アレ
あれから何日か経ったが悪魔は現れなかった。
そして、彼方もあの日から学校を休んでいる。
怪我が治りきっていないのか?
心配する遥は彼方の家へ行き様子を伺いたいと思っていた。
クラスに彼方の家の場所を知る子がいたので住所を聞いてはさっそく放課後家へ向かった。
『うわー大きなお家〜』
お金持ちの大きな家だと聞いていたが遥の予想を超えていた。
インターフォンを押すと使いの者が対応した。『あのぉ〜、大空 彼方のクラスメイトですけど彼方ちゃんは居ますか?』
遥が言うと門が開いた。
扉の前に行くと使いの者が出てきてこう言った。
『生憎お嬢様にお会いする事はできません』
『それはどうしてですか?』
遥の問に頭を下げるだけの使いの者に対し遥は怒りを感じた。
『何で会えないのですか?理由を話して下さい』
遥が何度もそう言うと使いの者は困った顔をした。
すると、屋敷の中から男が現れた。
『どうした?騒がしい』
使いの者は男に頭を下げた。
『旦那様申し訳ありません、彼方お嬢様のクラスメイトがみえまして…』
旦那様という事はこの男はこの屋敷の主という事だろうか…。
『【アレ】のクラスメイト?珍しいな』
男は驚いた。
『すまないが、数日前に家を出たきり帰っていなくてね』
彼方は屋敷に居ないらしい。
使いの者はそれを隠そうとして理由を言わなかったのだろう。
『そうですか…』
遥は頭を下げるとこう言った。
『彼方ちゃんが居ないのはわかりました。でも謝って下さい』
遥は男を真っ直ぐ見つめた。
『謝る?』
男は問う。
『私じゃなくて彼方ちゃんにです』
『何を謝れと?』
『先程貴方は彼方ちゃんを【アレ】と呼びましたよね?彼方ちゃんは物じゃありません!』
遥は男の言葉を聞き逃してはいなかった。
『何故私が【アレ】に謝らなければならないのだね?』
遥の怒りは爆発寸前だったが理性でその場を持ち堪えた。
『貴方は彼方ちゃんの父親ですよね?父親が娘を【アレ】呼ばわりしたら可哀想です!』
男は笑った。
『生憎私は【アレ】の叔父であり父親ではないのでね』
そう、遥は知らなかった。彼方の両親は彼方が幼い頃に亡くなっている事を。
『それでも謝って下さい!失礼します!』
頭を下げ屋敷を出ようとする遥に男は言った。
『君、名前は?』
遥は振り向いた。
『花園 遥』
それだけ言って遥はスタスタと屋敷を後にした。
彼方は数日間家に帰っていなかった。
今、彼女は何処に居るのだろうか?
なぜ帰ってこないのか…。
そんな事を遥は考えていた。
彼女の事はまだよく知らないが、なんとなくなら遥にもわかる。
もしかしたら今頃奪われたキーを探しているのかもしれない。
いや、そうに違いない。
遥は走り出した。
行く宛もなくただ奪われたエンジェルキーを求めて。