって猛スピードで飛んでいった。
『開け、第二の扉』
遥はもう一つのエンジェルキーを掲げた。
【モード ストライク】
魔装をシューティングよりスピードの出る接近型のストライクへと変換させた。
しかし、巨大魚の身体は少しずつ修復されていく。
このままでは遥は間に合わない。
『開け、第二の扉』
【タイプ アクア】
彼方も魔装を変換させると、水圧で巨大魚の修復されていく身体を抑えだした。
『遥!今のうちに!』
『うん!!』
遥は巨大魚のエンジェルキーを掴むと大剣で巨大魚を斬り裂いた。
エンジェルキーを無くした巨大魚は粒子となって消えていった。
他の魚達もソレと同じく消え去ったのだった。
(私は遥の為に生きたい。遥が私の希望)
彼方の表情は晴れ晴れとしていた。
『アレがエンジェルキーの力…』
遠くから男はその戦いの全てを観ていた…。